2009年3月 No.68
 

持続型社会の実現に向けた大栄環境グループの取組み

最先端のガス化改質技術で、塩ビを含む廃プラスチックも100%再資源化

(株)クリーンステージのガス化改質施設
 関西を拠点とする大栄環境グループは、国内最大規模の廃棄物処理・再資源化事業者。神戸六甲アイランドにある同グループの本部(兵庫県神戸市東灘区向洋町東2-2-4/TEL:078-857-6600)と、最新のガス化改質技術で注目を集める関連会社の(株)クリーンステージ(大阪府和泉市テクノステージ2-3-30/TEL:0725-51-3933)を訪ねて、廃プラスチック処理を中心に事業の現状を取材しました。

●「地産地商」をモットーに多彩な事業展開

 大栄環境グループの発祥は1979年、下地一正氏(現グループ代表)が大阪府和泉市に大栄環境(株)を設立したのが始まりで、今年で創業30周年を迎えます。現在、同社を中核にグループ会社12社、共同出資の関連会社7社でネットワークを構築しており、12のリサイクルセンターと6つの焼却施設(うち4つがサーマルリサイクル施設)、さらに3カ所の管理型最終処分場(兵庫県三木市、大阪府和泉市、三重県伊賀市)、300台以上の専用車輌などを保有して、廃棄物の収集・運搬から中間処理/再資源化、最終処分に至る高度な一環処理システムを完成しています。グループ全体の廃棄物受入処理量は約4000トン/日(年間約146万トン)、売上高340億円(2007年度)に達します。
 同グループのモットーは地産地消(地域生産・地域消費)ならぬ「地産地商」。地元に根を下ろして、あくまで地域社会のために貢献するというのが基本姿勢で、実際、グループが扱う廃棄物の9割以上は近畿2府4県と三重県から集められたもの。処理品目は、全体の約5割を占める建設系廃棄物を中心に、自治体からの一般廃棄物や容器包装廃棄物、自動車シュレッダーダスト(ASR)、廃パソコンなどの電子機器、パチンコ台、医療系廃棄物、食品残渣などまで幅広く、それぞれ各地域のリサイクルセンターにおいて、手選別や機械選別で廃プラスチック類や瓦礫類、木くず、金属くずなどに分けられた後、最先端のリサイクル機器を駆使して徹底した再資源化が進められています。
中間処理からマテリアルリサイクルへの流れ(概要)
 このうち、廃プラスチック類のマテリアルリサイクルについては、伊賀市の三重総合リサイクルセンターでペレット原料や、土木資材、ガーデニング資材、車止めなどの製品が作られています。最近では、使用済みの容器包装プラスチックから医療廃棄物の回収容器をつくる計画も進められています。また、各センターで分別された使用済み塩ビ管も専門のリサイクル業者に売却され、再生塩ビ管の原料に生まれ変わります。
 廃プラスチックは、紙くずなどと共にRPF (固形燃料)に加工されボイラー用燃料としての利用が伸びていますが、実は、RPFの製造を日本で最初に手がけた民間企業が大栄環境です(1986年、西宮リサイクルセンターでRDFとして製造開始)。現在では三木、和泉、三重の各リサイクルセンターも含めて、月産約3500トンという全国でもトップクラスの製造能力をもっています。
 一方、塩ビをはじめ様々なプラスチックが混ざり合った分別困難な廃プラスチック類(建設系混合廃棄物やASRなど)については、焼却施設でのサーマルリサイクル(発電)やガス化溶融技術によるケミカルリサイクルが行われており、こうしたリサイクル手法の組み合わせによって、「廃プラスチック類の埋立は、もう殆どなくなった状態」(大栄環境グループ本部の担当者)にまで進んできているとのことです。

★阪神・淡路大震災の復旧活動が市民、行政の信頼に

膨大な瓦礫の山との闘い

 1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災とその後の復旧への取り組みは、大栄環境グループの歴史を語る上で外すことのできない出来事です。同グループの2006年版CSR報告書は、その模様を次のように述べています(要約)。
 「震災で生じた膨大な瓦礫を迅速かつ適切に処理すること。それは、地元企業である私たちに課せられた使命でした。私たちがこだわったのは、未曾有の震災という状況下であっても、今まで培ってきたノウハウを最大限に活かして、『リサイクル比率』を高めるということでした。私たちは続々と送り込まれてくる瓦礫を選別・リサイクルしやすいかたちで受け入れる体制づくりに取り組み、グループ全体の充実したトータルリサイクルシステムを有効に機能させて、各作業所で選別を行った廃棄物をすみやかに運び出し処理することによって、作業効率を大きく高めていったのです」
 加えて、膨大な瓦礫の山との格闘に打ち勝つために、ロサンゼルス大地震で活躍したコンクリートガラ破砕選別機や木質破砕機をアメリカから導入するなどして、処理スピードをアップし、1998年3月に、3年余にわたった作業をすべて終了しました。宝塚市、伊丹市、尼崎市、明石市、芦屋市、西宮市、神戸市の震災廃棄物を受入れ、大栄環境グループが処理した数量の合計は358万トンに上りました。
 こうした同グループの活動は行政、市民の強い信頼につながり、その後の飛躍の契機になったといいます。使命感から始まった地域貢献が、結果として事業の成長を促す。まさに「地産地商」の面目躍如といえるエピソードです。


★循環型社会のステップアップへ更に挑戦/(株)大栄環境・金子文雄社長談

金子社長

 もともと最終処分業からスタートした大栄環境グループが、他にさきがけて中間処理施設、リサイクル施設の建設に取り組んだのは、「処分場だけで事業を継続していくのは限界がある。これからは廃棄物を減容処理し、さらにリサイクルを進めることが大切だ」という下地会長の考えに基づくものでした。
 こうした取り組みは、今で言えば循環型社会をめざすということだったわけですが、当時は排出事業者の理解もなかなか得られず、採算割れに陥って処分場の利益で何とか事業を繋ぐといった時期もありました。状況が好転したのは10年ほど前からです。循環型社会に対する社会の理解が進み、特に建設系廃棄物のリサイクルを大手ゼネコンが評価してくれるようになってからは、価格も安定してきました。今では大栄環境グループが受け入れる建設廃棄物の8割がスーパーゼネコン5社からのものとなっています。
 当グループの処理品目は、建設系、行政系、工場系が3本柱ですが、最近はそれ以外にも、POPs(難分解性)農薬やPCB汚染土壌の無害化処理、アスベストの再資源化など他ではできない特殊なものを手がけています。建設廃木材から燃料用エタノールを作るバイオエタノール・ジャパン・関西(株)(当社と大成建設、サッポロビールなど5社の共同出資会社)も、そうした新たな挑戦のひとつです。
 我々は今後も、「地産地商」を基本に、まずは地域の廃棄物を確実に処理しつつ、循環型社会のさらなるステップアップをめざして、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。


 ●地域完結型の「資源循環基地」和泉リサイクルセンター

 その塩ビを含む廃プラスチック類のケミカルリサイクル拠点となるのが、大栄環境が運営する和泉リサイクルセンター内に建設された(株)クリーンステージ(大栄環境、極東開発工業、大林組、大成建設の共同出資会社)です。

和泉リサイクルセンター

 和泉リサイクルセンターは、大阪府南部の和泉丘陵に整備された産業団地「テクノステージ和泉」にあり、様々な発生資源を高度選別し、RPFなどに再資源化する和泉エコプラザ(処理能力:838t/日)を中心に、クリーンステージや石膏ボードリサイクル施設、コンポスト施設をもっています。また近隣に大阪府内では唯一の民間経営となる平井管理型最終処分場(埋立面積:63,901.6m2 埋立容量:1,042,845m3)があり、選別過程で発生したがれき主体の残渣物が処分されています。また近隣の和泉リサイクル環境公園(囲み記事参照)は埋立処分場跡地を活用したもので、跡地利用のモデルケースとなっています。
 なかでも2005年4月から営業を開始したクリーンステージは、最先端のガス化改質技術を用いたケミカルリサイクル施設として中核的な役割を担っており、建設系の混合廃棄物やASR、工場系廃棄物、自治体からの一般廃棄物など幅広い廃棄物(廃プラスチック類は全体のおよそ20%)を効率的に再資源化する取り組みで各界の期待と注目を集めています。

●精製ガスの発電利用で年間5100万円の費用効果─(株)クリーンステージ

 ガス化改質とは、廃棄物を高温の間接加熱でガス化し、溶融物を資源として回収する次世代型の廃棄物処理技術です。クリーンステージが採用しているK・Kサーモセレクト式ガス化改質施設(極東開発工業がスイスのサーモセレクト社から技術導入し完成させた1号機)は、処理能力95トン/日で、
 1.ダイオキシンをはじめとする有害物質の発生を極限まで抑制
 2.天然ガスに匹敵するクリーンな精製ガスを回収し、発電エネルギーとして利用(発電量1500kwh)
 3.スラグ、メタル、硫黄、非鉄金属類などの資源を回収
 4.埋立負荷ゼロを実現
 5.飛灰が発生しない
 など、多彩な特徴を備えています。
  その処理フローは下図に示したとおり。廃棄物中の可燃物、金属類は熱分解、脱ガス工程などを経てスラグ、メタルとして回収される一方、熱分解ガスは、ダイオキシン類の分解やアルカリ洗浄(塩化水素の中和)、脱硫(硫黄の回収)などを経て、最後に水素と一酸化炭素を主成分とするクリーンなガスに精製されます。また、水処理工程では、排水中の銅、亜鉛、鉛などが金属水酸化物として回収されます。  これらの再生資源のうち、スラグは建設資材、メタルは金属原料、硫黄は化学原料、金属水酸化物は非鉄金属として再利用されるほか、精製ガスは発電用のボイラー燃料として、場内使用電力の3分の2を賄うエネルギー源となっています。その費用効果は年間5100万円に上るとのことです。

スラグ⇒建設資材
メタル⇒金属原料
硫黄⇒化学原料
金属水酸化物⇒
非鉄金属原料
K・Kサーモセレクト式ガス化改質炉の処理フロー

●グループが連携して設備の安定操業を維持

 以上のように、ガス化改質技術により廃棄物を貴重なエネルギーと資源に変えることを実現しているクリーンステージですが、設備の運転が軌道に乗るまでにはいろいろと苦労や試行錯誤もあった様子で、同社の植阪良樹所長は、
  「廃棄物は多様で複雑なため、安定的に操業し且つ炉の能力をフルに発揮させるためには、投入するごみ質の調節が重要となる。どんな配合割合がいいのか非常に神経を使った。営業開始に先立つ試験運転で、データの採集や機器の改良など果敢に挑戦し、2年ほどでようやく目処をつけることができたが、皆よく頑張ったと思う。また選別機能をもつ和泉エコプラザも存在も大きかった。」と、その間の経緯を述懐しています。
 クリーンステージを側面から支えた隣接する和泉エコプラザの責任者である大栄環境本社事業所・石川光一所長のお話。

植阪所長(左)と石川所長

 「エコプラザは廃棄物の分別、配合の調整機能を担う一種の前処理施設。配合割合については我々もクリーンステージと一緒に試行錯誤したが、今では、ガスの発生量が多すぎる場合は廃プラスチックを中心に木くず、紙くずを混ぜてカロリーを下げる、ガスが少なければその逆にするとか、炉の状態を確認しながらクリーンステージが出してくる配合の注文に即座に対応できるシステムができ上がっている。こうした連携ができるのは他の施設にない利点だ」
 また石川所長は、「このガス化改質施設は、塩素に強い施設である」とも付け加えています。内陸部の工業団地で民家に近いという立地条件の中、有害物を出さずに廃棄物の100%再資源化に取り組む大栄環境グループは、塩ビ業界にとっても大切なパートナーといえます。

★処分場跡地を有効活用した「和泉リサイクル環境公園」

咲き乱れる花々

 和泉リサイクルセンターでもうひとつ注目したいのが、1999年4月29日「みどりの日」にオープンした「和泉リサイクル環境公園」。1980年から8年間にわたって使用された納花埋立処分場の跡地7万6000m2を有効利用したもので、園内には、有機・無農薬を基本にした花の農場公園、サッカーや野球などに使用できる多目的グラウンドを中心に、各種イベントを楽しめる広場、日本庭園、展望公園などが設けられ、冬から春にかけては水仙、チューリップ、夏から秋にかけては8万株のラベンダーが咲き乱れます。
 「地域社会と自然との共生」をテーマに、公園は無料で一般に開放されており、年間26万人の入場者を集める人気スポットとなっているほか、地元の雇用にも役立っています。また、テーブルやベンチなど資材の80%にリサイクル製品が使われていることから、社会見学やマスコミの取材も増えているとのことです。「和泉リサイクル環境公園」は、埋立処分場跡地の有効活用のあり方として、恰好のモデル事例と言えそうです。