1994年9月 No.10
 
 

 日立セメント(株)神立資源リサイクルセンター
   セメント技術の応用で廃プラも安全焼却

  

    “焼却の現場シリーズ”第4回目は、茨城県土浦市にある日立セメント株式会社の神立資源リサイクルセンターを取り上げました。同センターは「完全無公害と資源・エネルギーの再利用」をコンセプトに、この6月に操業を開始したばかり。塩ビを含む廃プラ無公害焼却の実践に、またひとつ新たな事例が加わったと言えます。  

セメント業界の古参企業が産廃処理事業に参入した理由

  日立セメント(株木雅浩社長、本社=茨城県日立市)は、株木建設株式会社を中核とする株木グループ42社のひとつで、明治40年に創業されたセメント業界の古参企業です。セメントメーカーと産業廃棄物の焼却事業という取り合わせは、素人目には一見異質な感じを与えるかもしれませんが、同センターの目時守事業部長は「むしろセメント業界こそ産業廃棄物の処理にいちばん適した業界」と強調します。
  「当社では、セメントの生産に伴って発生する産業廃棄物の問題から環境対策についてもいち早く注目していた。セメントを製造するための焼却技術や脱硫技術は原理的に廃棄物の焼却処理とほとんど変わりがなく、このことはセンターを計画する上で大きなヒントとなっている。例えばここで使っているロータリーキルンとストーカーを組み合わせた焼却炉は、セメントを焼くプラントをそのまま応用したようなもので、当社にはそういう技術がたくさん蓄積されている」
 事実、JR日立駅前にある日立セメントの本社工場では、既に昭和63年から廃棄物の焼却処理に取り組んでおり、東京電力と共同で廃熱を工場周辺の施設に冷暖房の熱源として供給するなど、その事業は民間初のプロジェクトとして関係者の注目を集めています。つまり、神立資源リサイクルセンターは、日立セメントが培ってきたこうした技術と実績があって、初めて生まれ得た産廃処理施設と言えるわけです。

 

■ 廃プラの量は2〜3割、塩ビが混ざっても問題なし

  神立資源リサイクルセンターは、JR土浦駅から車でおよそ10分、市の外れに広がる神立千代田工業団地の一画に建っています。場内に足を踏み入れると、緑の多い広々とした敷地、清潔な外観の建物群、そして廃棄物の臭気を感じさせない構造など、施設全体のデザインが隅々まで「地域環境との調和」を重視した設計となっているのがまず目を引きます。
  冒頭に述べたとおり、本誌が同センターの活動に注目する最大の理由は、この施設が塩ビやその他の廃プラスチックを含む産業廃棄物を無公害で安全に焼却しているという点にあります。目時事業部長の話では、廃プラスチックの量は平均して固形ごみ全体の2〜3割程度、日によっては5割を超える時もあるとのことですが、「廃プラ100%でも処理可能。塩ビが入っていても、発生する塩化水素の中和処理は十分に行われており、技術的な問題は全くない」とプラスチック類の焼却には絶対の自信を持っている様子。塩ビ廃棄物の量については正確な数字は把握できないものの、「塩化水素の中和に用いる苛性ソーダの使用量から逆算して、電線被覆や自動車・家電等の破砕ごみ(シュレッダーダスト)などかなりの量の塩ビ製品が入っていることは間違いないが、完全に焼却処理がなされている」と同センターの山崎勇営業部長は説明しています。

■ 焼却炉の設計も廃棄物の高カロリー化に対応

 
  廃プラスチックを含む廃棄物の安全焼却を可能にする上で、神立資源リサイクルセンターの焼却プラントには様々な技術的配慮が施されていますが、焼却炉の能力を高カロリー廃棄物の増加に対応して設計している点も見逃せない要素と言えるようです。再び目時事業部長の説明。「このプラントの処理能力は1日当たり約150トンだが、うち50トンは廃酸や廃アルカリなどの廃液類で、これは廃ガスの冷却用に利用して工業用水の節約に役立てている。従って廃プラスチックや汚泥、ゴム製品、紙などの固形ごみは残りの100トンという計算になるが、我々にとって重要なのは重量よりむしろ発熱量であって、その点で言うとこのプラントの能力はごみ1kg当たり3587kcal×100トンという設計になっており、プラスチックなどの高カロリー廃棄物を問題なく処理できるレベルになっている。これは一般の都市ごみ焼却施設に比べて倍近いキャパシティーだ」。

   

■ 完全焼却こそ無公害のポイント、廃ガス対策も万全

 
  焼却プラントの概要は下に示したフローシートのとおりですが、このプラントは株式会社タクマが設計し、株木建設が施工したもので、発熱量の高いごみと低いごみをバランスよく混ぜ合わせ効率的に焼却できる省エネ型の混合燃焼システムを採用している点に大きな特徴があります。焼却炉は国内最大級(直径4.3m、長さ7m)のロータリーキルンとストーカーを組み合わせ、1000℃近い温度で完全に焼却するシステムとなっていますが、万が一不完全燃焼ガスが発生した場合に備えて二次燃焼も行われており「完全焼却こそ無公害のポイント」という技術的信念を追求する強い姿勢を見ることができます。
  一方、廃ガスについては、廃熱ボイラーで熱回収した後、冷却し、電気集塵機と苛性ソーダによる湿式洗浄で塩化水素などを完全に除去して初めて場外に排出されますが、この際、回収された熱を利用して140℃程度のホットエアーを作り白煙防止(煙突の蒸気を見えなくする)を行うといった細かい対策も実施しているとのことでした。
  以上のように、神立資源リサイクルセンターにおける無公害焼却は、廃棄物の高カロリー化に対応した炉の設計や完全焼却の実践、そして徹底した廃ガス対策などによってしっかりと支えられています。また、詳しく触れるスペースがなくなってしまいましたが、同センターではこのほかにも、焼却灰をセメントの副原料として再利用するなど、セメントメーカーならではのアイデアで様々な資源のリサイクルが進められており、こうした点も含めて、その取り組みにいま関係者の注目が集まっているのです。