2010年12月 No.75
 

茅ヶ崎市の建築行政に見る「耐震化対策」の今

安全、安心のまちづくりへ市民&行政がタイアップ。
計画的取り組み進む

 地震国日本にとって、建築物の耐震改修は全国民で取り組むべき緊急課題。現在、各自治体で効果的かつ効率的な耐震改修などが進められていますが、その中で、独自の積極策で注目を集めているのが神奈川県茅ヶ崎市。同市の建築行政、そして耐震化の現状について、茅ヶ崎市役所都市部建築指導課の大川哲裕課長補佐(建築安全担当)にお話を伺いました。

●着々と進む建築行政の拡充

 茅ヶ崎市では、平成3年から行政運営の基盤としてきた「現総合計画」を22年度で終了、来年度から新たな総合計画をスタートさせるのに備えて、今年の4月に大幅な組織改正を行っています。まちづくりを担当する都市部については従来の7課体制を5課体制(都市計画課、都市政策課、景観みどり課、建築指導課、開発審査課)に変えて業務の効率化を図る一方、これに先立つ平成19年には、建築指導課の業務を、指導担当、審査担当の2担当に建築安全担当を加えた3担当に拡充。建築行政の強化へ向けて着々と準備を進めてきました。

 
大川課長補佐

 「市役所の建築指導行政というと建築確認申請書の審査ばかりしているイメージが強いかもしれないが、平成11年の建築基準法大改正により確認業務が民間開放されたことで、この分野における市の役割は大幅に減少した。そこで、今後は建築行政が本来担わなければならなかった業務に力を入れようということになり、以前は指導担当に付属していた業務を分離、独立させる形で安全担当の部門を充実させることとなった。」(大川課長補佐)
 建築行政が本来担うべき業務としては、建物の防火性能の向上やアスベスト対策など様々な問題が山積していますが、中でも同市が目玉と位置づけているのが既存建築物の耐震化促進です。
 「区画整理の遅れで市内は幅の狭い道路が入り組んでいる。これを広げる取り組みを20年以上続けてきたが、既存建物はそう簡単に建替えがきかない。特に昭和56年6月の建築基準法改正以前に建てられた旧耐震基準の家はまだ相当数残っており、この状況を放置したままでは、いかに道路を広げても地震発生時に倒壊して道路をふさぐなど被害拡大の原因になりかねない。耐震化の促進は、市の安全担当として最大の責務だと考えている。」

●耐震化促進のアクションプラン「茅ヶ崎たいあっぷ90」

 
※特定建築物とは、旧耐震基準のデパートや病院、ガソリンスタンドなどを指す。

 茅ヶ崎市における一般住宅の耐震化率は平成22年現在69.1%。全国平均の79%に対して10ポイント下回っています。
 こうした状況を改善するため、市は国の基本方針および県の耐震改修促進計画に基づいて「茅ヶ崎市耐震改修促進計画」を策定(平成20年3月)。「平成27年度まで耐震化率90%実現」を目標に、既存建築物の安全性向上を計画的に進めていく基本方針を定めたのに続いて、同年8月には、その具体的なアクションプランとなる「実施計画」(「茅ヶ崎たいあっぷ90」)をまとめ、90%実現を後押しするための施策のメニューとタイムテーブルを明らかにしました。また、平成21年9月には、計画の推進基盤となる民・産・官の協働組織「茅ヶ崎たいあっぷ90推進協議会」も立ち上げています(「たいあっぷ90」は市民から公募したネーミング。市民・事業者・行政のタイアップで耐震化率を90%にアップする意味が込められている)。

「茅ヶ崎たいあっぷ90」のシンボルマーク、えぼし岩とたいのアップ君

●眼を見張る補助制度の充実

 「茅ヶ崎たいあっぷ90」に示された事業のメニューは下表のとおり。注目すべきは、これらの事業を後押しする補助制度が充実していることで、現時点で以下のような制度が実施されています(対象はいずれも昭和56年5月31日以前に着工された旧耐震基準の住宅)。

 

(1)耐震診断への補助(診断費用8万4000円のうち5万円。65歳以上の高齢者で構成する市民税非課税世帯は無料)
(2)木造住宅耐震化への補助(耐震補強にかかる工事費用の1/2以内で上限50(70)万円+耐震診断の自己負担額3万4000円の還元、など)
(3)次世代型住宅建設への補助(建て替え促進のための補助。省エネ、地震対策のレベルが高い長期優良住宅などの高性能住宅の工事費について一律50万円)
(4)耐震シェルター設置への補助(寝室など一部屋だけの小規模型耐震改修への補助。設置費用の1/2以内で上限25万円。平成24年3月末まで)。
 上記のうち、次世代型住宅建設促進事業は、他の自治体の中でも例が少ない取り組みです。このほか、毎年1月と9月を耐震促進月間と定め、広報紙(「耐震ちがさき」)の発行や講演会・セミナーの開催など、啓発・情報提供活動に力を入れている点も、茅ヶ崎市の「やる気」を感じさせる取り組みといえます。

●行政マンに求められるコミュニケーション能力

 「とにかく市民の命を守ることが第一。そのためには、まず耐震診断を受けて自宅の状況を把握してもらい、その上で何をやるかを決めてもらう。耐震のためには建替えが最良だが、高齢者世帯のように経済面などでそうした対応が難しいケースでも、それぞれの立場に応じて、お金をかけずにできる対策をできる限りやってもらう。例えば、寝室には大きな家具を置かない、家具の配置を変える、転倒防止策を講じるといった細かいレベルから建替えまで、市民にもできるだけのことをやってもらい、行政もそれを制度や情報提供で支援する。そうしたひとつひとつの施策を通じて、『実施計画』のメニューを完成させることが我々の究極の目的だ。」
 最後に、大川課長補佐は今後の行政マンのあり方を次のように語っています。「建築行政に限らず、これからの公務員は待っていてはダメ。どんどん外に出て市民とコミュニケーションすることが求められる。服部信明市長が常々言っていることだが、市に必要な人材は知識詰込み型の指示待ち人間ではなく市民の立場で物を考える力とやる気のある人間。そういう意味で茅ヶ崎市は脱・公務員試験宣言を掲げている。こうした変革こそ我々の進むべき道だと思う。」

 

■茅ヶ崎市の概要と建築行政

 神奈川県の中南部、東京都心から約50キロ、相模湾に面した湘南地方の中心部に位置する。面積35.76キロm2、総人口23万4,959人(2010年9月1日)。
 明治時代から別荘地、保養地として発展してきたが、戦災被害を受けていないため区画整理が遅れていること、人口密度が6500人/キロm2強と高いこと、などのため、より安全なまちづくりのための建築行政、とりわけ既存建築物を中心とした地震対策が重要な政策課題となっている。
http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/