2017年11月 No.102
 

アロン化成鰍フ介護用品ブランド「安寿」

高齢者の自立支援、介護者の負担軽減を追求する多彩な製品群

 ここからは、福祉介護用樹脂製品の具体的な開発の動きを見ていきます。最初に登場するのは、ポータブルトイレや入浴用いすなどの介護用品ブランド「安寿(あんじゅ)」を展開するアロン化成梶i杉浦伸一社長/本社 東京都港区)。高齢者の自立支援と介護予防、さらには介護者の負担軽減などを追求した同社のものづくりは、前項(本多勇教授のインタビュー)で指摘された現場の声とも呼応する多彩な製品群を生み出し続けています。

入浴用いす   尿器   ポータブルトイレ
入浴用いす   尿器   ポータブルトイレ

●介護現場の人材不足を補う

事業の説明をしていただいた小林グループリーダー(左)と岡部主事
事業の説明をしていただいた小林グループリーダー(左)と岡部主事
 アロン化成鰍ヘ、もともと管・継手、排水マスなどを主力とするプラスチックの総合成形メーカーで、前身となる東亜樹脂工業鰍ヘ、1951年に日本初の塩ビ管製造に成功したことで知られます。
 同社が介護用品の分野に参入したのは、1972年の介護用ポータブルトイレの開発から。45年も前に介護分野の重要性に着目したことは、注目に値する先見性といえます。以来、トイレおよび排泄回り、入浴回り、移動補助、介護予防、住宅改修などの分野で次々と製品開発を進めて品揃えを拡大。1993年には、「お年寄りに安心して長生きしてもらいたい」という思いを込めて、「安寿」ブランドを立ち上げ、高齢者の自立支援に基本を置いた総合福祉用具メーカーとして取り組みを続けています。
 「人の介助がなくても自分で出来る、介護の現場での人材不足を補う、というのが当社のものづくり提案の基本。2000年の介護保険制度のスタートとともに、当社の製品は特定福祉用具・特定介護予防福祉用具として補助対象となっており(年間10万円を上限として購入費用の9割補助)、介護用品業界ではトップのシェアを占めるまでに成長した」(管材事業部 管材企画グループの小林剛士グループリーダー)

●進化するポータブルトイレ

簡易型設置洋式トイレ
こちらは、和式トイレの上にかぶせるだけで、簡単に洋式に替えられる簡易型設置洋式トイレ。足腰への負担を緩和します。(写真は段差のあるトイレの場合。段差なしトイレ用の製品も揃っています)
 
FX-CPシリーズ
大ヒットのFX-CPシリーズ
 以下、同社の主力製品を順に見ていくこととします。まずポータブルトイレについては、従来の樹脂製(主材はPPやPE)のほか、ラバーウッドを使った家具調の2種類があり、「家具調はデザイン性に優れるが、樹脂製は簡単に水洗いできてメンテナンスが楽なのが特徴。便座はいずれも抗菌加工を施したプラスチック製ですが、サイズやひじ掛け(はね上げ式か固定)、色などの違いで様々なタイプが揃っているので、それぞれの必要に応じてお選びいただけます」(ライフサポート事業部 企画グループの岡部主事)。
 中でも2003年に発売された樹脂製ポータブルトイレFX-CPシリーズは、はね上げ式のひじ掛け、握りやすいアシストグリップなどの機能を駆使して、ベッド脇のポータブルトイレまで座ったまま移動できるよう設計されており、販売累計60万台を超える大ヒット商品となっています。
 最近では、カーテンや室内に臭いが付着するのを防ぐ脱臭機能付きのトイレ(電力吸引した後、吸着剤で99%臭いを除去)、排水管と接続して通常の水洗トイレと同様に使用できる水洗式ポータブルトイレ(介護ロボット。安寿ブランドとは別事業)といった最新タイプも登場するなど、同社のポータブルトイレはまだまだ進化し続けています。
 一方、排泄回りの製品で注目されるのが、最新式の塩ビ製尿器(し瓶)。「病院や施設ではまだ結構ガラス製のものが使われているが、肌に冷たかったり重たかったりするのが難点。この製品は本体に塩ビ、尿受口には柔らかいエラストマー樹脂を使用しているので、軽くて肌にやさしい」(岡部主事)。尿の逆流を防止できる逆止弁構造、介助なしで自力で用を足したい人のために考案された自立用把手(フィットグリップ。女性用のみ。冒頭の写真参照)なども同社ならではの工夫といえます。

●入浴回り3点セット

バスタブに取り付けたバスボードとセーフティバー
バスタブに取り付けたバスボードとセーフティバー

 入浴回りの製品では、入浴用いす(シャワーベンチ)、高さ調節付き浴槽手すり、浴槽台の3点セットがメイン。このうち、入浴用いすは「折りたたみ機能があり、使わない間はコンパクトに収納できるタイプ」が近年の主流で、使用者の身体能力レベル(座った姿勢が保持できない、浴槽への移乗が困難、など)や浴室の広さに応じて、最適なタイプを選択できる品揃えとなっています。
 アロン独自のアイデアが光るのが、バスタブに取り付けて、入浴時の動作を助けるバスボード。キノコ型のグリップ(左下の写真、赤い丸の部分)、腰掛けにも使える座面などを組み合わせることで、介助なしでの入浴を可能にしています。はね上げ式の座面は、裏側が枕状になっているので、リラックスした姿勢で入浴できるのも特長のひとつ。
 また、高さ調節付き浴槽手すりは、洗い場での動作や浴槽への移動を補助する製品で「この3セットがあれば、浴槽回りのケアは最低限できるということで、病院や施設などで多く利用されている」(岡部主事)とのことです。

高さ調節付き浴槽手すり(左)と浴槽台(右)
高さ調節付き浴槽手すり(左)と浴槽台(右)
 このほかの入浴回り製品としては、浴槽に沈めて、出入りする際の踏み台やイスなどに利用する高さ調節付き浴槽台、住宅改修用として開発されたセーフティバーなども要注目。特にアルミの芯材に塩ビを被服したセーフティバーは、一般的な丸型形状でなく楕円型を採用しているほか、塩ビ被服にもディンプル加工(凹凸加工)を施して、より高い安全性を実現しています。

●高品質で安全な製品作り

 以上見てきたとおり、同社の製品開発には「介護の現場や日常生活の中で真に求められる機能や形、考え方」を盛り込むという姿勢が明確に認められますが、小林グループリーダーは今後の事業展開について「財政難の中で介護保険制度の見直しが進み、こういう福祉用具が本当に必要なのかという議論も出ている。我々としては、高品質で安全な製品を作り続けて有用性を国に提言していきたいと思う。そのために、2011年にはポータブルトイレのJIS規格も制定している」と語っています。