2008年9月 No.66
 

「地域発のサステナビリティ」をめざして

ドイツ直輸入ではない、日本の気候風土・
価値観に根ざした環境対策の必要性

神戸山手大学 現代社会学部 環境文化学科 教授/工学博士
中野 加都子 氏

●「日本とドイツ比較プロジェクト」の成果

 人生には時に思いがけない貴重な出会いがあります。私にとってそのひとつは、1991年に環境ラベルをテーマにした論文で「21世紀地球賞」(日本経済新聞社主催の地球環境論文コンペティション)を受賞したのをきっかけに、東京大学の山本良一先生の知遇を得たことでした。特に、先生のご助力で科学技術庁(当時)のエコマテリアルプロジェクトに参加できたことは、私がLCAの研究に入る機縁になりましたし、1997年には、それらの研究を通して東京大学で博士(工学)の学位をいただくこともできました。
 もうひとつは、2000年に神戸山手大学が新設した「環境文化学科」に招かれて、ドイツ人のLCA研究者であるK.H.フォイヤヘアト先生と出会えたことです。私が今の大学に移る決心をしたのは、数値計算的なことだけでなく文化的な面も含めたより広い視野で環境問題を考えたいという思いが強くなっていたからですが、まさかその新しい職場で国際的にも名高いフォイヤヘアト先生と出合うことになるとは予想もしていませんでした。
 以来、互いに共通のキーワードを使って会話できるという利点を生かして、8年間にわたって共同で「日本とドイツ比較プロジェクト」に取り組んできました。この間、本物のドイツ人から見たドイツの環境あるいは環境政策に対する考え方を直に学ぶことができたのは人生最高の喜びだったと思っています。何よりも、日独の比較の中から、それぞれの自然、地理、歴史、文化などの条件の違いを明らかすることで、日本には日本の価値観を生かした日本独自の環境対策が必要なのだというテーマを提示できたことが、私たちのプロジェクトの最も大きな成果だったと思います。


2020年の目標に適した家庭ごみ処理方法7つのシナリオ

シナリオ1:焼却+スラグ処理
シナリオ2:最適化した焼却
シナリオ3:ガス化+焼却+スラグ処理
シナリオ4:MBA1)+発電所(発熱所)での利用+焼却(一般のごみ焼却施設の燃料として利用)
シナリオ5:MBA2)+熱分解+発電所(発熱所)での利用+焼却(一般のごみ焼却施設の燃料として利用)
シナリオ6:発酵+セメント工場+焼却(一般のごみ焼却施設の燃料として利用)
シナリオ7:分離機+発電所(発熱所)での利用+焼却(一般のごみ焼却施設の燃料として利用)
発熱所:地域暖房の設計・運営施設
MBA1: 安定化して機械と微生物により処理して燃料として使う(RDF等)
MBA2: バイオ等の方法により有機成分をある程度分解してRDF等として使う


●家庭ごみの埋立全廃、熱処理・エネルギー回収の導入を決断したドイツの事情

 例えば、ドイツではこれまで、家庭から排出される廃棄物については生ごみも含めて埋立処理を中心とした対策が進められてきました。しかし、今のままでは埋立地から発生するメタンガスやCO2などが地球温暖化に重大な影響を及すことになるという危機感から、この政策の転換を決断。ドイツ環境庁が2005年にまとめた報告書「居住地由来の廃棄物処理の戦略と見通し(2020年まで)」の中で、埋立処理を全廃すると同時に、廃棄物の発生抑制と焼却処理(サーマルリサイクル)の導入、バイオガス等のエネルギー回収などにより一般廃棄物の完全循環をめざすという方向を明確に打ち出しました。プラスチックに関しても、マテリアルリサイクルばかりでなくサーマルリサイクルも含めてリサイクル率を向上させていく方向を志向しはじめたわけです。
 また、報告書では完全循環への具体的な方法として7つのシナリオを提示していて、国内の各地域の特性に合わせて最適な方法を選んで取り組むべきことを謳っています。つまり、ひとつの方法だけを押し付けるのでなく、地域に根ざした柔軟性のある仕組みとなっている点がこの報告書の重要な特徴の一つといえます。
 以上のように、一般廃棄物の埋立処理をなくして完全循環するというドイツの方針転換はものすごく大きな決断だったと思いますし、その柔軟な仕組みづくりなどは緯度の差の大きい日本にとっても参考になる点だと思いますが、ここで考えなければいけないのは、この報告書はあくまでドイツ独自の自然や地理的条件の中から生まれてきたものだということです。
 ドイツで埋立処分が中心だったのは、平均気温が低く、生ごみを埋めても衛生上の問題が比較的小さいといった気候条件があったからで、そのことが一方ではメタンの発生といった問題を生み、埋立全廃の決定へとつながっていったわけです。高温多湿でものが腐りやすいために焼却率が高くなった日本とは全く事情が違います。
 また、この報告書の中でもそうですが、ドイツでは「埋立地」と言わず「蓄積地」という言葉を使います。国土の約7割を森林が占める日本では、ポケット状の谷にごみを「埋め立てる」という意識が強いのに対して、森林面積が約3割と平坦な条件にあるドイツでは、「積み上げる」または「蓄積する」という認識が基本になっているのです。 つまり空間認識のあり方ひとつにしても、日本とドイツでは根本的な違いがある。両国は決して共通の座標軸の上にあるわけではありません。

●レジ袋削減はごみ問題解決の特効薬か?

 日本では環境問題というと何でも「ドイツを見習え」といったドイツ礼讃の風潮が長い間続いてきました。廃棄物処理対策でもリサイクル関連法でもドイツを参考とした取り組みが多く、それぞれの国の国土、風土条件の違いが顧みられることはあまりありませんでした。しかし、こうした国情の違いは根本的に重要な意味を持っています。地域に合った対策を考えることは、環境負荷を効率的に削減するための必須条件なのです。
 例えば、日本のフードマイレージが世界一高いということが最近問題になっていますが、そうなってしまったのは、日本人が自分たちの食生活を日本の風土に合わない西洋型のスタイルに変えてしまったためで、もし日本人が伝統的な米中心の和食生活に戻ればフードマイレージはかなり減らせるはずです。食べ物だけの話ではありません。生活用品や工業製品なども、風土に合った材料を選び上手に利用できるかどうかで環境負荷は大きく違ってきます。
 日本は、高温多湿でものが腐りやすく錆びやすい上、台風や地震も多いという自然条件があるため、湿度が低く、地震の少ないヨーロッパ以上に、ステンレスやプラスチックといった耐久性の高い素材が求められるし、その果たす役割も、より大きいと言えます。過剰包装がいいとはいいませんが、食品の保存性を高めカビの発生を防ぐ上でプラスチックの容器包装は不可欠ですし、塩ビパイプなども、その耐久性、耐震性を考えれば、やはり日本の国土にとってはたいへん有用な製品だといえます。
 最近槍玉に挙げられているレジ袋でも、多くの日本人は伝統的な「もったいない」意識に基づいて、生ごみ入れに使ったり、ごみ箱の内袋にリユースしたりして、ごみがすぐに腐って臭ってくるという日本の風土上の問題に上手に対処しています。レジ袋の有料化がごみ減量化のシンボル的意義を持つことは認めますが、レジ袋をなくすことがごみ問題解決の特効薬であるかのように言われる最近の風潮には違和感を感じます。少なくとも、ドイツのマイバッグ運動と同列に論じるべきではありません。

●アジアモンスーン地域の持続可能性を示せ

 間もなく開幕する洞爺湖サミットに向けて、日本国内でも様々なレベルで様々な議論が行われています。神戸でも5月には環境大臣会合が開催されましたし、国や県の主催によるシンポジウムやフォーラムなどの関連イベントも実施されました。しかし、全体的な印象としては、太陽光発電だとか燃料電池といった技術開発的な部分、あるいは排出権取引といった一種、場当たり的な対策にばかり焦点が当たっているように思われてなりません。
 技術開発が大事なことは確かですが、これからの日本がまず第一に意識すべきことは、日本はG8の中で唯一アジアモンスーン地域の国であって、他のG7とはまったく違うのだということです。しかも、「もったいない」に代表される伝統的な循環型の価値観を持っている国でもあります。
 私は、これからの日本が、そういう立場を基本にして、西欧とは異なった持続可能性の考え方をアピールできる国になることを心から期待しています。場当たり的な対策でなく、長期戦略に基づいたアジア的な持続可能性への目標や対策を、アジアを代表して主張してほしいと思います。ISO14000にしろREACH(予防原則をベースとしたEUの化学物質規制)にしろ、気候風土の違う西洋の基準に対応するのにアジア諸国はみな苦労しています。一生懸命やればやるほど、結局は不利益をこうむるような結果になっているように見えてしまいます。
 プラスチック業界も、日本におけるプラスチックの使われた方や役割の大きさをもっと強調していいんじゃないでしょうか。もちろんその一方で、便利で身近な、なくてはならない素材だからこそ、使用後の処理やリサイクル方法も真剣に考えてほしいと思います。
 そういう取り組みは、発展途上にあるアジア諸国にとっても、とてもいい示唆になるはずです。高温多湿の国にふさわしいプラスチックの使い方、最適なリサイクルシステムなどを、日本の業界が率先して示すことができたら、他のアジアの国々の環境負荷の削減にも大きく役立つと思います。

●生活者が実感できる環境対策

 地域の気候風土や価値観に根ざした環境対策ということは、突き詰めていくと、日本人ひとりひとりが納得して実感できる対策とも言えます。循環型社会とかリサイクルというのは最終的には市民の協力がなければどうにもなりませんし、個々の市民がチャレンジングな気持ちで問題に取り組んでいくためには、生活原理と地域の状況に根ざした実感の持てる対策でなければなりません。
 今の日本人を見ていると、「自然を管理する」というヨーロッパ的一神教の価値観と、人間も自然の一部と捉えて共存共栄を求めてきたアジア的多神教の価値観との狭間で、何となくイライラしているように思われます。持続可能性とか循環型社会とかいっても結局は実感が伴わない。実感が伴わないから、ともすると苛立ったり、どうせ誰かがやってくれるといった人任せの気持ちになってしまうのではないでしょうか。もっと自分の地域や生活に根ざした、心で納得できるような対策を見つけることができたら、落ち着いた気持ちで環境問題に向き合うことができるように思います
 要は、あまり難しいことは考えないで、まずは「もったいない」の気持ちを基本に、それぞれができるところから始めればいいのです。私も、雨水を貯めたり、レジ袋をリユースしたり、電気のつけっぱなしをなくしたり、日々の生活の中で無理なくできることを続けるようにしています。自宅の近くの農地を借りて野菜は殆ど自給自足していますし、食べ残しは絶対にしません。移動は基本的に公共交通機関しか乗らない、テレビは14インチ1台。
 エコ生活なんて思わずに、自分のチャレンジとしてクリエイティブにライフスタイルを見直してみると、そんな小さな取り組みでも俄然楽しくなってきます。

(取材日 2008年7月4日)

略 歴
なかの・かづこ
 大阪市立大学生活科学部卒業。工学博士(東京大学)。専門は環境計画、LCA、リサイクル。大学卒業後、関西大学工業技術研究所で都市ごみのリサイクルの研究などに取り組む傍ら1991年、「21世紀地球賞」を受賞。2000年4月から神戸山手大学人文学部(現・現代社会学部)環境文化学科助教授を経て教授。同僚のK.H.フォイヤヘアト教授と共同で「日本とドイツ比較プロジェクト」に取り組み、『環境にやさしいのはだれ?−日本とドイツの比較−』(2005年、技報堂出版)、『先進国の環境ミッション−日本とドイツの使命−』 (2008年、技報堂出版/写真)など、 これまでに3冊の共著を上梓している。
 廃棄物学会論文賞、リサイクル技術開発本多賞、「環境管理」優秀論文賞(平成10年度、同14年度)など受賞。NEDO技術委員、環境省循環型社会形成推進研究審査委員会委員、兵庫県環境審議会委員、神戸市環境保全委員会委員、大阪府公害審査会委員など役職多数。