2014年9月 No.90
 

登場から80年。進化する「食品サンプル」

趣味・お土産用グッズとしてグローバルな人気。
(株)森野に見る最新動向

 見ているだけで、お腹がすいてくる!このホンモノ感こそ、食品サンプルの醍醐味です。登場から80年、時代とともに進化し続け、今では趣味・お土産用のグッズとしてもグローバルな人気を集める食品サンプル。その最新の動きを、大阪市平野区の(株)森野(森野サンプル)に取材しました。

●喰い倒れの街・大阪がルーツ

「ひと通り作れるようになるまで10年」
(森野社長)

 「食品サンプルが全国に広まっていったのは、昭和7年に岩崎製作所(現(株)岩崎)が大阪市で開業してから。喰い倒れの街・大阪ならではの文化なんです。うちのオヤジ(森野留吉氏、故人)も昭和12年からずっと岩崎でサンプル作りをやってきた人間で、独立してこの会社を立ち上げたのが昭和48年。当時高校を卒業したばかりだった私も、ごく自然に父の下でサンプル作りを始めることになりました。カエルの子はカエルですわ」と話すのは、(株)森野の森野文男社長。親子2代にわたる関西食品サンプル業界の第一人者です。
 「サンプル屋というのは、もともとは裏方だったんですけど、その技術のおもしろさがマスコミで取り上げられたり、外国人観光客に注目されたりして段々表に出るようになってきた。特に外国人からの反響は大きな転機になったと思います。お陰で需要は今年も活発で、問い合わせもメッチャ多いんですけど、今は年末商戦用の注文に掛かりっきり。とても全部の注文には応じきれない状況です」

蝋製から塩ビへ、素材は変わっても肝心なのは「面の質感」

この質感を見よ!
緻密な着色技術(サーモン)
 昭和40年代以降、食品サンプルの素材は蝋から塩ビへの移行が進みました。現在では、殆どのサンプルが熱に強く、成形、着色しやすい塩ビ製となっています。
 とはいえ、製造方法は昔も今も手作業が基本。シリコンで食材の型を取り、これに塩ビのゾルを流し込んで、オーブンで焼いた後、エアブラシや筆で細かく着色して仕上げていきます(詳しくは同社のHPに。http://www.morino-sample.jp)。
 「ひと通りできるようになるまで10年。あとは、個々のユーザーの注文に合わせて応用と工夫が必要になるが、何より大切なのは食材の面の質感をしっかり再現すること」と、森野社長。「わざわざ本物の食品から型を取るのも面の質感がほしいから。そこに緻密な着色の技術が加わって、初めてリアルでおいしそうなサンプルができる。この質感がなかったら、ツルツルした、ただのおもちゃになってしまいます」

●グッズ類の豊富な品揃えが強み

今年4月、奈良市の餅飯殿(もちいど)商店街「夢CUBE」内にオープンした森野サンプルの直営店。豊富な品揃えで、観光客や若者たちに人気です。

 店舗向けの食品サンプルに加えて、いま好調な売れ行きを見せているのが、若者や外国人観光客向けのグッズ類。森野サンプルでは、キーホルダーやストラップ、名刺ケース、さらにはUSBメモリーや耳かきまで、各カテゴリーごとに様々なバリエーションが揃っており、そのアイテム数はなんと約1000点に達します。こうした品揃えの豊富さが同社の大きな強みで、値段も数百円から、高くて4、5000円とグッと低めに設定しているのがポイント。
 「若い子が買うものなので、若い子の考え、好みを聞きながら新商品の企画や価格帯を決めている。売筋には流行りすたりがあって、少し前だとマカロンが人気でした」
 ちなみに、弁当の名刺ケース(上の写真)は若手の営業マンに人気で、「懐から出した瞬間に掴みはオーケー。名前は忘れても、あの名刺ケース持ってたニイちゃんと印象に残る」とか。

●食品サンプル製作体験会

製作体験会で使用する食品サンプル

 一方、7年前から実施している食品サンプル製作体験会も、一般消費者や親子連れを中心に人気を集めており、中にはPTAの会や修学旅行のグループ体験で利用するケースもあるといいます。
 「『食品サンプルってどうやって作るの』という問い合わせが多くて、それに答えるために始めました。実際に塩ビのゾルやシリコンを使ってパフェとケーキづくりに挑戦してもらうんですけど、私としては、楽しみながら少しでも食品サンプルを理解してもらえれば、それで十分だと思っています」
 これからの食品サンプルについて森野社長は「黎明期から食品サンプル一筋に生きてきた父はプライドと自信を持っていた。私はその意思を継ぎ、2代目として食品サンプルの普及に努めてきましたが、これからは海外に市場を求めていくことも必要と考えています。そしてその意思を次の後継者につないでいければと思う」と語っています。