2017年7月 No.101
 

より多彩に、より繊細に。
東リ(株)に見るタイルカーペット最新事情

製品の付加価値を高める豊かなデザイン性と長寿命設計。
リサイクルにも対応

 1919年に天然素材を原料としたリノリウムを開発して以来、常に新しい床材を提案し続けてきた東リ(株)(永嶋元博社長 本社/兵庫県伊丹市)。フロアの美観を高める床材にとってデザインが如何に重要な意味を持つのか。また長寿命設計やリサイクルといった環境対応はどこまで進んでいるのか。その一端を知る事例として、同社のタイルカーペットをめぐる最新事情を取材しました。

「ソコイタリ」シリーズ   「ソコイタリ クラシック」
「和」をデザインコンセプトにした
「ソコイタリ」シリーズ
  同シリーズの第2弾
「ソコイタリ クラシック」

●商業施設やシティホテルの床にも

佐藤部長
佐藤部長
 オフィスや住宅の室内環境を彩り、柔軟で安全な歩行を支える塩ビ製床材。塩ビを使用した床材には、タイルカーペットや床タイル、床シートなど、用途に応じて様々な製品がそろっていますが、今回注目するタイルカーペットは50cm角のパネル状で、表面の繊維層に塩ビのバッキング層を貼り合わせたもの。施工や部分的な取り替えが容易で、好みに応じて色・柄の組み合わせも自在に楽しめることなどから、オフィスはもちろん、近年は商業施設やシティホテルなどまで広く普及しています。
 しかし、東リが国産初の塩ビバックタイルカーぺット「GA-100」を発売した当時(1983年)、床材のデザイン性に対するユーザーの関心はそれほど高くはなかったのだと言います。
 
GA100
タイルカーペットのスタンダードGA100
「床材というのは本来あまり目立たない製品で、家電や自動車などと違ってデザイン性が認められにくい分野だったのです。変化のきっかけとなったのは通産省(現経済産業省)による1984年のインテリアコーディネーター制度(住宅の改装や模様替えなどについて専門的な助言・提言を行う資格制度。運営団体は公益社団法人インテリア産業協会)や、1987年のニューオフィス推進協議会(NOPA=IT化やグローバル化の急速な進展に伴うワークオフィスのあり方を進言する諮問機関)が創設されて以降、快適性や知的生産性の高まりとともにタイルカーペットもようやく内装材として意匠性が求められるようになり、当社でもより意匠性の高いGXシリーズなどの開発に取り組んできました」(同社広報企画部の佐藤弘幸部長の説明)

●グッドデザイン賞計12件の実績

ソコイタリ グランドエアー
2014年度グッドデザイン賞を受賞した
「ソコイタリ グランドエアー」
 そのGXシリーズのひとつとして2004年に登場したのが「ソコイタリ(底至り)」シリーズ。デザインコンセプトを、それまで主流だった欧米風から、日本のオフィスや室内空間にふさわしい和のテイストへと転換した画期的な製品で、繊細にして流麗、しかもシンプルで飽きがこないデザインが高く評価され、翌年には2005年度グッドデザイン賞を受賞したほか、より多彩な表現を実現した同シリーズの最新バージョン(第4弾)「ソコイタリ グランドエアー」も2014年度のグッドデザイン賞に選ばれています。
 タイルカーペットにおけるデザインの重要性について佐藤部長は「床材は裏を見ないとどこの会社の製品かも分からない。自社の特徴を出して付加価値を高めるにはデザインという切り口が不可欠です。当社は、市場に評価されるデザインをめざすという思いからグッドデザイン賞にも業界に先駆けてアプローチしており、これまで2005年〜2016年にかけて、ソコイタリ以外の製品も含めて計12件受賞しました」と説明します。

●「オフロケーションシステム」の先進性

花澤参与
花澤参与
 特筆すべきは、タイルカーペットの長寿命化メンテナンスシステム「オフロケーションシステム」が2008年度のグッドデザイン賞を受賞していること。このシステムは、タイルカーペットの洗浄、保管、再施工というローテーションを繰り返すことで、製品の長寿命化と廃棄物の低減を図るリユース手法の一種で、1985年に国内初の取り組みとしてスタート。製品の使用に関する環境設計としては非常に早い事例と言えます(概要は下の図参照)。
 「環境問題への対応という意識はもちろんですが、製品を作った側としては出来るだけ長く使ってもらいたいという思いもある。同時に、このシステムは当社の製品がそうした長寿命化に耐える品質であることの証明であり、次の製品開発にそのデータを反映することもできる。こうしたリユースに耐えられるのは、寸法安定性の高い塩ビのバッキングだからこそだと思います」(広報企画部参与の花澤周志氏の話)
 一方、同社では広域認定制度を利用したタイルカーペットのリサイクルにも取り組んでいます。市中から回収した東リ製タイルカーペット廃材を指定再生工場でリサイクルチップに加工し、それをタイルカーペットのバッキング層に再利用するもので、自社製品の再資源化を進めるクローズドリサイクルシステムのモデルとして、これもまた注目に値する取り組みと言えます。
 「当社は長きに渡ってデザインと環境の両面で取り組んできた歴史がある。デザインとは単に色、柄だけの話ではない。環境負荷を減らし長期使用に耐えるような製品設計もデザインのひとつであり、面白さ、目新しさだけで商品を上市することはできない。売り出す以上は製造者としての責任があるので、ひとつの商品を開発するには非常に長い時間がかかる。それに伴って、デザイナーの役割、育て方も変わってきた。当社がデザイン室を設置してほぼ40年になるが、最近は早い時期に海外の状況を視察させるなどして、使い手の立場に立った商品開発ができるようにしている」と佐藤部長は強調します。

■オフロケーションシステムとは

 オフロケーションシステム タイルカーペットの長寿命化メンテナンスシステム。ユーザーに予備のタイルカーペットを含めて購入してもらい、予備品をメイクアップセンターに保管しておく→使用品の汚れ具合や美観を考慮しながら予備品に交換→汚れたものは厚木市の専用工場で洗浄して再びストック→汚れたものと再交換する。このように洗浄・保管・交換のローテーションを繰り返しながら、全てのタイルカーペットをまんべんなく使用して、フロアの美観維持と長寿命化を実現する。