2014年9月 No.90
 

【特別寄稿】
東アジアを含めた硬質PVC建材の
再資源化システム調査(韓国)

東京大学大学院 新領域創成科学研究科
清家研究室 博士課程 磯部 孝行

 今回の「リサイクルの現場から」は、東京大学・清家剛准教授の研究室に在籍する磯部孝行氏から、韓国における塩ビ管と樹脂サッシのリサイクル事情についてご寄稿いただきました。報告からは、回収・中間処理システムと再資源化原料の利用を義務付けた制度の組み合わせにより積極的にリサイクルが進められていること、また、韓国の取り組みが日本のリサイクルとも深くつながっていること、などが窺われます。

●塩ビ管とサッシの再資源化

 東京大学清家研究室では、建設資材の再資源化システムの構築に関する研究を行っています。建設産業においては、コンクリートや木材などが多く利用されていますが、PVC管(塩ビ管)やサッシなどPVC樹脂を用いた建材も多く利用されています。そこで、当研究室では、PVC管とサッシの硬質PVC建材に着目して、再資源化処理の実態や国内外の再資源化促進に係る制度などを調査・分析して、これら硬質PVC建材の再資源化システムの在るべき姿を考えています。
 現在、国内で建設廃棄物として排出されている硬質PVC建材は、PVC管が主であると考えられています。PVC管は、建設廃棄物の中において、塩化ビニル管・継手協会のリサイクルシステムによって、積極的に回収・再資源化が行われている建設資材の一つです。一方、PVCサッシは、北海道などの寒冷地を中心に、1980年頃から使用され、近年、住宅の高性能化によって、全国的に普及する可能性がある建設資材です。ドイツなど欧州においては、近年、PVCサッシの排出が本格化してきていることから、再資源化が積極的に実施されています。国内では、近く、北海道においてPVCサッシの排出が本格化することが想定され、PVCサッシについてもPVC管同様に、再資源化システムの構築が望まれていると言えます。

●排出国・日本、最終消費地・東アジア諸国

 現在、国内におけるPVCサッシの排出は、本格化してきていませんが、PVC管は、一定量の排出があり積極的に回収・再資源化が行われています。しかしながら、国内で再資源化原料として利用されているのは一部であり、多くは、韓国、中国、台湾などの東アジア各国において、再資源化原料として利用されていると考えられています。
 この点から、日本の硬質PVC建材の再資源化システムは、日本を排出源として最終消費地である韓国、中国、台湾などの東アジア諸国との連携によって、現在の再資源化システムが成立していると言えます。そのため、PVC建材の再資源化システムは、日本国内だけではなく東アジア諸国における最終消費の状況などを含めて考えていく必要があると言えます。しかしながら、日本から東アジア諸国へ輸出されているPVCの再資源化原料の利用実態や各国の再資源化促進制度などは、十分に把握されておらず不透明な部分が多いのが現状です。
 そこで、本研究室では、東アジア諸国の硬質PVC建材の再資源化促進の制度や再資源化原料の利用実態などを把握するために、多くの再資源化原料が輸出されていると考えられる韓国へ2014年の4月28日から5月1日においてPVC管とPVCサッシの業界団体2団体、硬質PVCの中間処理工場3社へ調査してきました。

●韓国における塩ビの再資源化促進制度

 韓国国内におけるPVC建材に係る再資源化促進制度としては、廃棄物負担金制度と自発的協約制度の2つの制度によって、再資源化が推進されています。
・廃棄物負担金制度
 廃棄物負担金制度は、再資源化が困難であるものや有害物質を含むものについて、バージン原料の使用量に応じ課金を徴収する制度となっています。PVC管やサッシだけではなくPVC製品全体が、廃棄物負担金制度の該当品目に指定され、PVC製品を製造する事業者は、バージン原料を1kg使用するごとに75ウォンの廃棄物負担金を支払わなければならず、PVC製品の製造事業者にとっては、大きな負担となっています。
・自発的協約制度
 自発的協約制度は、廃棄物負担金を免除する制度になっています。業界として自発的に再資源化システムを構築する事を目的に指定団体を組織した上で、指定団体と韓国政府が協議して、加盟している事業者に対して再資源化原料の利用率を義務化します。この義務率を達成した事業者は、廃棄物負担金が免除され、一方で、義務率を達成できなかった場合は、廃棄物負担金より高い違約金の支払いが求められるという制度になります。

図 韓国国内における再資源化促進制度

●再生塩ビは塩ビ管、サッシの原料に。
 年間約3万トン

 韓国では、この2つの制度の運用によって、PVC製品の省資源化と再資源化が推進され、再資源化原料が、バージン原料とほぼ同程度の価格で取引され、積極的に消費され一定の効果を収めていると言えます。これら2つの硬質PVC建材の再資源化原料の利用実績は、2012年においてPVC管は7.3%、サッシは8.2%となっており、この2つの建材だけで約3万トンの再資源化原料が消費されていることがわかりました。
 このように、韓国国内においては硬質PVC建材の回収・中間処理だけでなく、再資源化原料の利用を義務付けた制度を運用することで、PVC廃材の回収・中間処理・再資源化原料の利用といった一連の再資源化システムが構築されていることがわかりました。
 他方で、2014年6月27日より、韓国国内におけるPVC管の規格が変更されることに伴い、PVC管への再資源化ができなくなる可能性があるとの話があり、調査を実施した際には、上記のように積極的に再資源化が実施されていたものの、今後の再資源化の動向については、注視する必要もあると言えます。

●異形押出品(建材)などの原料にも

 韓国国内では、上記の再資源化促進制度によって、PVC管及びサッシの再資源化が積極的に行われています。解体現場などで排出されるPVC管やサッシの廃材は有価で取引され、専門に回収する事業者がいます。そのため、排出される現場において、積極的に分別回収が行われ、一般的に最終処分されていないと考えられています。また、国内の再資源化とは別に、フレーク状の再資源化原料の輸入も行われていて、大部分が日本のPVC管由来の再資源化原料であると考えられています。
 これら専門業者によって回収されたPVC廃材は、有価で買い取られ、中間処理工場において異物の除去や色分け等がなされた後に、破砕、粉砕が行われ、粉末状の再資源化原料となります。再資源化原料は、PVC管、PVCサッシ、異形押出製品(建材)などの硬質PVC製品の原料として利用され、一般の製品として市場に供給されます。
 このように韓国では、再資源化原料を粉末状にすることが一般的であるほか、バージン原料を用いた製品とリサイクル製品との区別がなされていないのも特徴であると言えます。このように、韓国国内における中間処理工場は、積極的に再資源化が実施され、再資源化原料としても積極的に消費されていることが分かりました。

●まとめ

 今回の韓国調査では、硬質PVC建材についての再資源化促進制度と再資源化原料の利用実態の側面を把握することができました。今後は、中国、台湾などの東アジア各国の硬質PVC建材の再資源化促進制度や再資源化原料の利用実態を把握し、日本国内のPVC廃材について、国内だけでなく東アジアを含めた再資源化システムを考えるための基礎的な調査を実施していく予定です。
 そして、これら東アジア各国の再資源化促進制度や再資源化原料の利用実態を踏まえた上で、日本国内だけでなく東アジアを含めた形で硬質PVC建材の再資源化システムの在り方について検討していく予定です。