2002年12月 No.43
 

 特集/塩ビサッシ・リサイクルシステム構築に向けて

  「サッシ to サッシ」の実現めざし、回収〜再生までトータルシステムの検討へ

   高い断熱効果を持つ省エネ型建材として、急速に普及が進む塩ビサッシ。そのリサイクルについてプラスチックサッシ工業会、(社)日本サッシ協会を中心に、塩ビ工業・環境協会(VEC)も協力し取り組んできています。現在は使用済み製品を用いて「サッシ to サッシ」のリサイクル実現をめざすためのシステム作りの検討が進行中。新たな段階を迎えた取り組みの現状をご紹介します。  

 

優れた断熱効果で北海道中心に急拡大

 優れた断熱性が生み出すバツグンの省エネ効果―これが塩ビサッシの最大の長所です。素材として樹脂が持つ高い断熱性が、冷暖房エネルギーの大幅節減を可能にするだけでなく、結露を大幅に減らし快適な生活空間を保ちます。このほか、防音性や気密性、さらには耐候性、自己消火性など、建材として求められる諸要素においても、塩ビサッシは他の窓枠にはない性能を発揮します。
 塩ビサッシは省エネ先進地である欧米各国の一般家屋において急速な普及を遂げてきました。現在、米国では一戸建住宅の総窓枠需要の約40%、ドイツでは既に50%を上回る普及率に達しています。
 日本でも26年ほど前に販売が開始されてから、北海道、東北などの寒冷地を中心に普及が進んできています。特に北海道では、新築住宅のほぼ全てに塩ビサッシが使われているという状況になっています。
 日本での塩ビサッシの需要は、平成13年の実績で85万窓余り(樹脂換算で約2万トン)と、まだ住宅用窓枠全体の7〜8%程度に過ぎませんが、省エネ住宅に対する社会的関心の高まりを追い風に、関東以南も含めて採用地は全国に広がりつつあります。

 

リサイクル体制の整備が喫緊の課題

 塩ビサッシは、産業構造審議会の「業種別廃棄物処理・リサイクルガイドライン」において、塩ビ管・継手などとともに対象業種に指定されており、「効率的にリサイクルするための研究開発の推進及びリサイクルシステムの構築のための回収に係わる具体的手法等について検討を行う」とされています。
 日本における歴史がまだ25年程度であるのに対して、30年を超える寿命を有する塩ビサッシは、現時点での排出量はごく少量に過ぎません。しかし、2007年以降は家屋の解体等からの排出が本格化するものと予測されており(塩ビサッシの排出予測参照)、建設リサイクル法においても「プラスチックは分別解体等及び再資源化等の促進、特定建設資材としての指定の検討をするもの」として位置付けられています。
 塩ビサッシのリサイクルは、こうした行政動向や排出予測に対応して、早期に体制を整備しておく事が喫緊の課題となっています。
 

 

基礎調査で技術的可能性を確認

 塩ビサッシのリサイクルは、循環型社会の本来の姿という意味では“サッシからサッシへ”のマテリアルリサイクルが理想の形と言えます。塩ビはリサイクル性に優れた素材で数回のリサイクルを行なっても殆ど物性の変化がありませんが、問題は、メーカーそれぞれで樹脂の原料の配合割合などに違いがあるため、さまざまなメーカーの製品が持ち込まれた場合、その点がリサイクルの障害になるのではないか、また塩ビサッシは長期間紫外線にさらされて使用されるため物性が劣化するのではないかということです。
 このため、プラスチックサッシ工業会の技術委員会と?日本サッシ協会の環境問題対策委員会の合同環境ワーキングでは、平成12年に「各社の配合内容調査と成形確認」、また翌13年には「築10年以上を経過した窓を再生原料として混合するテーブルテストレベルの成形」を実施しており、その結果、成形には問題がなく、かつ、得られた成形品の物性についてもJIS規格に比して充分な性能が得られることを確認しています。
 また、塩ビサッシ成形品のコア部に再生原料を使用し、外層についてはバージン原料を使う二重押し出し成形技術も既に確立しており、再生原料の色が完成品の色と異なるという問題も「サッシ to サッシ」実現の上で大きな問題にはならないことが確認されています。

 

新たな調査事業がスタート

 以上の研究成果を踏まえ、平成14年度の新たな作業として現在進められているのが「塩化ビニル製サッシリサイクルシステム調査」です。
 この事業は、経済産業省のリサイクル関連予算のテーマ募集に選ばれたもので、建築解体現場から出る塩ビサッシのリサイクルシステム構築についての検討、およびそのための課題の把握などが事業の目的となっています。

【事業の概要】

●事業名称

    塩化ビニル製サッシリサイクルシステム調査

●事業主体

    塩化ビニル製サッシリサイクルシステム調査委員会
    (委員長 清家剛・東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授)

●実施期間

    自平成14年8月15日〜 至平成15年3月14日

●事業内容

  1. 塩ビサッシの普及率が高い北海道内において、建築廃材から回収された塩ビサッシをリサイクル可能な品質の原材料化までのリサイクルの流れを検討する。
  2. 回収原料を利用し、新規塩ビサッシを量産レベルで成形し、品質・性能を評価する。

 

使用済み200窓を回収、リサイクル

 上記のうち、「塩化ビニル製サッシリサイクルシステム調査委員会」は、経済産業省の委託を受けたプラスチックサッシ工業会が、事業を円滑・効率的に推進するために設置したものです。
 具体的な計画としては、まず北海道内の建築解体現場から排出された塩ビサッシ200窓を回収、分解し、再資源化可能な塩ビを選別します。
 塩ビサッシにはガラスや金属補強材のほか、さまざまな細かい部材が取り付けられており、塩ビパイプなど単一素材品とは異なるリサイクル上の障害となっています。建築解体現場から出る塩ビサッシから塩ビだけを収率良く回収するには、当面人力による分解作業がどうしても避けられないのが実情で、今回の事業では、塩ビサッシから塩ビだけを回収するのにどの程度の人手や時間が必要でどの程度の収率が得られるのか、更にどのような方法をとれば合理的な塩ビ回収方法に繋がるのか、なども検討することとなっています。
 次に回収した塩ビを先ほどの2層押出し技術を用いて窓枠の中に入れて実用レベルの成形テストを行い再資源化します。
 本事業に関係するフローは別掲図のとおり。各地の登録解体業者が解体現場から回収した使用済み塩ビサッシを、塩ビサッシメーカーで中間処理した後、押出成形加工メーカーで原材料化と成形テストを行なうというのがフローの大枠です。
 今回の調査によって、塩ビサッシリサイクルシステム構築の取り組みは、その完成へ向けてまた一歩、大きく前進することとなります。

 

■回収〜再使用までの技術をどう組み立てるか(清家剛委員長)

 建材の中で、一度溶かせば元に戻るという物性を持った素材は、鉄とプラスチックぐらいしかない。そういう意味で、サッシからサッシにリサイクルしようという塩ビサッシ業界の試みは非常に重要な取り組みだと言える。
 今回の調査事業では、実際の解体現場からどうやって使用済みサッシを回収し、それをどれくらいの率でサッシに戻せるかを把握することが基本的なテーマとなっているが、これはリサイクルシステムを構築する上で最も大切な点だと思う。建築で言うリサイクル技術とは、解体〜分別〜回収〜再使用までをセットにした技術を指すのであって、研究室レベルで100%リサイクルできたというだけでは、リサイクル技術が完成したとは言えない。一連の技術をセットとしてどう組み立てるかが何よりも重要なポイントである。
 幸い、塩ビサッシの場合は、使用済み製品の廃棄が本格化するまで数年の時間的猶予がある。この猶予期間中に、静脈部分のシステムをきちんと整備しておかなければならないが、これはサッシメーカーだけではできないことで、解体業者や中間処理業者と連携して実際にシステムを動かしてみることが必要だ。
 また、塩ビサッシが今後さらに厳しい規制を受けることを想定して、そうした事態に備える意味でも、実際の解体現場から使用済み製品を回収してリサイクルするシステムを完成しておくことは、塩ビサッシ業界にとって不可欠な対応策と言えるだろう。