ソフビ金型のパイオニア。(株)カミジョー
彫金からソフビ金型へ、息づく伝統の技。ネット時代で新たな展開も
ソフトビニルを略してソフビ。そのソフビで作ったアナログ感あふれる人形や玩具は、デジタル全盛の今でも根強い人気を持っています。モールドメーカー(株)カミジョー(埼玉県三郷市)は、金型づくりを通じて日本のソフビ文化を支えてきたパイオニア。同社の歴史をたどりつつ、ソフビフィギュアをめぐる新たな動きに目を向けます。 |
●下町の文化遺産
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五代目・上條社長 |
今年で創業110年を迎えたモールドメーカー(株)カミジョー(会社化は昭和24年、同61年に現社名に変更)。その技術的ルーツは伝統工芸の江戸彫金にまで遡ります。
「江戸彫金の職人だった初代・上條是美が明治40年に東京向島に彫金工房を開いたのが当社の起源。その後、二代目上條善吉の時代には葛飾区に移ってセルロイド玩具の金型作り、戦後はセルロイドに取って代わったソフビ玩具の金型作りへと変遷を重ねてきましたが、根底に脈々と流れているのは、初代から受け継いだ彫金工芸の技術です」と説明するのは、若き五代目社長・上條眞徳氏。
鋳物に鏨(たがね)で模様を彫り、磨き上げて美しい美術品に仕上げるという彫金の伝統技術が、あのソフビ人形の奥に息づいている。カミジョーの金型が「下町の文化遺産」と呼ばれる所以です。
●ゴジラ、オバQ、リカちゃん人形 etc.
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国産ソフビ金型の第一号。二つ割りの型をネジで留め、中に塩ビのゾルを流し込んでオーブンで加熱する。 |
同社のソフビ金型作りは、戦後アメリカから入ってきたバービー人形を何とか国産化したいという依頼から始まりました。
「製品は入ってきたが、金型の技術までは入ってこなかったので作り方がわからない。それではセルロイド金型技術を応用してみようということで作ったのが、割型と呼ばれる真鍮の金型。ただ、二つ割なのでパーティングラインが出て商品価値が下がってしまう。そんな中、アメリカではどのように作っているのか情報を得たのが、銅電気鋳造による金型製作法でした」
銅電気鋳造とは、ロウで作った原型に電気処理で銅メッキを施して金型を作る技術で、この技術導入により同社の事業は軌道に乗ることとなります(写真参照。❶〜❼までがカミジョーの仕事)。
全盛期は昭和30〜40年代。「女児玩具の金型ならカミジョー」という評価が定まり、様々な人形をはじめ、ゴジラ、オバQといった怪獣映画やアニメのキャラクター、さらには玩具メーカー・タカラ(現タカラトミー)のリカちゃん人形の頭部も同社の金型で作られたものでした(昭和42年)。
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❶ 粘土や樹脂で原型を作る |
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❷ 原型からロウ型を作る |
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❸ ロウ型に銅メッキを施す |
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❹ ロウを溶かして溶接 |
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❺ 加工 |
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❻ 仕上げ(つや消しなど) |
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❼ 金型の完成 |
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❽ 成形・彩色(各メーカー) |
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❾ 製品化(各メーカー) |
●低迷期から回復期へ
やがて時代は平成に入り、同社の事業も大きな岐路を迎えることに。「ソフビメーカーが皆中国や韓国に拠点を移し国内の仕事が激減したのです。金型作りもコンピュータ化による金型成型が主流になり、うちのように人手が関わるアナログの型作りはどんどん姿を消していきました」上條社長がサラリーマンを止めて家業を継ぐ決意をしたのはまさにこの低迷の時期(社長就任は平成26年)。「子供の頃から見てきて愛着の深い金型をここでダメにしたくないと思ったからです」
しかし、回復のきっかけは意外に早く訪れました。「会社に入ったころ父(四代目上條靖典氏)によく言われたのは『今はリカちゃん人形のような大量生産の時代ではない。多品種少量でもいっぱい顧客を集めればいい』ということ。この言葉で個人需要を掘り下げる路線を強化していくことにしました」
そこに訪れたインターネットの時代。折から、テレビ番組をきっかけに起こったソフビブームも重なって、同社が進めてきた個人路線は次第に活性化の動きを見せ始めます。
●『個の時代』にマッチした動き
「個人が自分で原型をデザインしてうちに金型を依頼してくるケースが増えました。我々はその造形を見て『ここは金型にしたときトラブルになるのでこういう形状に変更できますか?』といったコンサルタントをしながら原型を仕上げてもらうわけです。その金型で成形工場に数十個程度の小ロットでフィギュアを作ってもらい、自分で仕上げの塗装や包装をしてネットに載せると、時には爆発的な人気になったりする。これまではソフビの世界に個人が飛び込むなど考えられなかったし、世界に一点だけの自分のものが出来るんだと認識されてきた。ソフビはそういう作り手の思いを込めやすいし、希少なものを求める『個の時代』にもマッチした動きと言えます」
現在、銅電気鋳造による金型製作を行っているのは3社のみ。「究極のアナログだが、逆に仕事が集中して注文が途切れない。余裕があるわけではないが、いずれ銅電気鋳造の技術を生かして、ご先祖さまが作った美術工芸品のようなソフビを自分のアイデアで作れたらとも考えている。アーティストになる気はないが、そんな計画が頭の隅にある」と上條社長。伝統は生き続ける。
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