2010年6月 No.73
 

「住宅リフォーム時代」への提言

外装研究の第一人者が語る、
これからの建材リサイクル、窓断熱、省エネ

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 准教授 清家 剛 氏

 

●本業は解体・リサイクル

 最近ぼくは省エネ建築の専門家みたいに見られているようですけれど、自分では解体・リサイクルが専門だと思っています。
 もともとぼくの基本は外装で、坂本功先生(現東京大学名誉教授)の研究室で助手をしていたころから外装の研究をしていましたし、特に阪神淡路大震災後の調査に関わる中で外壁を中心とした非構造部材の耐震もテーマにするようになってからは、腹をくくって外装に取り組むようになりました。
 その後、1999年に新領域創成科学研究科ができて、ぼくも環境学専攻に移ることになったので、建築物の環境分野で何か新しいことをやるんだったら、解体とかリサイクルだろうということで、リサイクルを専門に掲げるようになりました。しかし、外装をやってきたことはぼくにとっては今でも大切な糧になっています。
 外装というのは、建物を包んで統合する技術で、建築そのものと言えます。建築の問題というのは、外装との狭間、境界線で起こるものが殆どですし、そこには断熱も防火も改修もすべて関わってくる。そういうトータルな部位の研究をしてきたおかげで、いろいろと分野が広がるようになったんだと思います。
 ですから、外装に関しては人に負けないようにと思っているんですが、CASBEEの作成に関わったころから、どんどん省エネ関連も増えてきて、その後省エネ法の改正を手伝ったり、そのときに皆で作った基準がいつのまにか住宅版エコポイントに繋がっていったりして、何となく省エネの人と思われるようになってしまったんですね。自分ではちょっと違うんだけどなあという感じで、本業はあくまで解体・リサイクルだと思っているわけです。

●塩ビサッシリサイクルとの出会い

 もっとも、リサイクルをやるようになって2年ぐらいは何も仕事がなかったですね。唯一声を掛けられたのが塩ビサッシのリサイクルの仕事で、2001年に(社)日本サッシ協会から突然話がきて、「塩ビサッシのリサイクルをやりたいから協力してほしい。ドイツでは80%以上もリサイクルしているし、我々も90%ぐらいはできそうだ」というので、それじゃあということで、解体現場から回収した窓を使ってリサイクルの実験をしてみたら、予想はしていましたけど、50%もできませんでした。
 それで、2003年にヨーロッパでの現地調査に同行していろいろ調べてみましたが、実際に見てみると、ドイツの場合は、日本のように使用済みのものを回収してリサイクルするというだけじゃないんです。それに、リサイクル率のカウントの仕方や製品設計などもいろいろ条件が違っていて、必ずしも日本と同列に考えられない。リサイクル率とか回収率を競うのは意味がないわけです。

塩ビサッシのリサイクルモデル事業 
 (社)日本サッシ協会とプラスチックサッシ工業会および塩ビ工業・環境協会(VEC)の3団体が、将来の塩ビサッシの排出量増大に備えたリサイクルシステムの検討を目的に、北海道庁・支庁の協力と清家准教授の指導を得て、2007年からスタートした事業。
 2011年度までを「初期段階」と位置づけ、現在は、対象地域を札幌市とその周辺(石狩・空知・胆振・後志の4支庁管内)に限定して、使用済みサッシの回収と中間処理、塩ビサッシメーカーによるリサイクルなどを進めている。

 ということは結局、日本は日本なりにできるレベルを目指すしかない。ということで、現在北海道で進めている塩ビサッシのリサイクルモデル事業(囲み記事)が粛々と始まったという流れですね。幸い、日本の場合はヨーロッパと違って、使用済み製品の廃棄が本格化するまでまだ時間がありますから、この間に将来に備えてリサイクルのシステムを少しずつ整えておく、と同時に、課題も明らかにしておくことが大事です。特に日本でいちばん塩ビサッシが使われている北海道では、いつか解体材がまとまって出てきたときに、いちばん最初にリサイクルが問題になるはずですから、すぐにでもそれに対応できるようにしておかなければなりません。そういう意味では、道庁の応援を得て行政と二人三脚で取り組んでいる今の事業は、とても望ましい形だと思います。
 それと、塩ビサッシについてはJISの制定が決まりましたね(「無可塑ポリ塩化ビニル製建具用形材」規格No.A5558/2010年4月20日制定)。ぼくもJISの原案作成委員会の委員長としてこの件に関わりましたが、JISができたということは、これまでバラバラの方向を向いて事業を進めてきた業界に、共通のプラットホームができたということで、これも今後にとって好材料になると思います。

●建材リサイクルの正しい方向

 ともかく、リサイクルの仕事が何もなかった数年間、一生懸命考えるだけでしたが、やっと現に関われたんです。これはぼくにとっていい経験になりました。リサイクルだ解体だと自分でテーマを掲げた割りに、最初は調査ひとつどうやったらいいか分からなかったんですからね。そんなときに初めてリサイクルと関わったのが塩ビサッシだったというわけで、この仕事はとてもおもろしかったし、今もおもしろいと思っています。
 塩ビサッシというのは、解体材の量が増えてくれば、塩ビ管などと並んでリサイクルしやすい素材だと思います。というのは、建材としてはサイズが大きいから分別しやすいわけです。塩ビサッシのリサイクルの仕事に関わりはじめたころ(2002年)、浦和で一戸建ての解体調査をしたことがあるんですが、そのとき、すべてのプラスチック建材をマニアックに調べてみたら、細々したものも含めて100種類ぐらいの用途が確認できました。それを見て思ったのは、あまり細かいものを分別して手間をかけるより、解体の時にはっきり識別できるボリュームの大きなものからリサイクルすべきだということでした。
 サッシや管、雨どいといった塩ビ建材は、コンクリート、木材、石膏ボードなどに次いで、住宅の中では大物の部類ですから、リサイクル材として期待できると思いますが、逆にそれ以外の細々したものを掻き集めるのは、現場の手間の割りに実りがない。むろん、アスベストとかの有害物質は絶対分別しなければならないけれど、やっぱりどこかで線を引いて、できる順からリサイクルしていくのが正しいやり方だと思います。建設リサイクル法の精神もそうなっています。となると、将来リサイクルが義務化される対象としては、今候補に上がっている石膏ボード、ガラス、塩ビ建材ぐらいが限界で、それ以外は金が掛かるだけであまり意味がないんじゃないかという気がしています。

●住宅は「新築より改修」の時代に

 ただ、これからの住宅問題を考えてみると、解体というのはもうそんなに出てこなくなるんじゃないかという気もするんですよね。というのは、経済も人口も今後そんなに大きな成長は望めないでしょうから、間違いなく新築は減ってきます。現に2009年は80万戸ぐらいしか建っていません。出生率から考えると、これからはたぶん、一軒の家を子ども1人当りで0.8軒分ぐらい、夫婦2人で1.5軒分ぐらい相続するような時代になってくるでしょう。
 しかも一方では、特に1980年以降に建てられた家だと、最低限の省エネ基準に一応達しているし耐震性も高いので、30年ぐらいで壊してしまうのはあまりにもったいない。それにサッシを付ければ断熱性もほどほどに確保できます。そうすると、わざわざ新築したりマンションを買ったりするより、改修すればいいじゃないかということになってくる。つまり、放っておいても長寿命住宅の時代が来るわけです。住宅版エコポイントも、リフォームの場合は窓や外壁、屋根などの断熱改修で基準をクリアしなさいということになっているので、改修の流れに効果的に働くと思います。
 それにしても、住宅版エコポイントというキャッチコピーの発信力には驚きましたね。これまで省エネなんか見向きもしなかった人たちがエコポイントと聞いただけで一斉に動き出す。コールセンターの電話が鳴り止まないほどだそうです。住宅で環境に配慮するには断熱が大事だと認識されたのは大変結構なことで、やっぱり名前とかイメージというのは重要なんだなと思い知りました。

●忘れてならない、改修後の「チェック&コントロール」

 とはいえ、ちょっと気になることもあります。というのは、今はみんな喜んで改修へ改修へと向かっていますが、一方でいろんな歪みが出てくる可能性もあるということです。例えば、複層ガラスに変えると結露しないとよく言われますが、実際は結露しないわけじゃなく、どこかで結露していることが多いんです。その結果、見えないところにカビが生えて、カビアレルギーが起きるということだって、施工業者のレベルによってはあり得ないことではない。
 住宅というのは最初に設計者が全体の環境バランスを計算して作るわけだけれど、これに断熱改修するということは、空気環境も熱環境も最初の設計とは違ったものになるということです。その違う設計になっているということをみんな認識しているのかどうか。これは結構大きな問題で、部分改修で全体の環境が変わるのは当然のこととして、その結果どこかに歪みが出ていないかを、設計者が関わって構造的にも環境的にもきちんとチェックしコントロールしていくことが大事なのです。
 改修は大いに促進すべきですが、改修の時代になればなるほど、そういうリフォームの得意な設計者を積極的に育てていくことが求められます。そして、その職能にプロとしての適正な報酬が支払われるようにしていくことが、優良な中古住宅市場を広げていく上でいちばん大切だと思います。

●現行基準より1ランク上のレベルをめざせ

 改修に関してもうひとつ不満に思っているのは、環境や安全の要求水準が上がってきたのはいいとして、建設業界も消費者も法律が定める最低基準さえ守っていればいいという考えになっていないかということです。耐震基準でも省エネ基準でも、ほんとうに家を大事にしたいのなら、もうちょっと高い性能を選択すべきなんじゃないでしょうか。次世代省エネ基準も、平成11年基準なんて古い基準でほんとうにいいの、と思ってしまいますね。
 液晶テレビとかマイナスイオンの出るエアコンとか、機器類の性能にはいろいろなものが付加されていますが、住宅本体のほうも、新築や改修のときに、国が求める最低基準よりもう1ランク上の耐震性、省エネ性、防火性を選択肢に入れてほしいわけです。そうでないと、基準ができたとたんに技術の発展も止まってしまったなんてことになりかねません。そのためには、建築に関するさまざまな性能が人々にとってもっと魅力的に見えることが必要だと思います。耐震改修にしても、地震が起きないと先に進まないといったネガティブな発想でなく、「やっぱりこっちのほうが安心でいいよね」と消費者に魅力的に見える性能になれば、自然に先に進んでいくはずなんです。

■CASBEE(建築物総合環境性能評価システム) 
省エネや省資源・リサイクル性能といった環境負荷削減の側面はもとより、室内の快適性や景観への配慮など環境品質・性能の向上といった側面も含め、建築物の環境性能を総合的に評価する手法。(産官学共同プロジェクト)

■省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)の改正
 省エネ法は石油危機を契機に1979年に制定。2008年5月、業務部門と家庭部門におけるエネルギー使用の合理化を一層推進するため改正が行われ、断熱性能と設備機器の効率を総合的に評価するトップランナー基準によって建売住宅の省エネ水準を高める、などの考えが盛り込まれた。

■住宅版エコポイント
 一定期限内に行われたエコ住宅の新築(省エネ法のトップランナー基準〈省エネ基準+α(高効率給湯器等)〉相当の住宅など)、またはエコリフォーム(窓や外壁、屋根などの断熱改修)に対して、様々な商品や追加工事費用などと交換可能なポイ ントを発行する制度。2010年3月8日から申請受付スタート。



(取材日/2010年2月26日)

略 歴
せいけ・つよし
  1964年徳島県生まれ。1987年東京大学工学部建築学科卒。1989年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修士課程修了。東京大学工学部建築学科助手を経て1999年4月より現職。博士(工学)。
 建築外壁の総合的な性能確保に関する研究を中心的課題のひとつとして、現在は建築生産と環境について考える立場から、改修・解体技術やリサイクル技術、また環境に配慮するための設計・生産段階の意思決定プロセス等を研究している。「CASBEE-すまい(戸建)」の開発に当って検討委員会幹事を務めたほか、建設リサイクル法などの審議にも参加している(国土交通省社会資本整備審議会建築分科会 住宅・建築物省エネルギー部会委員)。
 主な著書に、「図解事典 建築のしくみ」(共著、彰国社)、「東京の環境を考える」(共著、朝倉書店)、「サステイナブルハウジング」(共同監修、東洋経済新報社)などがある。