2016年6月 No.97
 

包装資材の商社からモノづくり企業へ脱皮

(有)ハヤシ商店の塩ビ加工事業。
自動車工場の「かんばんケース」製造で活路

塩ビ加工事業 塩ビ加工事業 有限会社ハヤシ商店
 自動車工場の部品管理に重要な役割を果たす「かんばん」(本文参照)。その保護ケースを塩ビで作っているのが、愛知県安城市の(有)ハヤシ商店(林勝博社長)。包装資材の卸売業からスタートし、包装技術を生かした塩ビ加工メーカーへと領域を拡大する同社の挑戦をレポート。

●技術を駆使して多様なニーズに対応

 「かんばん」とは、自動車部品の補充に利用される管理カード(帳票)のことで、もともとはトヨタ自動車が自社の生産方式合理化の一環として開発したもの。品名、品番、保管場所、工場内での使用状況、さらには出荷元と出荷日など、部品に関するあらゆる情報がQRコードに入力されており、これを工場内、工場間でやり取りすることにより、無駄のない効率的な生産が可能となります。
 「『かんばん』の情報を読み込めば、部品のすべての流れがわかる。製品管理になくてはならないもので、今ではすべての自動車関係の工場で何百万枚も使われています。それだけに『かんばん』を入れるケースも、リターナブルに耐える丈夫さと使い勝手のよさが不可欠なのです」(林社長)
 同社では、全自動式高周波ウェルダー加工機と手動のバッチ式高周波ウェルダー加工機を駆使して、高品質な塩ビ製かんばんケースの安定供給を実現。スピードが求められる大量生産には全自動機、繊細な技が要求される特殊サイズ・形状の加工には手動機と、技術の使い分けで多様なニーズに対応する同社の事業は、ユーザーからも高く評価されています。

●モノ売りよりもモノづくり

 ハヤシ商店は、林社長の父(林貞行氏)が1973年に設立した会社で、当初は包装資材、包装機械の卸売業として事業を展開していましたが、「モノ売りよりもモノづくりをしたい」「より地元に根ざした仕事をしよう」という考えから加工業への進出を計画。1982年、取引先の商社から依頼があったのを機に、塩ビ製かんばんケースの製造に着手しています。
 「もっとも、当時は資本も小さかったので、モノづくりといっても半ば内職のようなものでした。安く手に入れたバッチ式のウェルダーを使って、手作業で作った『かんばんケース』を商社に納めていたのですが、その後、私が会社を引き継ぐことが決まってから将来の事業の方向性を考えてみると、やはりモノづくりをしたいという気持ちが強くて、2012年に思い切って全自動式の加工機を導入したのです。間もなく、トヨタに『かんばんケース』を納入する仕事も決まって、塩ビ製品の加工メーカーとして本格的な活動が始まりました」

全自動式高周波ウェルダー加工機 バッチ式加工機 かんばんケース
同社が誇る全自動式高周波ウェルダー加工機   熟練の技が求められるバッチ式加工機   完成したかんばんケース

●塩ビへの強いこだわり

林社長
林社長が手にしているのは塩ビ製の小物入れ

 現在同社では「かんばんケース」のほかにも、カードケースや袋物などの塩ビ製品を製造しています。事業の主力は現在でも食品包装を中心とした包装資材・機器の販売で、自らモノづくりしているのは塩ビ製品のみ。それだけに「メーカーとして塩ビには強いこだわりがある」と林社長は言います。
 「私は毒物劇物取扱責任者と包装管理士の資格を持っているのですが、この資格を取るためにプラスチックのことはずいぶん勉強しました。そして、知れば知るほど塩ビの素晴らしさに行き着いた。加工性が良くて、こんなに人の言うことをよく聞くプラスチックはありません。しかも耐久性、耐候性、リサイクル性もいい。塩ビ以外でこれだけパフォーマンスを出すのは難しいと思います」
 また、「かんばんケース」の裏に引く接着剤を、硬質塩ビ系接着剤から軟質系に変えるため、糊引きメーカーと共同研究。「硬質系だとケースの周りが浮きやすく作業性を損なう」という欠点を克服したことも、塩ビへのこだわりの表れといえます。

●顧客の使い勝手に合わせたモノづくり

接着剤の改良で容器に密着
接着剤の改良で容器に密着

 同社は来年、受注の拡大見込みに対応して全自動式高周波ウェルダー機を増設するなど、現在の製造能力を倍増する計画で、林社長は「小さくても自分の手で自分のモノを作るメーカーに脱却するため設備には積極的に投資する。そして、顧客の使い勝手に合わせたモノづくりを工夫して提案していく」と意欲を見せています。
 「将来は『かんばんケース』のリサイクルの仕組みも作りたい。当社のケースであれば組成が分かっているので、使用済みのものを回収してアルカリ洗浄して再び原料に戻す。多少採算が合わなくとも、最終的には、塩ビを循環使用しながら社会貢献するメーカーにしたい。これが今の私の夢です」ハヤシ商店の挑戦は続きます。

全自動式高周波ウェルダー加工機による製造工程
全自動式高周波ウェルダー加工機による製造工程
1.原反セット
塩化ビニルの原反とチャックをセット。
  2.Aプレス(チャック部取付)
塩化ビニルの原反にチャック部分を取り付ける。
  3.Bプレス(整体)
出来上がりのサイズに合わせて加工(溶着)する。
  4.バリ部分の裁断
バリ部分(不要な突起)がカットされた状態でできあがり。