2012年9月 No.82
 

● 海外でも人気

 自分の事務所を立ち上げてから丸2年経ちました。何だか、あっという間でしたけど、周りの人にいろいろ教えてもらいながらどうにかやって来られたという感じです。いまは自分でデザインして、生産もして、納品もして、全部1人でやっていますから、大変は大変ですけど、それは覚悟の上で始めたことなので、つらいとは思っていません。まあ、大変だろうなと思っていたとおりに大変だった、といった感じですね。
 塩ビバッグのほうも、お陰さまで販路が広がってきて、日本国内だけじゃなく、香港や台湾でも結構人気が出ているみたいです。つい先日も、香港の取扱店から追加注文があったばかりで、香港だと税などの関係で販売価格も6万円位になりますから、高いですよね。やっぱりアジアは元気です。
 ただ、あまり販路を広げすぎても良くないなと思っていて、高価な商品ですし、ああいうものをちゃんと扱ってくれるお店にだけ卸すことに決めて、マーケットを絞りながらやっています。

● 塩ビとデザインの掛け合わせ効果

黒河内氏が試作した塩ビ製シャンデリア

 塩ビのバッグを作ってみようと思ったのは、東急ハンズの資材売場でたまたま透明な塩ビシートを見つけたのがキッカケでした。東急ハンズの資材売場って、ネジとかアルミの板とか面白いものがいっぱいあって、これ何かに使えるかも、なんてアイデアを考えるのが好きでよく行くんですけど、塩ビのシートは切り口のエッジがガラスみたいにキラキラ輝いてたり、蛍光色が掛かったのもあったりして、カットしたらさぞ綺麗だろうなと思ったんですね。
 私はデザイナーとして、日常的な素材から全然違う美しさを汲み上げたいといつも思っているので、塩ビシートを見たときもピンときたというか、(株)三宅デザイン事務所で働いていた時もレザーなど様々な素材で鞄のモチーフを試作したことがあるので、それと同じようにカッターを使って植物風のモチーフに切ってみたら、すごく綺麗な面白いものができこれは面白いなと感じました。
 モノがあふれている現代では、その中から何か新しいものを汲み取ろうと思ったら、今注目されている分子料理(食品素材を分子単位で解析、分析し、素材の新たな組み合わせやハーモニーを見いだす調理法。分子ガストロノミー)などの様に、従来の発想にはない異質なもの同士を掛け合わることで思いもしない効果を生む場合があります。塩ビとデザインの掛け合わせもそれと同じです。
 私にとっても塩ビとの出会いは、デザインの幅を広げる上でとても役立ちました。それ(デザインの幅を広げること)は自分がやりたかったことなので、ほんとによかったと感じています。

● チープなイメージを変えるデザインの力

 プラスチックとか塩ビって、昔から日常の中に溢れすぎていて、チープなイメージを植えつけられてしまっていると思うんですね。チープっていうのは、デイリーでカジュアルな場面で見ることが多いというだけのことですけど、そういう固定したイメージを変えられるのがデザインの力だと私は思います。
 例えば塩ビだと、私も含めて今の20代の人たちは、ダイオキシン問題などの影響もほとんど受けていないので、そういう面での塩ビに対する偏見はありませんが、同時に高価なものという価値観もあまり持っていません。
 でも、そこにカットしたり巻いたり編んだりといったデザイン性を与えると、いままでの塩ビのイメージとは違った、まったく新しい場所や用途で使えるものが生まれます。透明な塩ビはそれ自体、ガラスみたいにもゴムみたいにも見える魅力的な素材ですが、私はそれだけではなく、「いったいこれって何だろう」と思わせる面白さをデザインの力で出したかったんです。

● 女性の日常を輝かす新しい価値観

表参道のギャラリー「RAUM」で行われた、「mame」2012年秋冬コレクション展示会から。

 私は自分のデザインに「女性のための戦闘服」というコンセプトを掲げていますが、別に肩肘張ってそんなことを言ってるわけではなくて、女性の日常の中にあるいろいろな機会、仕事に行くとか家事をするとか恋人と食事に行くとか、そういう女性たちの日常の力添えになれる服、っていう意味でこのコンセプトを大切にしています。ですので、私の作る洋服は、いろんな場所、シーンに幅広く対応できるようなデザインが多いんです。
 日本は、公式な場所でフォーマルな衣装を身に付ける文化があまりないし、欧米に比べると食事に行くときのドレスコードとかもかなり緩いですよね。でも、そういう文化も決して無いわけではないので、日常の中で女性はどちらにも転べるような服装をしていることが多い。例えば、同じ洋服でもヒールのある靴を履いたら食事に行けるし、スニーカーにしたら公園に散歩にも行けるといったような服装ですね。
 塩ビのバッグも、そういう女性のファッション感覚に合わせて、お客様が自由に使いこなせばいいと思っています。結婚式やパーティに持っていってもいいし、ビーチやクラブで遊ぶときに持っていってもいい。どんなシーンでも女性の日常を輝かすことのできる、新しい価値観の製品であってほしいんです。
 それは、本当に高価で宝飾品みたいなものを作ろうとしたら、ガラスやクリスタルなんかを使ったほうがいいのかもしれませんけど、それを今の20代の女の子が持つかというと持ちませんよね。私はデザイナーであって、アーティストじゃないので、お客様のニーズに合った売れる商品をちゃんと作るのが役目だと思っています。

● モノづくりの現場を見る大切さ

 これからの希望としては、塩ビを使ってランプシェイドやシャンデリアなんか作ってみたいという気はあるんですけど、問題は劣化防止と耐久性ですね。1年や2年でシャンデリアが黄色く変色してしまったり埃で濁ってしまうようだったら、お客様はたとえもっと高価だとしてもクリスタルガラスのものを買ってしまいます。でも、もしそこが技術的に解決できれば、塩ビの透明感や蛍光色の美しさを生かしたクリスタルガラスにはないデザインが生まれる可能性があると思います。
 そういう問題を解決するには、なぜ埃がつきやすいのかといった技術的な背景をきちんと理解する必要がありますし、その上でないとデザインの力も生かせません。だから、私にとってモノづくりの現場を見て現場の人の話を聞くことはとても大切で、塩ビのバッグも、最初に業界の人にいろいろ教えていただいて取り組めたことが大きかったと思います。

● ファッション・ファクトリーを作りたい

「第2回塩ビフォーラム」
(2010年12月)での講演の模様

 実は私、小さくてもきちんとしたファクトリーの様な組織を作るのが将来の目標なんです。ファッションの世界は国際的な分業化が進んでいて、企画からデザイン、生産まで一貫して高いクオリティのものを1つの国で作れるのは世界的にみてもあまりありません。日本は生地を織るのも、染色も、縫製も一貫してできますけど、ヨーロッパなんかは陸続きということもあってどうしても国を跨いだ作業になってしまいます。ところが、折角そういう利点があるのに、最近は日本も技術がどんどん外に出てしまっている。私は日本の技術がちゃんと国内で回っていけるように、その道の様々なプロの人たちとチームを組んで、ファッションのmame工場みたいなものを作ってみたいんです。

 塩ビのバッグにしても、中国で作ればもっと安くできるのかもしれませんけど、私には飛行機と新幹線ですぐに行ける距離の人たちと一緒に作るのが楽しいし、大事なんです。デザイナーを含めた繊維産業の力は、日本の戦後の成長を支えた要素のひとつですよね。それを私たちの世代で止めてしまうわけにはいかないので、微力ながらお役に立ちたいと思っています。
【取材日2012.7.17】

略 歴
くろごうち・まいこ

 1985年長野県生まれ。2005年文化服装学院在学中にJEUNES CREATEURS DE MODE 2005 日本代表となり、パリ本選で各国最優秀賞を受賞。2006年、文化服装学院卒業後、(株)三宅デザイン事務所に入社。A-POC(エイポック)ブランドの様々なプロジェクトに携わったほか、イッセイ ミヤケのパリコレクションの企画、デザインを担当。 2010年、黒河内デザイン事務所を設立し、ウィメンズ・ラグジュアリー・ブランド「mame」を立ち上げる。塩ビシートを主な素材に使ったバッグ「skeleton」シリーズは、塩ビ製品の世界に新風を吹き込んだ。「保育園児のころからデザイナー志望だった」という、文字どおり天職の人。http://www.mamemamemame.com/

 
 

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