1998年12月 No.27
 

  ダイオキシン生成への食塩の関与、京大との共同研究で確認

 

  京都大学大学院工学研究科の武田信生教授と島津テクノリサーチ、および当協議会の共同チームは、廃棄物の焼却時に食塩から出る塩化水素が、ダイオキシン類の生成に関与していることを共同実験で確認しました。食塩とダイオキシン類生成との関係を明確に示したもので、現在のダイオキシン問題に一石を投じるデータと言えそうです(以下はダイオキシン国際会議 ’98における発表をベースにしたものです)。
 

● 食塩が塩化水素に転換

 
  廃棄物を焼却する際、塩ビなどの塩素系樹脂ばかりでなく、無機塩素化合物である食塩などからも塩化水素が発生することは、当協議会が過去に行った実験でも確認されています(本誌No.18/平成8年9月号参照)。ただ、先の実験では、これらの塩化水素がダイオキシン類の生成に関与するプロセスまでは明らかになっていませんでした。今回の実験は、このプロセスを確認したという点で、前例の少ない貴重なデータと言えます。
  実験ではまず、食塩の塩化水素への転換率を測定しています。食塩だけを通常の焼却温度にまで加熱しても塩化水素が生成されることはほとんどありませんが、砂や粘土に付着した状態、つまり普通のごみの状態では比較的低い温度でも食塩は塩化水素に転換します。
  表1は、活性白土(土)に食塩を1%付着させたものを加熱して、加熱開始後15分間における塩化水素への転換率を測定したものです。300℃で約50%、500℃以上では約80%と、高率で食塩が塩化水素に転換していることが分かります。

 

●  食塩からもダイオキシンが発生、発生量は塩素源に無関係

 
  次に、塩素源とダイオキシン発生量の関係を見るための実験を行いました。実験装置の構造は実際の焼却炉を単純化したもので、管状の加熱炉を2台連結し、最初の炉を焼却炉に近い900℃、2番目の加熱炉をダイオキシンが最も発生しやすい温度域である300℃に設定して、試料(1g)を燃焼した時のガス中および残渣中のダイオキシンの量を測定しています。
  なお、300℃に設定した2番目の炉には、実際の焼却炉の排ガス処理装置を模して、1gの飛灰の層(厚さ約5mm)をセットしていますが、この飛灰は都市ごみ焼却炉の電気集塵機から取った灰を加熱処理して、予めダイオキシン類を分解しゼロにしたものです。
  実験は塩素源と種々のサンプルを組み合わせて行っていますが(パラフィン、灯油、新聞紙など)、ここでは問題の焦点を明確にするため、飛灰存在下における?塩ビ、?パラフィン+食塩(1%)の、2つのサンプルについて結果を比較してみます((2)のサンプルは、食塩を活性白土に付着させた後、所定の濃度になるようにパラフィンと混合したもの)。
  (1)塩ビの場合、サンプル中の塩素量は57%で、燃焼ガス中の塩化水素濃度は数千ppmに達していると推定されるのに対して、(2)パラフィン+食塩(1%)の場合は塩素量0.6%、ガス中の塩化水素濃度は200ppm程度に過ぎませんが、測定の結果では(1)と(2)のダイオキシンの発生量はほぼ同量でした(表2)。この結果は、塩素源の種類や塩化水素の濃度にかかわらず、焼却時には同じようにダイオキシン類を生成することを示しています。