2001年9月 No.38
 
(株)日本製鋼所の廃プラ脱塩素処理システム

二軸スクリュー押出技術の応用で効率的に脱塩素。高濃度塩ビ廃棄物にも対応

 

塩ビを含む混合廃プラスチックから塩素(塩化水素ガス)を取り除き、固形燃料(RPF)や高炉還元剤、セメント原燃料、さらには油化、ガス化の原料などに再利用する廃プラスチックの脱塩素処理システムが、鉄鋼・機械の総合メーカー(株)日本製鋼所(本社:東京都千代田区有楽町/TEL.03―3501―6135)により開発されました。同社広島製作所(広島県広島市安芸区船越南1―6―1/TEL.082―281―1211)に取り組みの現状を取材しました。

 

■ 独自の技術で高度な脱塩素を実現

 

  1950年に塩ビ用押出成形機の国産第1号を製造した日本製鋼所は、現在でもプラスチック成型機の分野では世界のトップメーカーのひとつ。また、70年代から廃プラスチックのマテリアルリサイクルや油化の研究に取り組むなど、プラスチックの有効利用や環境問題にも早くから着目してきました。
 今回の脱塩素処理システムは、こうした技術の蓄積を背景に平成9年から開発が進められてきたものです。二軸スクリュー押出機で培った技術を応用することにより、塩ビ濃度の低い一般系廃プラスチックから産廃系の高濃度塩ビ廃棄物まで、処理原料の組成にかかわらず、安定した脱塩素性能を発揮します。
 その性能のポイントを、同社広島製作所の実験設備(処理能力50〜80kg/hr)で見てみます。
 まず、基本的なプロセスフローは図1に示したとおり、破砕→選別(異物除去)→洗浄・脱水(一般系廃プラのみ)→減容溶融→脱塩素(熱分解)→ペレット化という流れで、ペレットは固形燃料、油化原料、ガス化原料などに用いられます。廃プラスチックの溶融と脱塩素をひとつの装置で行うのではなく、それぞれの機能を分離しているのが特徴で、いずれの装置にも二軸スクリュー押出機の技術が採用されています。
 このうち、溶融装置のスクリューは直径44mmで、スクリュー回転時の剪断発熱を利用して、熱伝導率が低く均一に溶融しにくいプラスチックを効率的に可塑化するため、高速で回転するよう設計されており、低電力で均一に加熱溶融することができます。溶融温度は約200〜230℃。
 一方、システムの要である脱塩素装置はスクリューの直径が174mmで、特殊なシリンダ・スクリュー構造をしており、径の大きなスクリューで原料を混練し、脱塩素するプラスチックの表面を常に更新する(表面更新)ことで、高性能な脱塩素を可能にしています。また、脱塩素装置では、熱分解の滞留時間を十分に確保するためスクリューを低速回転に設定しています。

 

■ 低レベルの残留塩素濃度

 

  日本製鋼所広島製作所が実施した一般ごみ系廃プラスチックの脱塩素実験結果では、350℃で1時間に50kgの廃プラスチック(塩ビ10%)を処理する場合、滞留時間約10分でペレット中の残留塩素濃度は0.25%。押出機方式の従来の脱塩素装置が390℃でも0.55%程度までしか濃度を下げられないのと比べると、同社の脱塩素装置の優れた脱塩素能力を知ることができます(図2参照)。
 日本製鋼所広島製作所では、さらに脱塩素性能を向上させるためにシステムの改良を行っており、現在では残留塩素濃度0.15%という結果が得られています。
 一方、高濃度塩ビの脱塩素実験結果でも、塩ビ50%〜90%までいずれもごく低いレベルの残留濃度となっており(図3参照)、技術的にはほぼ塩ビ100%でも処理できるシステムであることが分かります。
 また、同システムで処理されたRPFと石炭の燃料特性を比較してみると(表1参照)、水素/炭素比が石炭の約2倍、発熱量は30%増となっており、RPFを高炉原料やセメント原燃料に利用することで、CO2の排出抑制、地球環境の保全に役立つことが裏付けられています。
 なお、上記のうち、一般系廃プラスチックの脱塩素技術開発は、平成11年〜13年度まで(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)の補助を受けて実施しているもので、高濃度塩ビ廃棄物の脱塩素技術は総合化学メーカーの(株)トクヤマとの共同開発となっています。

 

■ 動脈の技術を静脈に生かしたシステム

 
  このほか、脱塩素時に発生する塩化水素を含む排ガスは、1,200℃の高温で燃焼し、苛性ソーダで中和処理した後、クリーンな状態で放出されます。ダイオキシンについては、排ガス、排水を分析した結果でも、すべて基準値をクリアしていることが証明されています。
 また、塩化水素についてはユーザーの要望により塩酸回収してリサイクルする設備を組み込むことも可能とのことですが、
 「一般系廃プラスチックの場合、塩素の量が少ないので塩酸回収までやる必要があるのかどうか疑問が残る。高濃度塩ビ廃棄物の場合は塩酸回収のメリットがあると思うが、回収した塩素をどう再利用するか、ユーザーに対してこの点を示すことも必要だ。それができれば今後の事業展開の範囲が広がってくるだろう。この点については、塩ビ業界からも具体的な方向を示してもらえれば有り難い」と、塩素の利用方法とその仕組みづくりについて塩ビ業界の協力を求めています。
 日本製鋼所では、昨年から同システムの事業展開に入っており、現在、産廃系の廃プラスチック処理用に120kg/hrの実用プラントを受注し、製作中です。また、最大3トン/hrまでの生産プラントもラインアップしています。
 今回の取材では、塩ビ電線被覆材の処理の様子を見せてもらいましたが、粒状に破砕された原料がフィーダーから溶融機に投入された後、脱塩素機を経て、その先端から押し出されてペレットに加工されるまで、システム全体の流れはスムースで、予想以上にコンパクトに設計された設備であることが確認できました。また、装置からのガス等の漏れもなく、クリーンな環境であることも実感できました。
 二軸スクリュー押出機という「動脈の技術を静脈に生かした」日本製鋼所の廃プラスチック脱塩素処理システムは、塩ビリサイクルの有効な推進力となることが期待されます。