2015年3月 No.92
 

注目!積水化学工業の水処理膜システム『FILTUBE』

新開発の膜素材で排水を効率的に処理。 設置・維持管理も簡便な槽外型システム

 世界的な水需要の高まりや環境規制の強化に伴って排水処理の高度化が求められる中、積水化学工業(株)(東京都港区虎ノ門)が昨年5月に発売した水処理膜システム「フィルチューブ」が話題を集めています。設置や維持管理作業が容易な上、塩ビ系膜素材の開発で排水を効率的に分離処理。省エネ性能も高い期待の新技術に注目。  
    施工例(化学工場の排水処理システム)
 
高性能の水処理を可能にした塩ビ系の膜素材。   排水中の汚れや雑菌、ウイルスなどをきっちり分離

●独自技術で水処理のソリューションを提案

大杉グループ長

 「当社は上下水用パイプの分野で長い歴史があり、塩ビに関して豊富な技術と知見を蓄積している。『フィルチューブ』は、そうした実績をもとに、より付加価値の高い、環境保全に役立つ塩ビ製品を作りたいという狙いで開発したもの。当社として初の水処理膜システムであり、他社にはない独自の技術で水処理のソリューションを提案している」(水浄化事業推進グループ・大杉高志グループ長の説明)
 水処理システムは、従来から標準活性汚泥法という、排水中の汚れを微生物で分解し、汚泥を沈殿させて上澄みを放流する方法が主流でした。そこへ近年、膜分離活性汚泥法(膜分離法)という、微生物が分解した汚れを濾過膜を使って汚泥と処理水に分離する方法が実用化され、沈殿工程を膜に置き換えることにより、精密で安定した水処理を行える、大幅な省スペースが可能になるなどの利点が得られるため、普及が進んでいます(下図を参照)。

標準活性汚泥法(従来法)と膜分離法の違い
 活性汚泥法はシステムが不安定になると、沈殿槽の維持管理が難しく、微生物を含む汚泥の流失を招き、水質基準を超過する恐れがある。これに対して、膜分離法は汚泥を確実に分離し、安定的に水質基準を満たすきれいな処理水を放流できる。また、沈殿槽が不要となるぶん、省スペースが可能になる。

●槽外型の易メンテシステム

 そんな膜分離法の新システムとして登場したのが積水化学工業の『フィルチューブ』。その最大の特徴は、現在膜分離法の主流となっている槽内型(反応槽の中に膜を沈めるタイプ)ではなく、反応槽の外部に設置する槽外型を採用している点にあります。
 再び大杉グループ長の説明。「槽内型は反応槽の中に膜を沈めているので、トラブルが起きると装置全体を引き上げてメンテナンスしなければならず、その作業も槽の上など足場の悪いところで行われることが多い。また、洗浄も槽内の微生物にダメージを与えるので強い薬品を使いにくい。槽外型だと、トラブルのチェックもメンテナンスも簡単で、反応槽から切り離して薬品洗浄ができる上、工場で組み立てたユニットを現地に運んで設置できるので、新設だけでなく、既存施設の更新や機能強化にも少ない手間で柔軟に対応できる。作業中システムの運転を止める必要もない」
 実は、槽外型は槽内型より前に開発されていたシステムでしたが、「いったん槽外に水を出して、膜の中をエアーで循環させながら濾過する」という処理方法がエネルギーコストの増大につながり、これがネックになって普及が進まなかったという事情があります。同社ではこの課題を解決するため、高度な親水性と透水性を備えた新素材の中空膜を開発(素材は塩ビ系樹脂)。口径も高濁度の原水の循環に最適な大きさ(内径4mm)に設計するなどして、「循環量を最小限に落としても精密濾過が可能で膜汚れも少ない」という省エネ型のシステムを実現しています。

●ウイルスレベルの汚れも分離

 『フィルチューブ』のユニットは、中空膜の束を収納したコンパクトなモジュールで構成され、必要な能力に応じてモジュールの数を調整することができます(右の図参照)。ちなみに、このモジュールも塩ビ製で、「フラット状やすだれ状は多いが、排水分野でパイプ形は新しいタイプ」とのこと。塩ビを知り尽くした同社ならではの新工夫といえます。
 一方、中空膜の表面にはおよそ50nmの微細な穴が無数に開いていて、内部を原水が流れると、外側に濾過された処理水が涌出してきます。その濾過精度は、大腸菌やウイルスレベルの汚れまで分離できるため、処理水の水質は非常に高く、再生水としての利用も可能です。
 現在、同社では民間の工場排水や商業施設の水処理を中心に「フィルチューブ」の普及を進めていますが、今後自治体の下水処理場や浄水場でも膜分離による高度処理の需要が高まってくると予想されることから、これに対応した研究開発にも力を入れています。
 下水については既に日本下水道事業団との実証試験が進んでいますが、浄水場に関しても、大阪市の公募による共同研究が今年からスタートする予定で、大杉グループ長は「公共施設での採用には時間が掛かるが、民間での普及を拡大していけば公共での実績も増えてくると思う」と期待を示しています。