2008年3月 No.64
 

注目!使用済み塩ビ壁紙を活性炭化物 にリサイクル

(株)クレハ環境のユニークな挑戦。
ダイオキシン類吸着剤や猫砂用防臭剤などに利用

パイロットプラント全景
  産廃処理の大手(株)クレハ環境(本社=福島県いわき市)は、現在使用済み塩ビ壁紙を活性炭化物にリサイクルする技術開発に取り組んでいます。塩ビ壁紙を熱処理してダイオキシン類の吸着剤や猫砂用の防臭剤などに有効利用 しようというもので、既に基礎実験を終了してパイロットプラントによる実用化試験の段階に。取り組みの最新情報をレポートします。

●塩ビ壁紙リサイクルに新たな可能性

 塩ビ壁紙の生産量は年間約20万トン。デザイン性、難燃性に優れ、耐久性も高いなど多彩な特長を有すること から、現在では全壁紙市場のほぼ9割を占めるに至って います。一方、廃材としては年間約14万トン排出されていますが、製品の構造が紙と塩ビの複合材である上、遮光用の二酸化チタンや充填剤の炭酸カルシウム、可塑剤などを含む複雑な組成であること、建物の解体時にその多くが選別困難な混合廃棄物として排出されてしまうことなどの理由で再利用が難しく、大半が単純焼却か埋立処分されているのが現状。
 こうした状況を打開する試みとしては、塩ビ業界でも塩ビ工業・環境協会(VEC)と有限責任中間法人日本壁装協会の連携により「壁紙リサイクルモデル事業」(光和精鉱(株)の塩化揮発ペレット法を用いたケミカルリサイクル)に取り組むなどの技術開発を進めていますが、塩ビ壁紙をまるごと炭化して焼却炉のダイオキシン類吸着剤や猫砂用の防臭剤などにリサイクルしようというクレハ環境の取り組みは、これまでに例のないユニークな発想という点で、新たな方向から壁紙リサイクルに道を開くことが期待されています。
塩ビ壁紙の処理フロー

●塩ビ壁紙の組成を有効活用

 クレハ環境のリサイクル技術の面白い点は、前述した塩ビ壁紙の組成上の問題を逆にメリットとして利用している点にあります。例えば、塩ビを加熱処理する過程で発生する塩化水素は、その8割近くが壁紙に配合されている炭酸カルシウムと反応し塩化カルシウムとして固定されるため、中和処理コストの大幅な低減につながります。つまり製品自体が中和剤を持っている恰好です。
 また、一般に可塑剤を添加した塩ビ樹脂を加熱すると、お互いに融着してヤニ状に固化することが知られていますが、塩ビ壁紙の場合は、塩化水素が脱離した後のピッチ(塩ビの残渣)が可塑剤と共に紙に浸み込んで炭化されるので、融着することなく粉粒状の炭化物を得ることができます。ここでも壁紙自体の特性が生かされていることになります。
破砕した使用済み塩ビ壁紙
 
活性炭化物
  具体的な処理フローは図のとおり。破砕した塩ビ壁紙をロータリーキルンに投入して、約600℃の窒素雰囲気下で加熱処理(蒸焼き)します。次にこれをポンプ循環で水洗、粉砕した後(先の塩化カルシウムはこの工程で水に溶解、除去される)、最後に脱水工程(水分調整)を経て、吸着性の高い多孔質炭化物を生成する、というのが基本的な流れです。

●1年以内に最終報告。早期の実用化めざす

 クレハ環境では、2003年から使用済み塩ビ壁紙のリサイクル技術の開発に着手。2004年からは、(財)国際環境技術移転研究センターの産業公害防止技術開発事業(経済産業省補助事業)の指定を受けて、これまでに、石英管を用いたラボ実験、ベンチスケールの連続式ロータリーキルン(処理量3kg/h)による活性炭化物の製造実験などを終了しており、これら一連の作業により主に以下のような点が確認されています。
(1)実験によって得られた活性炭化物は、ダイオキシン類などの分子サイズの大きい物質に対して、市販活性炭と同等の吸着性能を有する。
(2)熱処理の最適温度は600℃。それ以上になると活性炭化物の収縮が起こって孔が小さくなる。
(3)アンモニアに対しても高い吸着特性を示すことから、猫砂に混ぜて防臭剤として利用できる。
(4)塩ビ壁紙はデザイン性の高さから表面形状に差のある銘柄が多いが、活性炭化物の特性の差はほとんどない。また、さまざまな夾雑物が混入した場合の処理にも問題は認められない。
 現在、同社では協力関係にある日本壁装協会から原料の提供を受け、処理量50kg/hのパイロットプラントを建設して実用化に向けた詰めの実験を継続中。3月末までに中間報告をまとめた上で、さらに問題点の摘出と対応策の検討を行い、各工程の最適条件(滞留時間、処理量など)を確立した後、コマーシャルプラントの概念設計に入る計画です。最終報告は1年以内にまとめられる予定。また、猫砂の開発についてはペット用品メーカーと共同で作業が進められていますが、「さらなる用途の拡大についても積極的に取り組んでいきたい」としています。


(株)クレハ環境・福田弘之社長のコメント

 当社は産業廃棄物の収集運搬・処分業を始めて30年になる。現在、医療廃棄物や特定有害廃棄物を含む産業廃棄物を2系列の焼却炉を用いて1日約400トン処理するまでに事業を拡大し、1998年には業界で初めてISO14001認証を取得した。
  今から6年前、リサイクル技術の開発を重要課題と位置づけ、親会社である(株)クレハの持つ熱分解や炭化技術を活用して塩ビ製品廃材の有効利用を図ることとして、クレハグループ内から経験者を集め検討チームを編成した。その過程で、経済産業省製造産業局化学課から「塩ビ壁紙の再利用が進まず、焼却と埋立処分されている。このことは大きな問題であり、リサイクル技術が開発できれば社会的に大きな意味がある」とのアドバイスを受け、直ちに作業を開始した。
 ラボ実験からベンチスケールの実験へと進めた段階で、塩ビ壁紙の組成を有効に活用して、吸着性能を有する炭化物の製造が可能であることを確認した。事業化できる可能性が高いとの評価結果を得たことから、プロセス実証のためパイロットプラントを設置して実用化に向けた実験を継続することとした。
 今後は、塩ビ工業・環境協会(VEC)、日本壁装協会をはじめ、住宅産業の支援を受け、早期に実機1号機を実現するため全力を尽くす。「安全で確実な技術を用いて社会に貢献する」というのが当社の理念でもあり、近い将来は、事業の成果を大都市周辺に普及させることで循環型社会構築の一翼を担いたい。