1992年6月 No.1
 
  塩ビのリサイクルは海外でも積極的に進められています。私たちは広報活動の一環として、そうした海外のモデル事例についてもできる限り多くの情報を収集し今後の活動に役立てていきたいと考えていますが、本紙ではそれらの情報の中から話題性の高い事例をピックアップして、毎回皆さんにご紹介してみようと思います。そこで今回は、英国最大のスーパーマーケットチェーン・マークス&スペンサーの活動を取り上げてみました。

 

塩ビリサイクルに取り組む英国大手スーパーM&S社
 商品陳列トレーを塩ビに統一、再利用へ

 

● 環境に優しく再生しやすい特性を評価

  英国のマークス&スペンサー(M&S、本社・ロンドン、資本金3億ポンド)は、年商約58億ポンド(約1兆3千億円、1991年)、英国を中心に280の店舗を持つ最大手のスーパーマーケットチェーンです。このM&S社が、トレー類の素材を地球環境の保護と商品パッケージの効率的利用の観点からPVC(塩化ビニル樹脂)に統一することを決定、併せてトレーの大規模なリサイクル事業に乗り出し世界的な反響を呼んでいます。
  M&S社における塩化ビニルの主な用途は、<straight−on−trays>と呼ばれるもので、商品(主にヨーグルトなどの冷蔵食品)の流通用ケースと陳列ケースを兼ねた機能を持っています。商品が数十個入ったこのトレーはそのまま店内の棚の上に並べられ、空になるたびに棚から取り除かれていくシステムで、同社ではこの<straight−on−trays>用のPVCシートを年間約2000トン消費していますが、これまでは一度使用されたトレーは再利用されずに捨てられるままになってきました。
  しかし、環境問題に高い関心を持つ同社では廃棄物低減の具体的な目標として「包装は包装に戻すべきである」との言葉を掲げて、包装資材のリサイクルに取り組むこととなりました。今回の<straight−on−trays>のリサイクルもその一環として着手されたもので、当初はこれに替わる代替品の開発・再使用も検討されましたが、既に 80種類もの異なったデザインが採用されていることなどもあって方針を変更。解決策として、トレーの素材を、一部に使用されている非結晶性PETや配向ポリスチレンを廃してすべてPVCに統一することで、同じ用途への材料のリサイクルを推進するとの決定がなされました。


 

●  今後のリサイクル運動に一石を投じるか?環境先進地・欧州の選択

  では、M&S社がトレーの素材としてPVCを採用した理由は何なのでしょう。同社の環境部長L.RANDALL氏は「包装材料の使用量の低減、顧客にとって魅力のある安全な営業がいかなる場合でも会社の方針である」と、環境問題に対する基本的な姿勢を明らかにした上で、「PVCは大変環境にFRIENDLYな物質だ」と述べています。既に「塩ビって何」の項でもご紹介したとおり、石油のみでは作られない唯一の硬質プラスチックであるPVCは、他のいかなる熱可塑性樹脂より地球環境への悪影響が少なく、かつ再生がたいへん容易であるという特長を持っています。M&S社がPVCへの統一を決定したのはこうした特性を評価したためで、加えて、英国の小売店協会も好ましい包装材としてPVCを支持していることも、今回の決定の重要な要因になったものと考えられます。
  M&S社では既にチェーン内のリサイクル・システムを確立し、上記のリサイクル事業を開始していますが、トレーの用途も食品用ばかりでなくトイレタリー、ギフトおよびホームケアー商品などにまで広がりを見せ始めています。資源再利用の対応策の一環として環境先進地である欧州の企業がPVCを選択したことは、今後のリサイクル運動のあり方に大きな影響を与えそうです。