2013年9月 No.86
 

蟹江プロパンの塩ビ複合材リサイクルシステム

独自開発の熱板技術を用いて、 塩ビターポリン、塩ビレザーなどの簡単分離を実現

 複合材を熱を利用して分離、リサイクルする−ガス販売の蟹江プロパン(株)(愛知県海部郡蟹江町)が開発を進めていた「塩ビターポリン等のマテリアルリサイクル技術」が完成し、現在、事業化へ向けて試験運転が続けられています。循環型社会の一翼を担うものとして関係者の期待を集める新技術の近況を、同社化学事業部(同町蟹江新田前波240 TEL 0567−96−1311)で取材しました。

●「塩ビリサイクル支援制度」の対象案件

塩ビターポリンの構造

 塩ビ工業・環境協会(VEC)では、2007年から「塩ビリサイクル支援制度」を創設して、これまで困難とされていた塩ビ複合製品のマテリアルリサイクル技術開発を支援しています。蟹江プロパンが独自に開発した「塩ビターポリンのマテリアルリサイクル技術」もそのひとつ。2012年7月に、通算7件目の支援案件として採択されたもので、同社では2012年3月から開発に着手して、同年11月末で基礎技術を完成しています。
 この技術は、テント生地に用いられるターポリンや合成皮革(レザー)など、塩ビシートをポリエステル繊維や綿の織物にラミネート(熱圧着)した複合材の工場端材(耳屑)を、塩ビと他の素材に分離し、塩ビはリサイクル原料として再利用するもので、現在その大半が埋立処分されている塩ビ複合材の再資源化を大きく進展させる可能性を秘めています。

●床材のバッキング材などにリサイクル

 ターポリンなどのマテリアルリサイクル技術としては、先にご紹介した(本誌No.83)高速遠心叩解法(複合材を高速回転する金属製の刃で叩きながら塩ビと他素材を分離する方法)などが知られていますが、蟹江プロパンの技術は、熱板を用いて簡単に両者を分離できるという点に最大の特徴があります。
 装置は非常にコンパクトで、長尺の耳屑をチーズ巻きにして機械にセットし、加熱した熱板の間をローラーで送っていくと、数秒程度の接触時間で塩ビと他の素材(ポリエステル繊維など)がきれいに分離し、素材別に回収されます。処理速度はレザーの場合、10m/分以上。処理対象となるのは基本的に幅10cm未満、長さ100m超の耳屑ですが、熱板の小型化により、長尺ではなく数m程度の短いものでも分離が可能となりました。また、耳屑の幅が広い場合は10cm以下に同時に5分割し、それぞれを巻取ることができるスリッターを開発して対応することができます。
 現在同社では、近隣の工場から出るターポリン、レザー、繊維入り透明塩ビカーテンなどの耳屑を試験的に処理しており、分離処理した後の塩ビシートは床材のバッキング材やパレットなどにリサイクルされています。

   
装置の心臓部である熱板   分離工程   分離した塩ビシート

●試行錯誤を重ねて開発に成功

事業の説明をする若松次長

 それにしても、なぜプロパン会社が未知の分野である塩ビのリサイクルを思い立ち、それを成功させることができたのか。化学事業部の若松茂次長にお話を伺いました。
 「もともと当社の黒川公明会長が社会奉仕、社会貢献に強い関心を持っていて、東日本大震災のときも、その惨状を見て即座に石巻市などの被災地に義援金を送っている。今回の仕事は、ある人からターポリンのリサイクルをやってみないかと声を掛けられて始めたものだが、動機は至ってシンプルで、こういう事業は誰かがやらなければならないし、こういう事業で収益がでるような世の中にしなければならないと真剣に考えたからだ」
 未知の領分ながら「経営的にも技術的にも、そう難しく考えていなかった」といいますが、開発までにはやはりかなりの試行錯誤があったようです。
 「我々としては原料と売り先があれば事業になると思っていたし、もともと熱で圧着したものだから、もう一度熱を掛ければ分離できるのではないかと考えていた。ところが事はそう簡単ではなく、当初はお湯(ボイラー)に入れたり熱風を吹き掛けたり溶剤につけたりして、機械も錆だらけになってしまった。地元の機械メーカーと相談して、熱板の利用という発想にやっとたどりついたが、難しい化学知識があったわけではなく、ほんとうの素人考えでここまで来てしまったという感じだ」

●採算が見えたら一気に実用化へ

透明塩ビカーテンも処理
(巻き取り工程)

 最も難しかったのは加熱の調整方法だったと言います。「素材の厚さ、季節によって温度を変えなければならない。冬は高い温度を掛けるし、夏は40℃から50℃ぐらい。温度を上げすぎれば耳屑が断裂する恐れがある。一応センサーを使って管理してはいるが、肝心なのは現場の人間の経験だ」
 同社では現在進めている試験運転の中で、ローラーの回転速度の検討、耳屑を簡単にチーズ巻きできる方法の開発(自動巻き取り機械はあるが現時点では手巻きが基本)など、生産性向上のための改良作業に取り組んでおり、「これらのノウハウが十分に蓄積できて、採算が見えたら一気に実用化に進みたい」方針。一日も早い商業運転の実現が待たれます。