1999年6月 No.29
 
仙台市でリサイクルシンポジウム

「みんなで考えよう これからのリサイクル社会」をテーマに

 

  塩ビ工業・環境協会(VEC)と河北新報社の共催によるシンポジウム『みんなで考えよう これからのリサイクル社会』が、3月13日午後1時から仙台市の宮城第一ホテルで開催され、地元市民などおよそ450人の参加者が、《活気ある環境調和型社会》へ向けたプラスチックリサイクルのあり方などに関する有識者の話に耳を傾けました。

 

 出 席 者
 宮城県知事………………………………浅野史郎氏
 全国消費者団体連絡会事務局長………日和佐信子氏
 京都大学大学院経済学研究科教授……植田和弘氏
 日本総合研究所研究員…………………石田直美氏
 塩ビ工業・環境協会専務理事…………佐々木修一氏
 《コーディネーター》
 地球市民ジャーナリスト工房代表……早房長治氏

 

■ 佐々木専務と日総研・石田氏が基調講演
 情報共有のネットワークづくりを提言(佐々木専務)

 
  情報共有のネットワークづくりを提言(佐々木専務)
  シンポジウムは、最初にVECの佐々木専務理事と日本総合研究所研究員の石田直美氏の基調講演に続いて、両氏を含む6人の有識者によるパネルディスカッションというプログラムで進められました。
  このうち、『プラスチックリサイクルの現状と課題』と題した講演の中で佐々木専務は、環境調和型社会へのプラスチック業界の取り組みの方向として、(1)化学物質の安全面での確立、(2)長期間使用できる製品の開発、(3)リサイクルの積極的推進の3点を挙げた後、特に塩ビ業界の対応に関して、昨年秋からスタートしたパイプ・継手のリサイクル事業、さらには日本鋼管(株)(NKK)と共同で進めている高炉原料化や、セメントメーカーの(株)トクヤマと共同で進めているセメント原燃料化など、最新のリサイクル技術開発の現状を紹介。その上で、「産業界も最大限の努力をするが、リサイクル製品の需要拡大や複合製品の分別など、皆さんと一緒に解決しなければならない問題を共に考えていくことで環境調和型社会は実現される」と、職種や地域を越えて人々が情報を共有できるネットワークづくりを提言しました。
 

■ 完全燃焼で熱エネルギーの活用を(石田研究員)

 
  一方、石田研究員の講演『"上手な"エネルギーリサイクルを』は、従来の衛生処理のための焼却ではない、発電と熱回収を目的とした焼却システムの必要を訴えたもの。
  話の中で石田研究員は、「廃棄物対策ではマテリアルリサイクルが焼却より優先されるべきだが、再生技術や輸送に要するエネルギー、再生品の品質など、ものによってはマテリアルリサイクルに適さないものもある。ドイツの例を見ても、マテリアルリサイクルは最大限努力しても50%が精一杯であり、第2の手段として、焼却熱を電気などの形で再利用するエネルギーリサイクルを進めることが必要だ」と述べるとともに、焼却に伴うダイオキシン発生の問題については、「不完全な燃焼で発生するダイオキシンを防止するには、完全燃焼の促進が重要。塩ビなど塩素を含むものを除いてダイオキシンをなくそうという考えは、塩素源の多様な存在形態を考えれば現実的ではない。完全燃焼によりダイオキシンを抑制しながらエネルギー回収を進めるほうが適切な対応だ」と訴えました。
 

■ 企業は"循環のルール"でモノ作りを

 
  続いて行われたパネルディスカッションでは、地球市民ジャーナリスト工房代表の早房長治氏を司会に、基調講演の2氏を含む5人のパネリストが循環型社会へ向けた企業、行政、市民の役割、情報開示のあり方、ダイオキシン問題などについて活発な討論を展開しました。
  このうち、企業の役割については、全国消費者団体連絡会の日和佐事務局長が、佐々木専務の基調講演を踏まえて「塩ビ業界がリサイクルに取り組んでいることは評価するし、プラスチックのお陰で便利な暮らしができることは確かだが、プラスチックはあまりに社会にあふれ過ぎている。企業は『売れればいい』という、これまでの考え方を見直してほしい」と注文。京都大学の植田教授は「現代は大量廃棄社会から循環型社会への移行過程にある。この移行は簡単にはいかないが、企業や市民の意識は変わりつつある」との認識を示した上で、「プラスチックは大変便利なものだが、同時に(ごみ処理という点では)大変厄介なものでもある。プラスチックの利便性を生かしつつ廃棄物問題に対応するには、初めから循環のルールに則ったモノ作りが必要だ」と強調したほか、石田研究員も「大量生産、大量廃棄のパラダイムを変えるには、メーカーが自社製品を回収、分解して、再利用できる部品はリサイクルしていく"モジュールリユース"の導入も有効だ」と提言しました。
 

■ 環境教育、家庭ごみの有料化も有効

 
  市民と行政の役割の問題では、宮城県の浅野知事が「(市民の協力を得るための)キーワードは、"インセンティブ"(動機づけ)をどうするかということだ。"捨てればごみ、使えば資源"という標語があるが、『現代社会ではごみを捨てることは悪だ』という方向に市民の意識を改革しなければならない。この部分では教育の役割が大きい」と、環境教育の重要性を指摘したのを受けて、植田教授も「環境は価値のあるものだが、値段はついていない。市場経済社会では値段がないと価値が分かりにくいが、消費者はただ安ければいいという購買行動を考え直さなければいけない」と指摘。これに対して日和佐事務局長は、「消費者の生活スタイルを変えるには、確かに環境教育は大切だ」と述べる一方、「ごみの減量につながるという点では家庭ごみの有料化もひとつのインセンティブになると思う」との考えを示しました。
 

■ 「信頼できる情報提供」が企業・行政の役割

 
  情報開示の問題では企業と行政それぞれの対応が取り上げられ、浅野知事が「ダイオキシン問題でも知見データの少ないことが行政の悩みであり、市民の動揺もこれが原因と言える。地域社会でごみ問題に対応するには、分析可能な情報をもとに市民が判断するのが民主主義の基本だが、信頼に足る情報を誰が持っているか、実は誰も持っていないのではないかという疑いが、混乱と不決断を招くもとになっている」と問題を提起したのに対し、佐々木専務が「塩ビは原料の約6割が塩で作られる省エネ製品だが、こうした製造過程でのエネルギー消費や二酸化炭素の発生量など、数字で表せることは情報として伝えていきたい」と業界の考え方を説明。
  行政の情報提供の問題については、「エネルギー回収を取るかマテリアルリサイクルでいくか、地域のごみ処理のあり方を皆で考えていく上でも、市民が納得できる情報公開が大事」(石田研究員)、「どういうごみ処理を選ぶかという選択に役立つ情報が必要」(植田教授)、「部分的な情報は公開されていると思うが、それをどう判断すればいいのかという説明が不十分」(日和佐事務局長)などの意見が出され、浅野知事も「行政は信頼性のある情報を市民に提供して、解明している点と不明な点をしっかり説明しなければならない」と述べて、積極的な情報公開の姿勢を示しました。
  討論の最後には、司会の早房氏が「ダイオキシンへの不安が広がっている以上、焼却の問題は解決しなければならないが、数十万種も存在すると言われる化学物質を社会から全て取り除くことは不可能だ。産業界と消費者、行政の協力で、前向きに解決のアイデアを考えていくことが望まれる。ある意味では、化学物質と安全に共生することを考えるのがリサイクルだと言えるかもしれない」と総括して、3時間に及んだシンポジウムを締めくくりました。