2002年9月 No.42
 
 特集/塩ビ系床材リサイクルの新しい動き

 (2) (株)御美商の塩ビ床材リサイクル事業
   大胆な発想の転換が生んだ「塩ビ系内装用床材のリファインシステム」に注目

 

   塩ビ系床材リサイクルの技術的な課題(素材ごとの分別や不純物の除去の難しさ)を、非分別・一体処理という方法で克服した東リに対して、「精密切削方式」という独自の技術開発によって解決したのが、次にご紹介する産業廃棄物処理業の(株)御美商(東京都葛飾区堀切1−29−13/TEL.03−3694−9953)。床材から、塩ビを削り取って一気に粉末化し、“床材から床材”にリサイクルするユニークな「リファインシステム」の実態は―。  

 

日本初の「切削加工施設」

 
 御美商のリファインシステムは、タイルカーペットだけでなく、すべての塩ビ系床材をリサイクルの対象としたもので、「精密切削方式」と呼ばれる斬新な手法を用いて複合多層の床材から塩ビ層を削り取る技術が他に例のない特徴となっています。この“砕かずに削る”という大胆な発想の転換こそが、床材リサイクルの課題克服を可能にした基本的な要因で、東リのタイルカーペット・リサイクルとは異なった技術的アプローチながら、従来の「粉砕・分別方式」に代わる低コストの新技術という点では両者とも全く変わりません。
 御美商がリファインシステムの開発作業を本格的にスタートしたのは昨年春のことで、11月にはオリジナル1号機が完成。その後、今年4月に日本初の「切削加工施設の中間処理工場」として東京都の認可を受け、正式にリサイクル事業に乗り出しました。
 「当社は昭和57年の創業当初から使用済み床材を専門に回収してきたが、貴重な資源を埋めずに何とかリサイクルする道はないかと長い間真剣に考えてきた。使用済み製品の場合、市中からものを集めるシステムづくりが難しいと言われるが、集めるのはもともと当社の専門分野であり、回収システムを持っている我々が取り組めば必ずリサイクルはうまくいくという確信をもって事業化に着手した。技術面では、当社のエンジニアリング担当者を中心にそれぞれの分野の研究者などとの協力によって、層間分離や不純物除去とともに、要の技術として『精密切削方式』という全く新しい粉体化技術を開発することができた」(加賀祐司社長の話)。

 

■ システムの要「精密切削粉砕装置」

 
 リファインシステムの処理量は1時間1トン(日量約10トン)で、メインラインは、(1)床材を処理しやすい大きさにカットする多分割スリッター、(2)不純物を除去するスクレーパー、(3)塩ビ層を分離する精密切削粉砕装置、(4)繊維部分を分離するバンドナイフスライサー、などで構成されています。
 同社が扱う使用済み床材の約8割を占めるタイルカーペットのケースを例に、リファインシステムの処理工程を見てみます(右の図参照)。作業は、(1)バンドナイフスライサーを用いて表の繊維層を刈り取る要領で分離、(2)多分割スリッターで10cm幅にカット(50cm角の場合は5分割)、(3)カットしたタイル片を精密切削粉砕装置に送り、塩ビのバッキング層を一気に500ミクロン(0.5mm)まで微粉化、という流れで進み、塩ビはリサイクル粉体化品として床材メーカーに販売され、製品の原料に利用されることとなります。また、最後に残る基布層もそのままの形で回収され別途リサイクルされます。
 上記のうち、システムの要となる精密切削粉砕装置は、多数の切り刃を埋め込んだ円筒状の工具を高速回転させ、これに床材を接触させて塩ビだけを削り取る仕組みで、円筒の回転数と床材を送り込む速度、さらに接触角度を調整することで粉末の粒度を制御したり、基布層だけを残したりといった微妙な切削を可能にしています。塩ビの微粉化に要する時間は、わずか数秒。その迅速な作業を目の当たりにすると、従来の粉砕・分別方式に比べて、御美商のリファインシステムがいかに省エネ、省スペース型のシステムかが実感できます。
 また、塩ビシートなどの不純物除去に用いられるスクレーパーも、注目すべき同社の新技術の一つ。電気カンナの原理を応用したこの装置は、分速50メートルの速度で接着剤やモルタルなどをほぼ完璧に剥離することができます。
 このほか、原料が高温融着を起こしやすい夏場などには、マイナス20℃まで床材を冷却して作業効率を高めるといった技術も同社ならではの工夫と言えます。

■ 粉体品のサンプル出荷を開始

 
 御美商では既にこの4月から、工事現場からの使用済み床材の受け入れ、および床材メーカー数社に対するリサイクル粉体化品のサンプル出荷を開始しており、一部有力メーカーでは、今年9月を目途にリサイクル粉体化品を使用した量産品の上市を決定しています。また、「大手ゼネコンなどからのリサイクル製品への問い合わせも相次いでおり、床材メーカーへの情報提供など、メーカーとの共同普及に取り組んでいる」(加賀社長)とのことです。
 また現在、大手ゼネコンが都内のデパートの改装工事に際して仮設した工事詰所の床(200平方メートル)に、御美商の再生原料で作った塩ビシートがテスト施工されており、「これがうまくいって、正式に採用されれば相当大きなインパクトになる」と見込まれています。
 さらに、最新の話題として、東京都のスーパーエコタウン事業(本号「有識者に聞く」参照)でも「内装材等のリサイクル施設」として御美商の事業が選定され、平成17年度には、大田区城南島の敷地内に日本初の塩ビ系内装廃材の本格的リサイクル施設(年間8万トン規模)を稼動させる予定。
 御美商ではこのほか、床材以外の用途開発についても研究を進めており、加賀社長は、「塩ビメーカーも何かいいアイデアがあればぜひ教えてほしい」と塩ビ業界への期待をのぞかせています。