2014年6月 No.89
 

空飛ぶマネキン「AIRQUIN」誕生物語

優美なフォルムで、華やかに店舗空間を演出
驚異のマネキン革命はいかにして実現したか?

 「AIRQUIN(エアキン)」は、昨年の『PVC Design Award 2013』の大賞受賞作品。(株)マインドクリエイトジャパン(草深仁志社長/東京都新宿区)が開発した塩ビ製エアマネキンです。有名デパートのファッションコーナーやアパレルの展示会などを華やかにレイアウトする次世代型マネキンは、どのようにして誕生したのか。開発の秘話に迫りました。

●確かな技術とデザイン力の融合

宙に浮かぶ優美なフォルム

 「コンパクトさや、収納・保管・移動の簡易さだけでなく、リアルで優美な表現力が『日本のものづくりの力』を示す」(『PVC Design Award 2013』での選評から)。
 自由に持ち運びできて、店舗の上層空間にもディスプレイできる軽やかさ、人体の曲線を徹底追求した美しいフォルムと高級感あふれる色合い。「AIRQUIN」の魅力は、まさしくデザインアワードの選評どおり、確かな技術とデザイン力の融合から生み出されたものといえます。

 

●経歴の中から生まれた発想

「エアキン」開発の苦労を語る草深社長

 「私はマネキンの専門家でもないし、塩ビのことも殆ど知りませんでした」と言う草深社長が、塩ビ製エアマネキンの発想を得たのは今から10年以上前のこと。その背景には「スポーツ用品メーカーから広告業界に転じた」というご自身の経歴が深く関わっていました。
 「スポーツ用品にとって商品アイテムを立体的に見せるマネキンは絶対の必需品であると同時に、大きくて場所を取り、保管や輸送コストも掛かるので、バックヤードではとても邪魔物扱いなんです。どうして空気を利用したマネキンがないのかずっと不思議に思っていたのですが、その後、広告業界に転職してから販促ツールの製作などを通じて空気ビニ−ル加工・製造企業と繋がりができ、塩ビの汎用性の高さ、空気ビニール技術の可能性を知ったことで、塩ビを使えば折り畳みできて人体に近しいマネキンができるのではと考えるようになったわけです」

●理想のフォルム完成へ、試行錯誤の日々

 本格的に「AIRQUIN」の開発がスタートしたのは2007年。基本コンセプトは、人のフォルムをきちんと表現すること、玩具のようなチープさを感じさせないこと、従来のマネキンと競合しない店舗上層部の未活用空間を活用することの3点でしたが、「最初に相談した金型・サンプル職人さんから『人体の曲線をきれいに出すのは難しすぎる!』と言われてしまい、その後、理想のフォルムを完成させるまでには様々な試行錯誤と苦労の連続でした」と草深社長は言います。

❶「AIRQUIN」は多くのパーツを熱溶着して製造される。写真はメンイボディの例。約40ものパーツが使われている。

❷マチを取ったり、吊り(引っ張り)ラインを入れたり。美しいフォルムを出すために、製作工程の多くが手作業で行われる。

❸首の部分に装着したミラーが、吊るしたとき、天井の照明を拡散して美しく輝く。細かいポイントにも行き届く気配り。


 事実、2008年10月に会社を設立したものの、6アイテム5カラー(※)という基本形が決まって本格販売がスタートしたのは2010年も末に入ってから。「その間、大手百貨店や大手下着メーカーなどに試作品を持ち込んで担当者の意見を聞くなど、職人さんだけでなく、多くの人の知見を得ながら精緻な形に近づけてきた。一方で、商標登録や製法特許の取得など知的財産権の保護にも投資したので、経営は大変でした」。(※メインボディ、ハーフボディ、ヒップ男女、レッグ、ヘッドの6アイテムと、パールホワイト、ブラック、イエロー、スカイブルー、ピンクの5色)

 
手軽に持ち運びができて   空気を抜けば、驚きのコンパクトサイズ

●自動車業界や医療介護業界との連携など新たな動きも

ブランドへのこだわり
(レッグ底部に表示されたロゴ)

 困難な時期を乗り越えて、今や着実な実績を上げるようになった「AIRQUIN」。最近では、国内ばかりでなく、米国・欧州諸国をはじめ、アジア・中近東諸国にまで販路を広げつつありますが、草深社長は「大切なのは安心して使ってもらえる信用・信頼、つまりブランドの確立です。『AIRQUIN』はOEM(他社ブランド製品の受託製造)ではなく、製品に必ずブランドロゴを入れており、ユーザーにも理解してもらっています」と言います。
 一方、今後の事業展開については「国内外含め、ファッション・アパレル、百貨店などへ従来のマネキンとしての使い方を提案していく垂直展開と、所有する製法特許を他の業界とコラボレーションして新しいものを創り出す水平展開」を組み合わせていく方針で、後者に関しては既に自動車業界や医療介護業界などとの連携が進んでいる様子。
 「日本が世界に誇れるのは知能と技能。その2つを掛け合わせ、新たなカタチやサ−ビスを生み出し、貢献と利便を志すべく、社会への還元を果たす事が弊社の企業理念です。例えば介護実習で『AIRQUIN』を使えば介護の現場を明るくできますよね。そういう意味で最近は水平展開により力を入れています」
 最後に塩ビフィルムへの要望を尋ねると、「桜の花びらがプリントしてある生地があったら、季節感が出て美しいマネキンになるように、ラメ入りや特殊プリント生地等、特徴のある生地があればぜひ使いたい。」との答えでした。