2014年3月 No.88
 

大協化成工業(株)のプラスチック壁紙リサイクルシステム

酵素の力で樹脂と紙を分離。シンプルで安全なバイオ型新技術

 塩ビなどプラスチック壁紙のリサイクル技術については、新和環境(株)の叩解分離法(叩いて分離する)が広く知られていますが(本誌No.84)、ここにまたひとつ、新たな可能性が見えてきました。大協化成工業(株)が開発した「プラスチック壁紙再資源化システム」がそれ。酵素の力を利用して壁紙をプラスチックとパルプに分離するもので、シンプルで安全なバイオテクノロジー型のリサイクル技術です。小規模プラントを使ってテストが進められている同社の埼玉事業所(埼玉県羽生市)から、開発の現状をレポート。

●分離率95%以上。塩ビは床材に再利用

 まずは上に掲げた試験プラントの写真をご覧ください。幅1mほどのドラム型攪拌装置(左)と、配管で繋がれた小型分離装置。主要部分の構造は至ってシンプルです。
 攪拌装置には50℃程度に暖めたお湯が入っていて、この中に縦横1mほどに切断した壁紙を投入、酵素剤を加えた後、約15秒ごとに前後に攪拌を繰り返します。酵素の量はごくわずかで、お湯の量に対して0.1%程度。途中、壁紙から出る炭酸カルシウムでアルカリ過多になるのを抑えるため(強アルカリ性だと酵素剤の活性が低下する)、クエン酸を少量加えて水溶液を酸性〜弱アルカリ性域内に調整します。
 かくして、待つことおよそ1時間。攪拌装置の中にはきれいにパルプ分が剥がれ落ちた塩ビ樹脂部分が残る一方、水溶液は圧送ポンプで濾過システムに送られ、溶け込んだパルプ分を濾し取った後、再び攪拌装置に還流します。この水溶液は酵素を補充することで何度でも利用可能。分離率は95%以上で、塩ビは床材のバッキング材などに、パルプは固形燃料などへの再資源化が考えられています。

@裁断した壁紙を投入 A酵素を加える B攪拌すること約1時間 Cパルプが剥がれた塩ビを
  回収

大協化成工業株式会社
 プラスチック用添加剤、主として塩化ビニル樹脂用添加剤のメーカー。本社=東京都足立区西新井1丁目38番16号(西新井ファーストビル)。岡田直之社長。
 昭和35年11月、岡田陽一氏(現代表取締役会長)により創業。高品質と低価格で顧客の要求に迅速対応することを社是とし、塩ビなどのプラスチックの加工メーカーに安定剤等を供給し続けている。海外にも取引先が多い。韓国、台湾に関連会社がある。

●長くても1時間半で完全処理

岡田直之社長(右)と岡田陽一会長 (中央)。左は宇佐美取締役

 「要は洗濯と一緒で、揉み洗いで剥がすという発想なんです」と言うのは、同社の岡田直之社長。
 「実際、攪拌装置は業務用の50kg洗濯機(容量約300ℓ)。これで1回に25kg程度は処理できます。酵素剤は市販されているセルロース分解酵素(セルラーゼ)を使っていますが、処理時間は壁紙の量よりも、むしろ壁紙の裏打ち紙の種類でも違ってきます。メーカーによって剥がれにくいものもありますが、長くても1時間半あれば全ての壁紙が処理可能です。それと、壁紙は細かく粉砕するとプラスチックが紙に混ざってしまうので、ある程度の大きさが必要。その分、面倒な前処理の手間が省けます」

●さまざまな研究を重ねて

 このユニークな技術を発明したのが、同社の創設者である岡田陽一会長です。着想から開発までの経緯について、岡田会長は次のように説明します。
 「添加剤メーカーとして日頃お世話になっている壁紙メーカーが工場端材の処理に困っていると聞いて、もったいないし、何とかならないかと考えていたが、ある晩、夜中の2時ごろに眼が覚めて、壁紙の基材である紙はセルロースなんだから、セルロースを分解できる酵素を使えばプラスチックと紙を完全分別できると思いついた。そうだ、これでやってみようということで、次の日から研究部門に指示して開発を進めた結果、何とかいけそうだというので平成20年10月に分離方法の特許を出願したわけです」(21年8月特許取得。その後分離システムでも同年10月に取得)
 「攪拌装置も分離装置も一般的な業務用のもので、特にどうってことないんです。要は発想の問題。特許なんてこんなもんですよ」と岡田会長は謙遜しますが、開発の過程では様々な試行があったようで、「今使っている酵素に落ち着くまで50種類ぐらい試験しました。分離時間も、当初は長いもので6時間くらい掛かったのを、研究を重ねて短縮できるようになったのです。ドロドロになった水溶液からきれいに紙を分離するのも大変でした」(取締役の宇佐美弘治品質管理部長)といいます。

●リサイクル手法のひとつとして社会に提案

特許証「プラスチック壁紙からのプラスチックと紙の分別分離回収方法特許証」

 シンプルなシステムであること、酵素もクエン酸も無毒性なので特別な排水対策の必要がなく、完全クローズドシステムで処理できること、さらには液体用紙パックの分別リサイクルにも応用可能であること、などのメリットを備える大協化成工業の壁紙リサイクルシステムですが、同社では「当面大規模な事業化などは考えていない」とのことで、岡田社長は、
 「あくまでリサイクル手法のひとつとして社会に提案するという位置づけ。プラスチックの水分をどう効率的に乾燥させるかという後処理の問題は残っているが、有用な技術であることは確かなので、利用してもらえる会社があれば協力は惜しまない。ISOの関係などで工場端材の社内リサイクルにこの技術を使いたいというのであれば、必ずお役に立てると思う」としています。