1998年3月 No.24
 

 永田勝也早大教授の講演「廃棄物問題の展開」から

 資源循環型社会の確立へ向けた課題と対応策を明示

  

 

   当協議会の広報委員会が主催する平成9年度の講演会「廃棄物問題の展開」が、1月28日午後、千代田区霞ヶ関のダイヤモンドホールで開かれ、全国から参加したおよそ160名の塩ビ関係者が、資源循環型社会の確立へ向けた課題と対応策などをテーマとした早稲田大学理工学部の永田勝也教授の話を熱心に聴講しました。  

 

リスクコミュニケーションの大切さ

 この講演会は、「ダイオキシン問題との関連で一方的な塩ビ忌避の動きが高まりつつある中、環境問題と裏表にある廃棄物問題について、幅広い視野に立って業界の対応を考えるため」に(專田会長の開会挨拶)開かれたもの。
 講演の中で永田教授は、まず産業公害から都市・生活型環境問題を経て地球環境問題に至るまでの環境問題の変遷を総括し、問題が多様化する中で加害者と被害者の区別が一層曖昧になりつつある現在、「将来の世代に対する責任と生態系の保全という考え方がより重要になってきている」として、これからの環境問題には、修復対応型の技術開発、資源採掘〜廃棄にわたって対応するライフサイクル・テクノロジーといった技術対応に加え、「未然防止の思想、国際協調と国際競争の調整、(問題全体を見渡した)包括対応などの視点が求められる」と強調しました。
 特に包括対応の必要性に関しては、ダイオキシン問題などを例に、「ひとつの問題だけを取り上げて解決策を論じるのではなく、その問題を解決することで他にどんな影響が出るのかも考えなければならない。『絶対安全』の概念を捨てて『極限的安全』の考え方に転換していくことが必要だ」と述べて、リスクと利点のバランスを総合的に評価するリスクコミュニケーションの大切さを訴えました。

 

LCAへの対応も日本企業の課題

 次に永田教授は、環境負荷を一般の人々に分かりやすい形で提示する手段として、「ライフサイクルアセスメント(LCA)の概念が大きな影響力を持つことになる」と指摘。「企業が自社製品の環境負荷を示すことができるというだけでなく、市民が製品を選択したり、技術やサービスを評価する場面で、意志決定のための究極の手段としてLCAが使われるようになるだろう」と予測した上で、オランダ、スイス、スウェーデンなどヨーロッパ各国のLCAの方法論(エコポイント、環境負荷ポイントなど)の違いを紹介し、「LCAの手法は世界共通であることが望ましいが、市民の考え方の違い、各国が抱え込む環境問題のバックグラウンドの違いから、その統一化は難しいと見なければならない」として、日本のような製品輸出国にとって、そうした各国の環境負荷の捉え方の違いに対応していくことが、これからの重要な課題となってくるとの考えを示しました。
 

 

望まれる健全な静脈産業の発展

 一方、本題である廃棄物問題については、「社会システム、制度、技術開発が三位一体となった対応が不可欠」として、関係企業100社の参加を得てこの日スタートしたばかりのRDFMフォーラム(固形燃料とマテリアルリサイクルに関してシステムや技術開発の方向を探る検討会)の動きを報告。さらに、これからの廃棄物問題を考えていく上では、・資金と人材を投入して健全な静脈産業の発展を促すべきこと、・リサイクルや廃棄物処理の費用は排出者個人の負担とせざるを得ないこと、・リサイクルは有害物質対策としても有効であり、できるだけ減量化して代替物質を探してもなおその物質の機能が必要とされる場合には、きちっとリサイクルして拡散を防ぎつつ使っていくという姿勢も望まれること、などの基本的認識が必要になるとの考えを示しました。
 また、一般廃棄物への対応については、焼却施設の大半が小規模であるために経済性の向上、ダイオキシン対策、エネルギー回収への対応が困難となっている日本の現状に触れ、「一基当たりの焼却能力と発電量が大きく日本を上回るドイツなどを参考に、対応していかなければならない」と述べたほか、容器包装リサイクル法が本格施行となる平成12年度以降に備えて、技術的に課題の多い油化以外に新たなリサイクル手法の検討も必要であることを指摘しました。

 

「成長する工業製品」の提言

 続いて永田教授は、今後の産業界の役割という点に関してドイツの循環経済廃棄物法におけるプロダクト・レスポンシビリティー(生産物責任)の思想を取り上げ、「物を作る側には、製品の製造と流通だけでなく廃棄にも対応する責任があるが、その責任とは・廃棄された後にリサイクルしやすい設計の責任、・回収の設計の責任、・リサイクル処理の設計の責任の3つに大別される」と説明。この考えの中でサーマルリサイクルの容認が明確化されるなど、ドイツの産業界でも資源循環型社会の構築へ向けて現実的な対応が進んでいることを紹介しました。
 また、資源循環型社会のために変革すべき課題として、・自区内処理から広域処理への転換、・回収・収集体制の効率化、・再生品の需要拡大、・リサイクルコストの内部化(製品価格ではなく静脈部分での内部化)、・デポジットなども含めた廃棄物抑制に寄与する費用の取り方の検討、・廃棄物市場・静脈産業の育成・発展のための廃棄物業務の民間移行などを挙げた上で、・の課題との関連からプラスチックのリサイクルに言及し、「高炉吹き込みのように鉄鋼やセメントなど素材産業が今後力を発揮してくるだろう」との見通しを示しました。
 最後に永田教授は、これからの技術開発の方向に関連して、リサイクルしやすい製品の開発(エコプロダクト)と同時に、「買った時から徐々に機能・性能が良くなる『成長する工業製品』という物づくりの概念が必要だ」と提言(別表参照)。さらに、動脈産業と静脈産業という異なった主体が、単に共生するだけでなく、融合しながら新しい関係と価値観を創りあげていく「共創」の思想が資源循環型社会の構築には不可欠であることを訴えて、1時間半にわたる講演を締めくくりました。

 

[プロフィール]永田 勝也 (ながた かつや)

1944年、東京生まれ。1967年、早稲田大学理工学部機械工学科卒。同大理工学部助手、専任講師、助教授を経て、1981年から教授。現在、通産省の産業構造審議会廃棄物処理・再資源化部会委員、中央環境審議会委員、総合エネルギー調査会委員のほか、厚生省生活環境審議会委員などを兼任。主な著書に『Noxへの挑戦』『廃棄物の処理・再資源化技術の有効利用』『自治体・地域の環境戦略』など。