2000年6月 No.33
 
DEHP(塩ビ可塑剤)は「非発ガン物質」

 IARC(国際ガン研究機関)がリスク評価を見直し。長年の論議に決着

 

  軟質塩ビに使われる代表的な可塑剤であるDEHP(フタル酸ジ2−エチルヘキシル)の発ガン性について、WHO(世界保健機構)の付属組織IARCはこのほど、「DEHPにはヒトに対する発ガン性はない」として、一定のリスクを認めてきたこれまでの評価を見直すことを決定しました。ガン研究および発ガン性評価の世界的権威であるIARCが、DEHPの発ガンリスクを払拭する決定を下したことは、DEHPをめぐる長年の発ガン性論議に終止符を打つ画期的な判断と言えます。

 

■ ランク引き下げは“希少事例”

 
  DEHPの発ガン性に関する今回の評価見直しは、去る2月22日にフランスのリヨン市において開催されたIARCの第77回会議(工業化学物質の発ガン性に関する評価および再評価のための会議)で決定したもの。
 会議では、12カ国28人の科学者により16種類の工業化学物質について発ガン性の評価と再評価が行われましたが(新規評価9件、再評価7件)、再評価対象の7物質のひとつに取り上げられたDEHPについては、その評価ランクを従来の「2B」(ヒトに対して発ガン性がある可能性がある)から、より安全な「3」(ヒトに対する発ガン性については分類できない)に改正することが決まり、DEHPのヒトに対する非発ガン性が明確に認定される結果となりました。
 IARCでは、ヒトや動物に対する発ガン性データを総合的に判断した上で、物質の発ガン性を5段階に分類していますが(下記の表)、「グループ4」(ヒトに対しておそらく発がん性がない)に分類されているのはカプロラクタム(ナイロンの原料)の1物質しかなく、実質上、お茶や水道水(塩素処理した飲料水)などが属する「グループ3」が、ヒトに対する発ガンリスクの最も少ないランクと言えます。
 また、今回検討された16種類の物質のうち、より安全なランクに評価が変更されたのはDEHPのみであり、過去にもほとんど例のない極めてまれな事例となっています。

 

■ 実を結んだ、日米欧可塑剤業界の研究

 
  DEHPの発ガン性をめぐる議論は、1982年に米NTP(国家毒性計画)/NCI(国立ガン研究所)が実施した慢性毒性試験の結果から、「齧歯(げっし)類(ラット、マウス)に極めて高濃度、かつ長期間にわたってDEHPを投与すると肝臓に腫瘍が発生する」との報告がなされたことに端を発しています。IARCが、これまでDEHPを「2B」に分類してきたのもこの報告に基づいています。
 これに対して日米欧の可塑剤業界は、DEHPの発ガン性の実態を解明すべく、3極それぞれがテーマを分担する形で、連携して研究に取り組んできました。
 日本の場合は、可塑剤工業会の委託により、名古屋市立大学がラットに発生する肝腫瘍のメカニズムに関する研究を実施しており、その結果
・DEHPによって起きる齧歯類の異常は、DNAに傷を付けて細胞をガン化させるといった反応とは異なり、DEHPの投与が齧歯類の肝臓中にペルオキシゾームという酵素を増産させる結果、肝細胞の増殖が促進されて腫瘍性変化を起こすといったメカニズムに基づくものであること
・一定量以下であれば影響は起きないこと
・投与を中止すると腫瘍性変化が大幅に減少していくこと
などが明らかになっています。

 また、1997年には、マーモセット(キヌザル)を用いた肝腫瘍の研究を(株)三菱化学安全科学研究所に委託。齧歯類で見られた肝臓におけるペルオキシゾームの増産および腫瘍性変化は霊長類であるマーモセットでは起きないことも確認されました。
 

■ 引き続き安全性追求(可塑剤工業会)

 

  IARCの評価見直しは、こうした一連の研究データを考慮した結果であり、日米欧の可塑剤業界が長年にわたって取り組んできた実体解明の研究が国際的に支持されたことを意味します。
 今回の決定について可塑剤工業会では、「DEHPの発ガン性問題が国際的にも一応の決着を見たと言える」と高く評価する一方、「DEHPを中心とした多種類の可塑剤をいま以上に安心してユーザーに利用してもらうため、今後とも環境・安全性に関する調査・研究に積極的に取り組んでいきたい」として、引き続き安全性の追求に取り組む姿勢を示しています。
 今回のIARCの決定は、各国の行政や研究機関による同様の発ガン性評価にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。
 なお、評価結果の詳細については、可塑剤工業会の広報誌『可塑剤インフォメーション』臨時号(平成12年3月号)をご覧ください。なお、可塑剤工業会のホームページ(http://www.kasozai.gr.jp)にも掲載されています。

問い合わせ先:可塑剤工業会
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