2013年6月 No.85
 

大同樹脂(株)のPTPリサイクル事業

工場端材を塩ビとアルミに分離。製薬会社の期待を担い、本格操業へ

大同樹脂の本社工場
 錠剤やカプセル剤の包装に広く利用されているPTP(press through package)。その工場端材リサイクルに取り組む大同樹脂(株)(本社 長野県下伊那郡阿智村春日2232-1/TEL 0265-43-4700)の事業が、試験期間を経ていよいよ本格操業に入ります。飯田市の工場を訪ねて、硬質塩ビリサイクルのモデルケースを取材しました。

●新工場で月160〜200トン受入へ

内田社長

 密閉性、防湿性が高く、中身の品質保持に優れることから、薬剤包装の主流となっているPTPは、塩ビやPP(ポリプロピレン)などの透明なフィルムにアルミ箔を熱接着して作られます。薬剤を包むものだけに、樹脂フィルム、アルミ箔ともに高品質の材料が用いられますが、製薬会社の厳しい製品管理の中で、各社の工場からは日々PTP端材(抜きロスや規格外品など)が排出され、その殆どが産業廃棄物として埋立や焼却処分されているのが現状。
 そうしたPTPの工場端材を、特殊な技術でアルミと樹脂に分離し、それぞれをリサイクルしようというのが、今回ご紹介する大同樹脂の取り組みです。
 同社がPTPのリサイクル技術開発に着手したのは2008年から。内田政和社長のお話では「初めの3年間は試行錯誤続きの毎日だった」といいます。
 「何とか事業化の目処が立ったのが2011年。早速各製薬会社にお声がけし、工場見学、リサイクル経路の確認等を経て、エーザイ、キッセイなどの大手製薬会社と契約することができました。それだけ、どの会社もPTPの処理に困っていたのだと思います。その後、月30〜40トン程度を処理し技術改良による安定した生産、リサイクル品の販路確保などにより、ようやく順調に処理できる確信が持て、この7月からは建設中の新工場に移り本格操業に入る予定です。新工場は設備も塩ビ用とPP用の2ラインを備えており、月160〜200トンが受け入れ可能です」

●リサイクル技術の要・加熱回転ドラム

樹脂とアルミの分離システム
PTPを加熱回転ドラムに投入

 同社が開発したPTPリサイクル技術は、素材の熱による状態変化を利用したもので、80℃〜100℃に加熱(冬場は130℃程度)した回転ドラムにPTPを投入すると、その熱によってアルミが収縮硬化する一方、樹脂は膨張軟化し、圧着していた部分が剥がれ始めます。さらに、ドラム内部に取り付けた回転刃で叩きながら、アルミと樹脂を完全に分離するという仕組みです。
 分離した後、樹脂は形状を変えず、アルミは2o以下の粉状となりそれぞれ回収される。一連の作業に要する時間はごく短く、投入されたPTPが見る間に樹脂とアルミに分離していく様子は驚くばかり。
 「摩擦熱が起きやすいよう常に一定量でドラムを満たしておくことが必要ですが、入れすぎると過熱状態になって樹脂が溶け出す恐れがある。刃の回転もPTPをあまり細かく砕かないように回転数を調整する必要があります。粉砕してしまったらPTPは処理時間が長くなります。」(内田社長)
 同社では現在、この分離方法と分離設備について特許の登録申請を行っています(7月中に登録予定)。

●CDのリサイクル技術を改良

水口取締役

 大同樹脂はもともと自動車のトランクボードや内装材などのリサイクルを主力事業とする会社ですが、事業拡大のために新分野の開拓を模索していた内田社長が、2007年に業界からの打診を受けてCD・DVDのリサイクルを検討。「加熱処理が有効という技術的見込みはついたものの、リーマンショックの影響などで結局この仕事は実らなかった」とのことですが、CDと同様アルミと樹脂の複合製品であるPTPにこの技術の応用を思いついた内田社長は、開発グループを組織し、改良を重ねて現在の設備を完成させました。
 「機械については素人集団のようなもので、社長を中心に皆でいろいろ相談しながら少しずつ改良を進めました。今の機械は最初の試作機を含めて4台目。難しかったのは処理能力をどう大きくするかという問題で、能力を大きくすると僅かに未分離品が出てきたり、アルミが樹脂に巻き込まれてしまったりして、その解決にずいぶん時間が掛かりました」(同社取締役の水口芳昭氏)

●再生塩ビは建材用などに

 大同樹脂では、PTP端材は有価買取、工場までの運送費は製薬会社の負担としていますが、遠方からでも処理を依頼するメーカーが多く「新工場完成までは能力一杯でお断りしている状態」(水口氏)。
 一方、再生塩ビやPPの用途としては、透明で高品質なので「自動車、文具、建材の表面材などに使いたいというところが沢山ある。出口の心配はない」とのことですが(アルミは精錬メーカーに全量売却)、内田社長は「将来は成形メーカーと協力して製薬会社にリターンするものを作りたい」と言います。製薬会社も環境対応として、そうした資源循環型のリサイクルを望んでおり、病院などに配るクリアファイルや工場見学者に配る三角定規など、既にいろいろなアイテムが出てきているようです。
 「薬局や一般家庭から出る使用済み品の処理も将来的には検討課題だが、現時点での対応は不可能。まずは製薬会社の分から着実に実績を重ね、ぜひ当社の成長部門に育てていきたい」(内田社長)
 製薬会社の熱い期待の中で、いよいよ注目の取り組みが本格化します。

写真左から─

・分離された塩ビフィルム(@)とアルミ(A)

・フレコン詰めされて出荷を待つ再生塩ビ(B)