2003年12月 No.47
 
「塩ビ尺八」の新製品が話題

“低価格で、本物に劣らぬ音色”―中学生など初心者向けに最適

 

 今年から中学の音楽で和楽器の習得が必須になる中、塩ビ管で作った新尺八(商品名「NOBLE(ノブレ)管」)が話題になっています。「本物にも劣らぬ豊かな音色で、しかも低価格」という画期的な製品を生み出した意外な技術とは―。

 

●表面塗装で「竹の断面構造」を再現

 
 「中学校で和楽器の授業が始まると聞いて、音色が良く、しかも値段の安い尺八を何とか塩ビ管で作れないかと考えた」と話すのは、「NOBLE管」を考案、開発した尺八演奏家の三橋貴風さん。
 塩ビ製の尺八は以前からいろいろ製品化されていますが、竹製に比べて音色がぼんやりしているのが難点。また、塩ビ以外の樹脂製や木製、ガラス製なども開発されていますが、これらは、音色が劣るばかりでなく、中学生などの初心者向けとしては値段が高め(数万円)であることもネックになっています。
 「NOBLE管」が画期的なのは、5,000円という低価格で竹製の尺八に遜色のない音色を実現している点で、三橋さんは、その技術的な秘訣について「表面塗装で竹の断面構造を人工的に再現したこと」と説明します。
 「尺八に用いられるマダケは、表面が高密度で硬いのに対して内側は軽く柔らかい。この断面構造が複雑な音色を可能にしている。そこで、塩ビ管の外側だけに塗装して竹の密度差を再現できれば本物の尺八に近い音が出せるはずだと考えて、尺八製作者の平桜旦山さんと試行錯誤を重ねた結果、特殊な塗料を数ミリの厚さに塗り重ねることでようやく竹製の音に近づけることができた」
 塗料の種類はまだ企業秘密とのことですが、口に当てる製品だけに「普通の尺八に使われる漆よりもなお安全なものであることだけは断言できる」といいます。
 

●“現代の竹”塩ビ管の可能性

 
 「NOBLE管」の音色の豊かさは科学的な分析でも裏付けられています。分析を担当した武蔵工業大学環境情報学部の宮坂榮一教授の話では、
 「楽器の音色は、音程の基本となる基音と、周波数がその整数倍の倍音との組み合わせで作られる。倍音が少ないと純粋だが味わいに欠ける音色になり、多いほど複雑で豊かな音色になる。NOBLE管と竹製の尺八の周波数を比べて見ると、10キロヘルツのあたりまでほぼ同じ波形になっており(図参照)、ほとんど見分けがつかないほどだ」とのこと。
 「歴史的に生活のさまざまな場面に使われてきた竹は日本を代表する素材だが、どこにでもあって、安くて丈夫で、誰にでも使えるという点で、塩ビ管は“現代の竹”とも言える。上水道や下水道といった本来の用途以外に、もっと多目的に利用できる可能性を秘めていると思う」と塩ビ管を評価する三橋さんですが、今回の「NOBLE管」の開発こそ、そうした可能性を実証する格好の話題と言えそうです。