2014年3月 No.88
 

●こだわって60年

 弊社は今年で設立60周年を迎えます。弊社の仕事は、塩ビやウレタンなどのシートを高周波ウェルダーや熱溶着の技術を使って「空気でふくらむ製品」に加工すること、つまり無形の空気に形を与えることでそれぞれの役割を持たせるようにすることです。その「ふくらませる」という技術にこだわって60年間走り続けてきたわけですが、この間、手掛ける製品も浮き輪、プールといったレジャー用品から、メディカル・介護用品、産業資材用品、防災用品などへと大きく広がってきました。中でも医療・介護用品はうちの主力で、全製品の約70%を占めるまでに成長しています。

 弊社が医療・介護用品に力を入れたのは、全天候型の製品を扱いたいという狙いからです。ご承知のように昭和50年代以降、多くの企業が製造拠点を海外に移すようになりました。弊社は敢えてその流れには乗りませんでした。当時製品が季節もの中心だったので、レジャー用品は夏に売上が上がり、冬場はぐっと落ちてしまうというように、どうしても経営が不安になりがちでした。そこで先代の社長(高井日出夫氏 故人)が日本で空気物に特化することで日本でのものづくりを守るというスタンスに切り替えていきました。

株式会社ハイビックス
 本社は岐阜県瑞穂市。1951年、油紙製造の日置商店が高周波ウェルダーによるビニール製品の加工販売を開始。1954年、日置ビニール工業(株)法人設立。浮き輪やボートなどレジャー用品の製造・輸出を経て、技術力による付加価値の高い製品づくりへとシフト。メディカル・介護用品、産業資材用品など空気の力を使った様々な製品をOEM(他社ブランド製品の製造)として展開している。1990年、(株)ハイビックスに社名変更。日本空気入ビニール製品工業組合 中日本プラスチック製品加工協同組合会員。

   
  エアークッション   介護用浴槽
  ハイビックスが開発した医療・介護用品のいろいろ。ほかにも、リンパマッサージ器具や血圧計の内袋など多様な製品が揃っている(いずれもOEM生産)。
床ずれ防止マットの内部。多数の空気チューブを調節して床ずれを防ぐ

●生かされた介護経験

 祖母が脳梗塞で倒れて、私も母を助けて在宅介護に携わるようになったのは、そんな模索を続けていたころでした。今と違って介護の施設やシステム、用具などほとんどない時代でしたから、母も大変苦労して、シャンプーひとつ取っても、お風呂場まで祖母を連れて行くのは容易なことじゃないわけです。それじゃということで、うちで作っていたボートを改造して寝たきりでも使える洗髪容器みたいなものを作ったり、プールを改造してバスタブを作ったりしてみたんですが、そのときはこれを製品展開しようといった気持ちは、まだありませんでした。
 ところが、日本が世界一の超高齢化社会を迎えて介護ということが大きな社会問題になってくる中で、この記憶が大きなヒントを与えてくれることになりました。結果的に、祖母の介護を経験したことが介護用品の分野に進むきっかけになったわけで、空気で膨らませるという技術を追求し続けてきた末にようやく全天候型の製品にたどり着いたといえます。

●世界と接点を持つこと

 日本のものづくりが弊社の基本スタンスだと申し上げましたが、一方で、日本だけ見ていても、これからのものづくりの力は育ちません。数時間前に海外で起こったことが即日本に影響してくるような世の中にあって、よその国の動きは避けて通れないし、世界の動きをウォッチングし接点を持つことが日本のものづくりを発展させていくことになると思います。そういう意味でIFAI(国際産業ファブリック協会)、そしてIFAIジャパンでの活動は、私にとって非常に有益なものになっています。
 IFAIの場合、ファブリックの材料メーカーだけでなく施工や機械の業者まで、世界各国から会員が参加していて、さまざまな場を通じて意見交換できるので、縦横の新しい情報を入手できます。売上に貢献するというより、経営の視野が広がる。これが最も肝心な点です。

 IFAIジャパンのほうは現在私が会長を務めてさせていただいていますが、IFAIの下部組織として、そのネットワークを活用しつつ、グローバルな視点でものづくりの力が活かせる組織にしたいと思って頑張っているところです。これまで海外の会員を招いてプレゼンテーションを年に数回開催したり、産業繊維マーケットとしての日本の魅力をアピールしたりしてきましたが、今年からは規則が変わってアジア圏内の企業もIFAIジャパンの会員として入会できるようになりますので、日本の会員会社がその付き合いの中からサムシング・ディファレントな部分を見つけて、それぞれで活用していってほしいと思っています。

IFAI(国際産業ファブリック協会)とIFAIジャパン

  • IFAIは、産業繊維、高機能繊維製品の世界的規模での進展、市場開発などを目的とする非営利民間団体(本部は米国ミネソタ州)。米国のテントメーカーが結集して1912年に設立したのが始まりで、現在は材料、施工、機械、その他関連業界までを包括し、世界中に約2000社の会員を擁する。マリーン、自動車、テントなど特定12分野の部会があり、各分野ごとに情報収集などを行っているほか、年1回の国際展示会(IFAI Expo)や数々の国際会議の開催、市場調査・情報データバンクの提供などに取り組んでいる。
  • IFAIジャパンは、IFAI初の国別部会として1994年に設立(兵庫県伊丹市)。現在の会員数は日本国内の関連企業47社。会員相互の交流と同時に、セミナー、シンポジウムの開催、展示会視察旅行、会報の発行などを通じ、産業繊維国際市場に向けた日本企業および日本市場の紹介を積極的に行っている。

●自立と予防

 IFAIの活動に参加していると、介護用品に関してもいろいろ参考になる情報が得られます。もちろん、日本にはない技術をこちらの製品、材料の中に活かしていくといったこともありますが、制度や考え方の違いといった点でも考えさせられることが少なくありません。
 例えば、日本と海外の介護制度を比べると、日本の制度はちょっと複雑すぎるんですね。ドイツなどは医療も介護も全部一緒です。足を骨折したら、お医者さんで処方箋をもらって介護用品のレンタルショップに行くと、ギブスと松葉杖、車椅子まで揃えて2日以内でレンタルしてもらえる。これに対して、日本は医療は医療、介護は介護で別になっている上、介護も要介護と要支援1と2では窓口が違うんです。これがものすごくめんどうくさくて、そのぶんだけ余計にコストがかかっているんじゃないかと考えざるを得ません。もう少し全体で見てシンプルにすれば、もっと財源の問題とかいろいろな面で迅速に手当てできるんではないかと思ってしまいます。
 それと、自立と予防という考え方ですね。日本もその方向へもっと進んでいくことが非常に大事だと思います。日本の場合、高齢者や病人はどうしても寝かせようとする傾向が強いのですが、海外は考え方が違っていて、何とか寝かせないようにするのが主流です。車椅子なんかも電動系のものは少なくて、できるだけ手を動かすようにさせます。社会のバックグラウンドが違うという点を多少考慮するとしても、これはやはり私たちも考えていくべき問題じゃないでしょうか。
 お年寄りが元気で、寝たきりにならず、自立できる環境を作っていく上で、自力で自分のケアができるという形の介護用品が、これからはどんどん必要になってくるという気がします。

●チャンスがいっぱい

 もうひとつ、今後の医療・介護製品の開発の方向を考えると、現場の声、実際に使われる方やケアされる方の声をもっと拾い上げて次の製品開発や改良にフィードバックしていくことが求められるようになると思います。一口に高齢者といっても症状はいろいろで、十把ひとからげに扱うことはできません。現場のさまざまな声にきめ細かく対応していくことこそ、弊社のような小さな会社がこれからやっていくべきことではないかと思っています。60年かけて培ってきた高周波ウェルダーの技術はそのための大きな力になると確信しています。
 繰り返しになりますけど、私は日本のものづくりを無くしたくない。そのためには世界の動きをウォッチングしながら、積極的に外に出ていくことが不可欠です。そうすれば、日本のものづくりにはまだいっぱいチャンスがあると思います。
【取材日2014年1月22日】

略 歴

たかい・じゅんこ

 岐阜県生まれ。大学卒業後、ホテル勤務を経て1992年、(株)ハイビックス入社。2001年、同社代表取締役社長に就任。2012年からIFAIジャパンの会長を務める。

 
 

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