2013年6月 No.85
 

●多摩川の環境問題と関わって30余年

多摩川は今も親子の憩いの場

 多摩川のそば(川崎市多摩区)に生まれ育ったもので、子どもの頃からしょっちゅう父と一緒に釣りに来てました。遊びと言えば多摩川で、休日のたびに、川辺で釣りをしたりガサガサ(網を使った魚とり)をやって遊んでいるうちに、夕方になって母が迎えに来る。それが私の原体験で、多摩川は両親との思い出の川でもあるんです。
 昭和30年代までは漁業も盛んでね。うろ覚えだけど、川の畔にアユや鯉なんかの川魚料理屋が軒を連ねていたり、お大尽が屋形船を浮かべて芸者遊びに興じていたり、そんな川でした。
 自分を育ててくれたその川が、目に見えて汚れてきたのは昭和40年代に入ってから。多摩川というのは水源の70〜80%が生活排水で、山から湧いて出る水じゃないんです。その汚れた生活排水が生のまま流れ込んで死の川になっちゃった。料理屋も漁師も姿を消しました。私はそれを見るのがとにかく悲しくてね。でも当時は自分じゃ何もできないから、汚い中でも遊んでいましたけど、大学生になったときに、釣りクラブの仲間と川原のゴミ清掃をしたことで初めて多摩川の環境問題と関わることになりました。参加者を募るポスターを作って、近所の商店街に貼ってもらってね。初めは反応がなかったけど、実際やってみると散歩の人や釣り人が挙って参加してくれました。そんなことが何回か続いて、だんだん地域とのつながりもできてきて、そこから私の多摩川を守る活動が始まったわけです。昭和52年でした。

■ (株)建設技術研究社と環境NPO
 建設技術研究社は、山崎氏の父が昭和36年に創業したエアシューターなどの建築設備業。山崎氏の入社後から総合環境コンサルタント業に参入。
 ビオトープ(生き物の生息場)の設計施工と維持管理などの他、「ガサガサ水辺の移動水族館」「水辺の安全教育委員会」「生き物ふれあい教室」など、水辺や生物を利用した環境NPOを立ち上げ、そのイベント企画運営をしている。ペットとして飼い切れなくなった外来魚や亀などの生き物を預かり里親探しをする「おさかなポストの会」は、多摩川の生態系を守る活動として評価が高く、テレビ・新聞で取り上げられている。

●「タマゾン川」にしてはいけない

多摩川で捕獲された外来魚

 それ以来ずうっと、多摩川と子どもたち、そして地域の人々を結び付けて何かできないかということばかり考えて続けてきました。幸い、下水道の普及や市民の環境意識の高まりで、多摩川は毎年100万匹ものアユが遡上してくるほどきれいな川になりました。ゴミが散らかっているとうことももう殆どありません。それはそれでほんとうにうれしいんだけど、今度は外来魚の激増という考えもしなかった問題が出てきた。
 いま多摩川には、ブラックバス、アロワナ、ピラニア、噛みつきガメなどのほか、日本国内の他地域から持ち込まれたものもふくめると、200〜250種もの外来魚がいるんですよ。みんな大きくなって自分で飼いきれなったり、飽きられちゃったりして捨てられたものばかりです。これに対して、コイやアユなどの在来種は20種〜30種しかいません。これは生態系の保全という点でとても深刻な問題です。多摩川を「タマゾン川」にしてはいけないんです。
 きれいな多摩川を維持し、本来の生態系を守っていくためには、多摩川をもっともっと好きになって、そこの生き物や環境に思いを寄せる人間を増やしていかなければならない。でも、こういうことって、大人に言ってもなかなか響かないんだね。だから、まずは子どもたちに身をもって多摩川を体験してもらいたいと思って、できることは手当たり次第にいろいろやっているわけです。

●環境出前授業と水辺の安全教育

出前授業で環境教育

 いま最も重きを置いているのは子どもの環境教育ですね。多摩川の生態系の保全をどう考えていくか、何をすればいちばんいいのか、正しい知識と正しい技術をできるだけ正確に伝えるために、総合学習の時間などを使わせてもらって出前授業しています。私の話を聞きたいという所があったら、どこにでも出かけますよ。最近は学校単位、学年単位で呼んでくれるようになって、時には半日も時間を取ってくれる学校もあります。転任した先生が声をかけてくれることもあるし、熱意のある先生たちが声をかけてくれたら、他の県にもどんどん出かけていきます。
川の楽しさと危険を体験する
「水辺の安全教育」
 もうひとつは、水辺の安全教育。多摩川でも毎年悲しい事故が起こります。川は楽しいし面白いけど、気をつけないと死ぬこともあるんだということを知ってほしいんです。だからこの取組は親子参加が基本条件で、ライフジャケットの使い方をはじめ、自分の子供を守るための正しい知識と技術を身に付けてもらいます。
 川で事故が起こったら、親も親戚もその川が嫌いになりますからね。嫌いなった川が汚れていようがきれいだろうが関係なくなってしまうんです。

●命をゴミにするな

 但し、活動資金は殆ど持ち出しなんで、これが頭の痛い問題です。今は「ふれあい移動水族館」なんかで資金を稼いだり、多摩川のアユを獲って都内のデパートやイベントで販売したりもしています。なんたって、いまや私は多摩川で唯一の川漁師だからね。
 ただ、活動資金がほしいからといって無理なことはしたくない。「おさかポスト」でも、外来のサカナをその場で殺して県に報告すれば外来種駆除ということで助成金がもらえますけど、私はそれは絶対にしません。すべて「おさかポスト」で預かって里親探しをするのが基本です。子どもたちにも「命ある生き物なんだから最後までちゃんと飼ってあげよう」ということは必ず話すようにしています。
 「亀でも魚でも生き物だから最後は必ず死ぬ。人間だって最後は死ぬ。でも、死んだ人間は生ゴミとしては捨てない。ちゃんと弔ってあげるよね。それと同じに、どんな生き物も無駄な命はひとつもないんだから、死んだら花壇の隅っこでもいいからちゃんと埋めて、弔ってあげなさい。そして、その後に花の種をひとつ植えてあげなさい。そうすると死んだ命が次の命に繋がっていくんだから、絶対にゴミ箱に捨てちゃいけない」。そう教えています。要は「命をゴミにするな」ということです。

●次世代に引き継ぐ思い

 結局、私の環境活動というのは人づくりなんですね。机上の環境論じゃなくて、膝を汚して川に入り、川を知って、そこに棲むいのちを考えられる人間になってほしいんです。そして、その子どもたちが10年、20年たって自分が親になったときに、「昔お父さんこういうことやったんだ」と教えてあげれば、そこからまた次の世代にその思いが引き継がれていく。それをずうっと続けていけば、確実に同じ思いを共有する人たち、同じ体験を持つ子どもたちが増えていくはずです。
 私の授業を受けて大学生になり、社会人になってボランティアとして帰って来る人も少なくありません。そういう若者は環境活動で将来ちゃんと生活できるようにしてあげたいので、正しい知識と技術は必ず身に着けさせます。適当なことをやって金を取るようになったらお終いですからね。
 ウチの活動を端から眺めていると、何か素敵な事をやっているように見えるんでしょうね。でも、現場の仕事は役人が役所で記者発表するのとはまるで違うんです。死んだ魚や亀を埋めたり、ドロドロになって臭い水に手を突っ込むこともある。環境コンサルタントというと聞こえがいいけど、下手すると浄化槽の中にもぐり込んでウンコの水の中で水質検査しなけりゃならない。そんなことを2、3回やると、ファッションで環境を考えていたような人間は長続きせずに去っていきますが、残る者は一歩ずつ着実に進んで必ず何かを掴むことができる。実際、田舎に帰って移動水族館をやっている人も出てきています。そういう若者が少しずつ地方にも広がりつつあるんです。
【取材日2013.4.10】

略 歴

やまさき・みつあき

 昭和34年、神奈川県川崎市生まれ。日本大学水産学部卒。釣具メーカーを経て、自然環境コンサルタントに。多摩川の環境と生物保護のため、地域や学校と協力し、子どもを対象にした環境教育、川遊び教室、移動水族館などに取り組んでいる。
 日本水大賞審査部会特別賞(2011年)、関東川の日ワークショップ入賞(2012年)などを受賞。著書には『いのちの川』(幻冬舎)、『多摩川のおさかなポスト』(星の輪会)などがあり、『タマゾン川 多摩川でいのちを考える』 (旬報社、2012年)で今年「第60回 産経児童出版文化賞大賞」を受賞した。TBS『どうぶつ奇想天外!』などテレビ出演も多い。川崎河川漁業協同組合総代、川崎市特別派遣講師(理科)、東京都レッドデータブック選定委員などを兼任。

 
 

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