2016年12月 No.99
 

特集/‌
加速する、住宅・建築物の省エネルギー対策

最先端省エネ建築ZEB/ZEHの開発を中心に、関係各界の対応を探る

高断熱に欠かせない樹脂サッシ
高断熱に欠かせない樹脂サッシ
 パリ協定締結へ向けた動きなど、地球温暖化への対応が世界的な課題となっている今、省エネ対策の重要性も大きくなる一方。省エネ先進国と呼ばれる日本にも更なる対応が求められる中で、その切り札となる住宅・建築物の省エネ対策が加速しています。エネルギー消費ゼロをめざすZEB/ZEHの普及・開発状況を中心に、行政、設計、樹脂窓メーカーの対応を取材しました。
ZEB/ZEHとは−
【ZEB】   【ZEH】
【ZEB】 ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略。断熱・日射遮蔽、自然換気等や高効率設備の導入により、冷暖房や換気、照明、給湯、エレベータ等に使うエネルギーを50%以上低減するとともに、太陽光発電等の導入により、年間の消費エネルギーが正味(ネット)ゼロになるビル。50%省エネの場合はZEB Ready、75%省エネの場合はNearly ZEBと定義される。   【ZEH】 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。高断熱化を行ったうえで、高効率設備の導入により20%以上の省エネを行うとともに、太陽光発電等による創エネで、年間のエネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになる住宅。75%省エネの場合はNearly ZEHと定義される。

●2015年7月、建築物省エネ法成立

 1970年代に経験した2度の石油ショックを契機に、世界最高レベルの省エネを実現した日本。しかし、産業・運輸・業務・家庭の4部門のうち、業務・家庭部門では石油ショック以降のエネルギー消費量が2〜3倍に増加しており、持続的な省エネを進めていくためには、この2部門のエネルギー消費を大幅に抑制しなければなりません。
 中でも、日本の全エネルギー消費量の3割以上を占める住宅・建築物の省エネ性能向上は喫緊の課題で、2015年7月に建築物省エネ法(延べ床面積2,000m2以上の非住宅建築物の省エネ基準適合義務、同300m2以上の建築物新築時等における省エネ計画の届出義務などを課す)が成立。徹底した省エネ社会の実現へ向けた対応が加速しています。

●省エネ性能向上の決め手

 こうした中で、新時代の省エネ建築としてにわかに注目を集めているのが、一般住宅に関するZEHと業務用ビルのZEB。最先端の省エネ・断熱技術と太陽光発電などを組み合わせてエネルギーゼロをめざす建築手法は、省エネ性能向上の決め手になるもので、経済産業省は、2020年までに新築注文戸建住宅の過半数のZEH化と、新築公共建築物等のZEB化を目標に取り組みを強化しています。
 また、これに伴って関係各業界でも開発・研究の取り組みが進んでおり、高断熱の樹脂サッシを製造する塩ビ業界も今年7月、塩ビ工業・環境協会(VEC)と大学の研究室、設計研究所、国内サッシメーカー、空調機メーカーの共同で「ZEB/ZEHの実現を考える会」を発足。3年間にわたって窓と高性能エアコンに特化した試験研究を行っていく計画です。

吉田課長

経済産業省 資源エネルギー庁省エネルギー課
吉田健一郎課長に聞く

建築コストの削減で、
ZEB/ZEHの「自律的普及」をめざす

 住宅・建築物の省エネをめざして国の対応が加速する中、ZEB/ZEHの普及に取り組んでいるのが経済産業省。普及の現状とこれからの計画、課題などについて、省エネルギー課の吉田課長に伺いました。

●年間5万戸程度のZEHを新築

―建築物の省エネに関して経済産業省はどんな役割を担っているのですか。
 建築物の省エネについては、これまでも国土交通省や環境省と連携しながら取り組みを進めてきましたが、今後も上手く役割分担しながら、省エネに貢献できるようにしていきたいと考えています。建築物の省エネにもいろいろな手法があって、それらを組み合わせて全体を底上げしていくことが大切なのですが、ZEB/ZEHのように先端的な技術の実証・普及、新たな産業の育成を伴う分野は、経産省が担っていきたいと考えています。

―ZEB/ZEH普及の基本的な考え方をお聞かせください。
 ZEHに関しては高断熱化と高効率設備、太陽光発電などによるエネルギーの創出がポイントになりますが、我々としては、まず省エネが大前提だと考えています。太陽光発電を多く搭載すればゼロ・エネルギーは実現できるかもしれませんが、そういうことではなく、やはり第一に最先端の省エネに取り組み、住宅の省エネ基準よりも高い水準の高断熱化をした上で20%省エネしてもらう。その上で、太陽光発電などを使って全体でゼロにする。それがZEHです。2020年までに大手ハウスメーカー等の新築注文戸建住宅の過半数のZEH化という目標は、具体的には年間5万戸程度のZEHを新築するということになりますので、かなりチャレンジングな数字であることは確かですが、経産省としては何が何でも実現したいと考えています。

●急増する補助金申請件数

 一方、ZEBについては、省エネ基準よりも50%以上省エネした上で(この段階をZEB Readyと定義)、太陽光発電などを使ってゼロ・エネルギーを目指してもらうことが基本ですが、高層の大規模建築物では屋上面積が限られてエネルギーを創ることに限界があるため、ゼロにできない場合もあるだろうということで、ZEHと同様「Nearly ZEB」(75%以上の省エネ)という定義を設けています。
 ZEBはZEHと異なり、現在は実証を行いその成果を普及する段階と考えています。このため政府目標も、新築注文戸建住宅の過半数のZEH化とは違って、2020年までに、まずは新築公共建築物等でZEBを実現するということを当面の目標にしています。その後、2030年までにZEBが一般的になるようにしていく計画です。

―現在、ZEHはどの程度普及しているのでしょうか。
 ZEHが国の「エネルギー基本計画」の中に位置づけられたのが平成22年度で、24年度から補助事業をスタートしています(今年度の事業ではZEHの新築住宅購入やZEHへの改修に125万円を補助するほか、リチウムイオン蓄電池の導入にも追加補助)。ZEH建築数(交付決定件数)の推移を見ると、24年度は443戸だったものが、27年度には6,148戸まで急増しており、28年はまだ途中ですが、既に1万件近い補助金の申請があり、うち6,356件に交付決定しています。つまり昨年度と同数かそれ以上のZEHが建設されていると考えられます。今年度の当初予算による補助事業はZEB/ZEH合わせて110億円ですが、第二次補正予算でZEHの普及加速事業100億円が認められたので、これを利用して今年度後半に向け更に加速的な普及に取り組んでいきたいと考えています。

●ガイドライン作りへ、ZEBの実証事業スタート

ZEHロードマップ、ZEBロードマップ
<拡大図>

―今後の普及計画と課題をお聞かせください。
 いつまでも補助金で支え続けていくわけにはいかないので、出口を見据えてやっていこうということで、昨年度にZEB/ZEHそれぞれでロードマップを作成しています。課題は価格の削減で、標準仕様化などを進めて値段を下げ、最終的に自律的な普及が可能になることをめざしています。補助事業がある間に、工務店もノウハウをどんどん蓄積していってほしいと思います。ZEB/ZEHとはこうして作るものだということが分かってくれば、値段もだんだん下がってくるはずです。
 そのためZEBについては、施策の柱として実証事業を実施することにしており、補助金制度(高性能建材・設備の導入費用の3分の2。上限10億円/年)を設けてZEB Ready以上の建物を作る事業者を採択しています。今年度の採択件数は事務所、病院、老人ホームなど28件。建物の種類と規模をなるべく幅広く採って、ここでの知見を現在進めている設計ガイドライン作りに生かしていきたいと考えています。その中で低コスト化の技術開発なども進み、2020年の目標達成が可能になることを期待しています。
 また、ZEHに関しては、電気代が安くなるといった経済的メリット以外に、住み心地のよさとか健康(結露の減少やアレルギー、ヒートショック等の防止)といった、金銭に換算できない価値があります。そういう点の広報活動もこれから積極的に行っていくことにしています。

全国で反響を呼ぶ「ZEHビルダー制度」

―ZEHの普及に関して話題になっている「ZEHビルダー制度」とはどういうものですか。
 ZEHビルダーとは「2020年度までに自社の受注、新築、改築する住宅の過半数をZEH化することを宣言した工務店・ハウスメーカー・設計事務所」のことで、今年度の補助事業にて「ZEHビルダーによって設計、建築等されること」を補助要件のひとつに定めています。つまり、業者に対する普及促進のための動機付けで、顧客の要望に対応するために業者はZEHの勉強をして、普及目標の宣言をして、セールスもしてくれるようになるということを狙ったものです。
 登録を受けた業者名はすべて公表されていますが、登録数は既に3,500社超に達していて、都市部だけでなく、地方の工務店も含めて予想を上回る勢いで増え続けています。建材・設備メーカーの中には、意欲的なビルダーとコラボしていこうという動きも出ています。

―建材・設備メーカーに期待することは?
 いい家を低コストで作っていくためには、要素技術、建材、設備が重要になります。ZEB/ZEHに向けて全体の機運が盛り上がっていく中で、建材・設備メーカーにもそれに応えられるような性能の向上と技術開発、そしてコスト削減を進めてもらうことを期待しています。また、単独ではZEHを建てるノウハウを有していない工務店にノウハウを提供する役割も担っていただければと思っています。
 日本は2030年までに温室効果ガスの26%削減(2013年度比)を世界に約束しています。我々は、安全性の確保を大前提に、安定供給と経済性、環境性に配慮したエネルギー需給構造の実現を通じて、この約束を守っていかなければなりません。このために省エネの徹底が求められますが、ZEB/ZEHは省エネの最重要テーマの一つです。その普及に向けて、経済産業省は、関係省庁や民間と連携しつつ、これからも最大限努力していきます。

湯澤理事
湯澤理事

設計者に聞く、
省エネビルの最新動向

省エネ+健康・安心・安全が主流に。
エネルギーマネジメントが性能向上のカギ

日建設計総合研究所がエネルギーマネジメントを担当する晴海トリトンスクエア
日建設計総合研究所がエネルギーマネジメントを担当する晴海トリトンスクエア

 ZEB/ZEH を中心に省エネ建築の普及に邁進する日本。では、実際に建築物の図面を描く設計者は、この動きにどう対応しているのか。お話を伺った(株)日建設計総合研究所(野原文男所長、東京都千代田区)の湯澤秀樹理事(上席研究員)の言葉からは、単なるゼロエネを超えた性能が、これからの省エネ建築に求められていることが分かります。

●均一から多様化へ。変化する建築設計

 日建設計総合研究所は、世界トップクラスの総合設計事務所・日建設計グループのシンクタンク。東京スカイツリー、世界貿易センタービルなど、国内外2万件に及ぶプロジェクトを手がけてきた日建グループの豊富な経験と知識を生かして、2006年の創業以来、「持続可能な低炭素都市の実現」を目標に都市計画と環境・エネルギーに関する研究・調査、政策提言などを行っています。
 同研究所で様々なビルや都市の省エネコンサルティングに携わってきた湯澤理事は、建築物の省エネを巡る最先端の動きについて次のように説明します。
 「例えばオフィスビルなどでも、これからは単なる省エネや環境性能だけでなく、健康、安心・安全といった面での対応が重要になってくる。働く女性や高年齢社員の増加、さらにはIT技術の進歩によるワークスタイルの変化と、オフィス環境は急速に多様化が進んでおり、均一な照明、均一な空調を基本としてきた従来の設計では、最早その多様性に対応しきれない。個々のオフィスワーカーに最適な温度や換気、照明を提供できて、快適に知的生産性を高めていけるような空間設計が求められるし、結果的にそのほうが省エネになることも分かっている。一方、安全安心については、例えば、大地震などで高層建築の空調が止まってしまった場合、窓を開けて空気が効率的に室内に流れて自然換気できるような設計が重要になると思う」
 人間が安全に生き生きと働けるよう、個人の満足度を計りつつ、ゼロ・エネルギーをめざすというのが、これからの省エネビルの主流になっていくというわけです。

●エネルギーマネジメントの新手法「コミッショニング」

液冷空調システム

 快適な省エネを実現するための要素技術としては、液冷空調システム(21℃程度の高温冷水が循環する冷却パネルを使って、OA機器や照明など室内の熱発生源を直接冷却する手法)、ライトシェルフ(日本家屋の庇をヒントに、ビル外に設置した庇状のパネルで直射日光を防ぎつつ光を拡散させて室内に届かせる手法)、光ダクト(太陽光をアルミダクトで室内に導き、照明に利用する採光システム)といった注目すべき設備が続々と開発されていますが、湯澤理事は、こうした新技術の力を生かし切ってゼロ・エネルギーを実現するには、「計画段階から設計、施工、運用に至るまで、各段階の省エネ状況を適正に分析・評価するライフサイクル・エネルギーマネジメントが重要だ」と強調します。
 「中でも、私がいま力を入れているのがコミッショニングというマネジメント手法の提案。ビルのオーナーの中には、様々な省エネ設備を導入しただけで自分のビルが結構省エネになっていると思い込んでいる人が多いが、専門家の目から見ると実態は必ずしもそうなっていない。コミッショニングは、そういう思い込みを防いで目標とする省エネを確実に実現するための手法で、コミッショニング・オーソリティという専門家がすべての段階を同じ眼でチェックするのが、この仕組みのポイントだ」

●コミッショニング・オーソリティの役割

コミッショニングのプロセスと4つのポイント
コミッショニングのプロセスと4つのポイント

 コミッショニングでは、まずビル建設(または改修)の計画段階において、どんな手法でどの程度省エネするのかという明確な目標値を設定し、その目標実現に向けてオーナー、設計者、施工者、管理者がきちんと情報伝達しながら各自の役割を果たしていきます。
 「コミッショニング・オーソリティは各段階で適正な対応をしているかをレビューし、問題があれば具体的な改善策を提案する。また、最初の目標設定時にも各段階のエネルギー性能をすべてシミュレーションして、費用対効果を勘案しながら、目標実現のために採用すべき省エネ手法、例えば外皮の断熱性能を上げるなら窓はこうしたほうがいいといったことを提案する」
 運用状況のチェックに関しては、BEMS(Building Energy Management System。建物の使用エネルギーや室内環境のデータをすべて把握して省エネ効果を高める)が用いられますが、日建設計総合研究所では、より経済的で負担の少ないIntelligent BEMSというシステムを開発しています。
 「BEMSはビルごとの設置が基本なので、データ分析を行う専門家もそれぞれで必要になる。これに対して、Intelligent BEMSは初めからコミッショニング・オーソリティのオフィスに装置を置いて、複数の顧客から送られてくるデータを個別に分析してレポートする。顧客にとっては手間が省けて経済的だし、エネルギーの無駄使いを解消することもできる」
 現在、東京スカイツリーなどにこの方法が導入されているとのことです。

●みんなが快適で幸せになるため

エネルギーマネジメントが拓く未来
建築の省エネ術やエネルギーマネジメントがよくわかる。湯澤秀樹監修・著。工作舎刊

 「何のためにエネルギーマネジメントをやるのかと言えば、基本は建物の中で生活する人がみんな快適で幸せになるため。省エネや環境性能だけでなく、他の満足度を上げることも含めて評価していかないと真のマネジメントにはならないし、そういう建物でないとこれからの社会で生き残れない。ZEB/ZEHというのは、エネルギー消費をゼロに近づけるための建築方法だが、その運用を含めてトータルで性能を向上させていこうというのが我々の考え方だ」
 環境性能や快適性を上げるためには建設費用の増加が避けられませんが、湯澤理事は「性能を向上させることで、どれだけ建物の価値が上がるのかを実証し、その価値を可視化していけば、優良物件と評価されて企業の投資が進む。オフィスビルの場合、他のビルに比べて賃料を8%アップできるといったデータも海外で出ている。そういう形でペイバックされるようになれば、ZEB/ZEHの普及も進んでいくだろう」と予想しています。