2002年9月 No.42
 
 特集/塩ビ系床材リサイクルの新しい動き

 (1) 東リ(株)のタイルカーペット・リサイクル事業
   処理しにくい複合材を非分別・一体処理でまるごと有効利用する『TTRシステム』

 

   今回の《リサイクルの現場から》は、塩ビ床材リサイクルの新しい取り組みを2つ取り上げました。まず初めに登場するのは、東リ(株)(本社=兵庫県伊丹市)のTTRシステム(東リ・タイルカーペット・リサイクルシステム)。複合製品のタイルカーペットを非分別・一体処理で、まるごと再利用する同システムの全貌を、リサイクル拠点である滋賀東リカーペット(株)(滋賀県蒲生郡日野町大字安部居字荒堀451/TEL.0748−53−0221)に取材しました。  

 

メーカー自らの手でリサイクル

 
 塩ビ系床材は、塩ビだけでできたものと、塩ビと他の素材を複合したものがあります。タイルカーペットは複合製品の代表的な種類です。塩ビ系床材は、これまでも農ビなどの再生塩ビが原料として使われることが多く(本号トップ・ニュース参照)、塩ビリサイクルの重要な受け皿ともいえる分野ですが、床材そのもののリサイクルは技術的な問題などもあって、業界やメーカーでも最近ようやく取り組みが緒に着いた段階。今回ご紹介する東リのTTRシステムは、そうしたメーカー自らの手によるリサイクルという点で、最も先進的な事例の一つと言えるものです。
 床材リサイクルの技術的な問題としては、(1)合成繊維や他の樹脂との複合・多層製品が多く、素材ごとの分別が困難であること、(2)解体時に裏面に付着するモルタルや接着剤の残滓などの不純物を除去する必要があること、などが上げられますが、タイルカーペットの場合は、複合・多層製品である上に、塩ビの使用割合が全体の5分の1程度と少なく量的にまとまりにくいこともあって、塩ビのリサイクルという点では他の床材以上に難しい面を持っています。
 こうした中で、東リが敢えてタイルカーペットのリサイクルシステムづくりに踏み切ったのは、「建材リサイクル法の制定など、建築廃棄物の有効利用をめぐる動きが加速する中で、タイルカーペットについてもメーカー自身の対応が求められている」との判断によるものです。

 

■ カーペット to カーペット

 
 タイルカーペットは、表面の繊維層とポリエステルなどの基布層、補強のためのガラスシート、塩ビのバッキング層などでできています。
 東リのTTRシステムは、これらの素材を分別することなく、すべてを一緒に破砕、チップ化して、再度タイルカーペットのバッキング層に利用するもので、粉砕してから素材別に分離する従来の方法とは異なり、製品をまるごとリサイクルすることで複合・多層製品の技術的課題を克服している点に最大の特徴を見ることができます。
 東リでは平成11年にこのリサイクル技術の開発に成功し、翌12年末から滋賀東リカーペットの敷地内に設置したリサイクル設備を用いて試運転を重ねた後、昨年7月から本格生産を開始しました。なお、TTRシステムはNEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)の平成11年度産業技術実用化開発助成事業にも採択され、国庫補助の対象となっています。

■ 使用済み廃材も試験処理

 
 東リでは、TTRシステムの処理品目として、当初自社の工場内端材だけに限定していましたが、現在では市中から出る施工廃材と使用済み廃材にまで対象を拡大しており、この場合の重要なポイントとなる回収ルートの整備についても、全国的な廃棄物運搬免許を取得している日本通運及び農ビなど塩ビ製品の中間処理で知られる(株)タイボー(岐阜県南濃町)との連携でスムースに作業が進められています。
 「使用済み廃材は今年3月から試験的に処理を行っている。回収エリアは基本的には日本全域だが、現在集まっているのは主に関東、京阪神地区のもので、建設現場から出た廃材を特製のカゴパレット(400kg詰め)で東リ指定の粉砕処理工場(タイボー)が回収し、ここで粗粉砕を行った後、滋賀東リカーペットのリサイクル施設で処理するという流れだ。量的にはまだそれほど多くはないが、使用済み製品は工場端材と違っていろいろな付着物があるので、今年1年は実証期間と位置づけて再生品の品質などを入念にテストしている」(滋賀東リカーペットの大山久社長の話)

   

■ 再生バッキング材「リサイクルシート」

 
 TTRシステムの処理能力は年間3,000トン。処理工程は上の図に示したとおり、粗粉砕した原料をいったんタンクに貯蔵した後、約200℃で減容(溶融)し、最終的に1mm以下まで微粉砕します。これを加熱してローラーに掛け、ガラスシートと貼り合わせたのがリサイクルシートと呼ばれる再生品で、タイルカーペットの製造ラインに戻されてバッキング材として再利用されます。ガラスシートと圧着するのは製品の強度を高めるためです。
 TTRシステムの主な特徴を以下にまとめてみました。
  1. 廃材から繊維部分を分離することなく、100%再利用が可能であること
  2. 製品へのリサイクル還元率(リサイクル材の使用割合)が重量比20〜25%と高いこと
  3. 従来品に比べて同等以上の高品質が得られること
  4. 繰り返し、リサイクルが可能

 一方、大山社長は今後の課題として用途開発の問題を指摘しています。
 「当面は《カーペット to カーペット》でリサイクルを進めていくが、今後、回収量が増加した場合に備えて他にどんな用途があるかを東リ本社で検討してもらっている。また、公共施設への優先的利用もリサイクル促進の重要なカギであり、現在グリーン購入の対象品目として申請中だ」
 (財)大阪工研協会の第51回工業技術賞(平成13年度)、今年春の関西経済連合会おおさか環境賞受賞など、TTRシステムに対する社会的な評価は着実に高まりつつあります。