2003年3月 No.44
 
持続可能な暮らしの実現に向けた環境ラベルの役割

  環境配慮型商品購入の決め手。
   企業は具体的で分りやすく信頼できる情報提供を

  (社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(NACS)
                    理事 環境委員長 辰巳 菊子

 

●忘れられないひと言

 
 ごみ問題に取り組んでから、もう20年以上経ちます。きっかけは些細なことでした。これは今の協会とは直接関係ありませんが私の基盤になっています。上の息子がまだ小さかった頃、トイレで用を足した後で、「ぼくのドボン(自分の排泄物のこと)どこにいくの」と聞いたのです。私は虚を突かれたような気持ちでしたが、同時に「そうだろうな。見えなくなるものな」と納得し、さらに「私たちの出すごみもどこでどう処理されているのかな」という疑問が湧いてきました。排出者として自分の出すごみのことをもっときちんと知る責任があると感じたのです。
 その後、試しにPTAの仲間に聞いてみると、皆やっぱり気になっていると言うのですが、何をしていいのかが分らないということでした。そこで、大学の先輩で当時既にごみ問題の最前線で活躍しておられた松田美夜子さんにご相談したところ、「あなたの地元の清掃局に聞いてごらんなさい。自分の目で清掃工場を見てごらんなさい」というアドバイスをいただきました。これに励まされて、さっそくPTA仲間4人で川崎市の焼却場見学を申し込みました。
 当時の川崎市のごみは全量焼却で分別をしていませんでした。紙くずも薬缶も出されたものはみんな一緒に燃やされていたのです。それを見て本当に驚きました。そして、このとき分別の必要性を痛感した体験が、その仲間で「ごみ連」という市民運動の組織を作る直接のきっかけになりました。
 これがスタートです。今思えば、松田さんのアドバイスは非常に的確で大きな力になりました。あのアドバイスがなかったら主婦4人が焼却場を見に行くなんてことはできなかったかもしれません。それと、息子の言葉。あの思いがけない言葉を聞いた時のショックは今でも忘れられません。
 

●商品の環境情報が少なすぎる

 
 ごみ問題をやっていると、結局はごみになる元の発生を抑えなければ根本的な解決はないというところに行き着きます。いかに市民が頑張って分別しても、ごみの発生そのものを減らさなければ処理の問題は残ってしまうわけです。そういう視点から、川崎ごみ連では10年ほど前から市内の小売店やスーパーの調査をして、ごみを出さない商品、商店を選ぼうという運動に取り組んできました。その結果分ったことは、環境にいい商品を選ぶにはあまりにも商品の環境情報が少なすぎるという問題でした。
 この問題は私たちNACSにとっても重要なテーマでした。消費生活アドバイザーは消費者の代弁者であると同時に、企業の発信情報を噛み砕いて消費者に伝えるという消費者と企業間の橋渡し役を担っています。これは環境問題にも当てはまることで、99年2月、会員に呼びかけて環境特別委員会を作った際に、この商品の環境情報の問題をテーマにやっていこうということで理解が得られ、NACSとしての環境ラベルへの取り組みが始まったわけです。
 ちょうど同じ頃、ISO(国際標準化機構)でも環境ラベルに関する14020番代シリーズの標準化が進んでいました。最初の「一般原則」に関する規格(ISO14020)が決まり、日本でも99年7月にはこの「一般原則」がJIS化されたのです。
 そんなことから、当初は私たちの活動もISOについての学習が中心となりましたが、環境ラベルに関する各種委員会の委員などをさせていただきながら、ずいぶん多くのことを勉強させてもらえる機会にも恵まれました。そのころ環境ラベルに取り組んでいる消費者団体は殆どなく、消費者の生の声を聞くには我々が役立ったのかもしれませんが、私たちも学習をしながら活動の形を整えてきたというのが本当のところです。去年から環境特別委員会も常設の環境委員会になりました。
 

●消費者アンケートで分ったこと

 

 商品やサービスの環境情報である環境ラベルは、消費者が環境配慮型商品を選択する上で不可欠な情報源のひとつです。消費者のライフスタイルをグリーンコンシューマー型に変えるベースとも言えます。少なくとも個人的にはそう確信していますが、一般の人がどう思っているのかを確認するために、NACSでは2000年の夏に会員の内の1,000人を対象として「環境ラベルに関するアンケート調査」を実施しました。
 家電、自動車、パソコンなどの耐久消費財をはじめ、照明器具、衣類、化粧品、雑貨、トイレタリーなど対象18品目それぞれに、「環境配慮型商品購入の有無」や「購入した理由・しなかった理由」などを聞いたもので、その結果、次のようなことを知ることができました。

  1. 商品カテゴリーによって環境配慮型商品購入経験の有無は異なっていたが、「環境配慮型商品が見つからない」「環境情報が不足」「価格が高い」の3点が商品購入の障害となっていること
  2. 消費者が環境配慮型商品を見つけられないのは環境情報不足とも深く関連し、環境ラベルが存在しても十分に機能していないのか、もとより環境情報がないのかのどちらかであること
  3. 消費者が望む環境情報は商品カテゴリーによって異なり、耐久消費財については「定量的なデータ」、雑貨品については「マーク類」、サービスについては「詳しい説明」と多様な環境情報に対するニーズがあること

 以上から、このアンケートの結論をひと言で言えば、「環境ラベルは環境配慮型商品購入の決め手になり得るし、現状そうなっている」ということに尽きると思います。言い換えれば、企業にとっても環境ラベルの取り組みは売り上げ増に繋がる可能性を持っている、ということです。

 

●消費者が望む環境ラベル10原則

 
 この調査結果は消費者の生の声を伝える貴重なデータとして高い評価を受け、英訳されたものが、ISO TC207(専門委員会)でも会議の資料として採用されています。
 また、NACSではこの結果から、消費者にとって望ましい環境ラベルのあり方を「消費者が望む環境ラベル10原則」という形で発表しました。いずれも環境ラベルのあり方として重要な要素ですが、基本は具体的で分りやすく信頼できる情報でなければならないということです。また、トータルな情報であることも大切です。一部だけを取り上げて環境にいいと言うのではなく、廃棄やリサイクルも含めたLCA的な情報が提供されていなければなりません。
 ご承知のとおり、ISOでは環境ラベルを第三者認証機関が認定しシンボルマークで表すタイプ?、企業の自己宣言によるタイプ?、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいて環境負荷情報をすべて定量的に数値で表すタイプ?、の3タイプに区分しています。我々の「10原則」に照らせば、タイプ?とタイプ?は、一応信頼性を担保するチェック体制もきちんとしているので大きな問題はないと思いますが、気がかりなのはタイプ?に絡む問題です。
 

消費者が望む環境ラベル10原則

  1.  十分な量の情報があること
  2.  わかりやすいこと
  3.  具体的な表現であること
  4.  トータルな情報であること
  5.  比較できること
  6.  信頼できること
  7.  社会のニーズを反映していること
  8.  検証されていること
  9.  「消費者の知る権利」に対応していること
  10.  「消費者の意見をいう権利」が確保されていること
 
 

●企業の自己宣言における問題点

 
 タイプ?は、リサイクル可能、省エネルギー、長寿命化製品、リサイクル材含有率など12の項目が規定され、それぞれの主張内容に対して満たすべき要件が示されています。これらの何かひとつでも主張できることがあればメーカーはそれを自由に訴えていいことになっています。さらに一般原則に反さない限り12の項目以外の主張も認められますが、問題は、これではトータルに環境に配慮した製品であるかどうかが見えてこないということです。
 また、企業の開発部門に携わっている人がせっかく熱心に環境配慮型の製品を作っても、広告や宣伝に反映していない、つまりマーケティング部門でこの熱心さが生かされていないという問題もあります。環境配慮型商品を買おうという気にさせる広告(環境主張の広告は環境ラベルタイプ?に当たります)が少なすぎると思います。ある照明器具のメーカーの広告では、消費電力が少ないことを訴えるのに「○○円お得」と書くだけで、「省エネで環境にいい」ということには一言も触れていません。
 もっとも、「環境にやさしい」といったあいまいな言葉が使えなくなったことは前進だと思います。公正取引委員会でも、2001年の3月にまとめた「環境保全に配慮している商品の広告表示の留意事項」の中で、「強調する原材料等の使用割合を明確に表示すること」「実証データ等による表示の裏付けの必要性」「あいまい又は抽象的な表示は単独で行わないこと」など5つの要件を示した上、「一般消費者に誤認される不当表示については景品表示法に基づいて厳正に対処する方針」を示しています。ISOでも公正取引委員会でも、「環境にやさしい」とか「緑を守ります」といった曖昧な表現は、許されなくなりました。環境にやさしい内容を具体的に説明するべきです。
 

●これからが正念場。消費者の意識改革も

 
 もちろん、環境ラベルを普及していく上で消費者の側にも問題がないわけではありません。「○○円お得」といった広告情報により心引かれる傾向があることも確かです。企業から言わせれば、我々が一生懸命いいラベルを考えて表示しても、消費者が読んでくれなければ意味がないということになるわけで、この点は消費者も意識を変えていかなければならないと思います。
 こうした問題に対処するため、NACSでは現在、環境ラベルのチェックポイントなどを凝縮した小冊子『環境ラベルをチェックしよう〜環境配慮型商品選択のために』を作って普及活動に当たっております。環境ラベルのどこをどう読み取るかなど各地でワークショップを開いて広く普及活動をしているところです。
 ともかくも、環境ラベルの消費者への普及や取り組みはようやく緒についたところで、これからが正念場だと言えます。企業と消費者の環境コミュニケーションをわだかまりなく行い、それぞれが努力しながら、どうしても足りない場合は法的な対応も視野に入れて取り組みを進めるべきだと思います。例えば、環境情報を載せたくても他の法律で決められた表示義務が多すぎて記載するスペースが取れないといったメーカーの声をよく耳にしますが、持続可能な社会を国として目指す以上、この程度は書かなければいけないという環境表示を法的に義務づけることが検討されてもいいはずです。消費者と企業、行政が協力し合いながらより良い方向に持っていく努力をすることで、こうした問題も解決できると思います。
 
■プロフィール 辰巳 菊子(たつみ きくこ)
1948年大阪生まれ。奈良女子大卒。高校・大学で教鞭を執った後、1985年「消費生活アドバイザー」の資格を取得。都内百貨店で消費者相談室に勤務する傍ら、地元市民団体や消費生活アドバイザーとしての活動を通じて環境問題に取り組む。1988年、(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会理事となり、環境特別委員会(現環境委員会)委員長として、「環境ラベルプロジェクト」を組織。商品選択のための環境ラベルの普及啓発に力を入れている。経済産業省「産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会」、環境省「環境報告の促進方策に関する検討会」、「環の国くらし会議分科会」、(社)産業環境管理協会「エコリーフ環境ラベル判定委員会」「LCA小委員会」、(財)日本環境協会「エコマーク類型・基準制定委員会」等各委員。グリーン購入ネットワーク代表幹事。主な著書は『暮らし上手の安心家事』(大和書房、共著)『地球の限界』(日科技連、共著)など。