1997年12月 No.23
 

 ■第6回塩ビ世界会議(大阪)における佐伯副会長の講演要旨

 PVC工業のアジアにおける展開と21世紀の課題

  長寿命・省資源型の塩ビは貴重なプラスチックとして生き残る、
  課題は廃棄量の削減

佐伯康治 塩化ビニル工業協会副会長・新第一塩ビ(株)社長 

 

日本のPVC工業の現状

  日本のPVC工業は1960年代の高度成長期を経て、70年代から80年代の初期にかけては停滞の状況が続いた。80年代後半から一時期成長を見せが、9O年代に入ると不況のため再び停滞した。一方、92年頃よりアジアに対する輸出が急激に伸びて史上最高の輸出を行っている。日本の国内需要はほぼ飽和に達した状況である。
  こうしたことから日本のPVC産業は基本的に成熟段階に入ったとみられる。現在、欧米で成長してしいるサイジング材や窓枠などの需要開拓が日本でも行われようとしているが、建築基準法などの規制が開発の妨げになっている。また、ダイオキシンにはじまるPVCと環境問題が緊急の課題である。
  成熟した日本のPVC産業の中で、新第一塩ビや太陽塩ビなど産業の再編成が行われ、メーカーは15社から11社に減少した。上位5社での生産能力シェアは80%以上となっている。

 

アジアでの展開−著しい需要の伸び

  韓国、台湾はすでに高度経済成長を遂げ先進国になっている。90年以降ASEAN諸国、そして中国の沿岸地区の経済成長が急速に進んでいる。
  しかし、ASEAN諸国や中国のプラスチック消費量をみるとまだ少ない。−人当たりの年間消費量は先進国では70〜120kgであるのに対して、これらの国のほとんどは10kg以下のレペルである。現在これらの国でプラスチックの消費量は急激に伸びようとしている。
  それは家電やコンピュータのハウジングなど、先進国からの委託生産による工業製品の需要が伸びているためで、さらに経済の発展による生活の向上がプラスチックの需要の増加をもたらしている。その中でPVCの需要の伸びは箸しい。
  1990年におけるアジア(日本を除く)の消費量は約300万トンであったが、2000年には約700万トンの需要が予想されている。こうした需要の増加のために日本をはじめ韓国、台湾の輸出が急速に伸びる結果となっている。
  これに対応してアジアでのPVCの生産能力の増強が進められている。1980年に約100万トンの生産能力(中国を除く)だったものが、2000年には530万トンへの増設計画がなされている。さらに中国が大幅な増設を計画している。
 

 

アジアの発展と21世紀の課題

  ASEAN諸国と中国の沿岸地区だけの人口は合わせて約10億人である。一方、北米、EU,北欧、台湾、韓国、日本などの先進国の人口は約9億人である。
  このアジアの10億の人々が先進国並みの豊かさを求めて、経済の高度成長に向かってすでにテイクオフしている。21世紀にはいると、まずはこれらの国々の発展によって、地球の資源と環境問題が深刻な課題となる。
  世界の石油化学製品の需要量(エチレン換算量)は、1990年には約5000万トンであった。2000年には8700万トンと予想されている(石油化学工業協会−JPCA)。それ以後も、ASEAN諸国、中国、その他の発展途上国はさらに加速度をつけて先進国の豊かさに追いついてくるであろう。
  ここにおいて、現在の技術体系や経済システムのままでは、それだけの多くの人口の豊かさを維持するには地球の資源が絶対的に不足することになる。
  また、このような生産と消費の世界的な拡大によって、環境汚染問題も深刻になってくる。中国の例でみると、石炭、石油などのエネルギーの使用量が増加して、排出されるSO2の量は2000年で2000万トンになるといわれている(日本では現在約100万トン)。
  さらに炭酸ガス、その他の有害物質の増加を考えると、環境汚染は地球の人類の生存にかかわる深刻な問題となる。
  そこで21世紀には、資源を大切に使い、環境を汚染しないような新しい技術体系への転換と現在の経済システムを変えるような生活様式の転換が必要になる。
  これをプラスチックでみると、規在プラスチックの製品は使い捨て商品や日用雑貨など5年以内で廃棄される製品が55%もある。これは規在のプラスチックが、本来の特徴である耐久性とは反対に、
 いかに短寿命に使われているかを示すものである。
  これらプラスチック製品の寿命を伸ばし、資源としてのプラスチックをいかに大事に使って行くかが、21世紀の全世界の重要な課題となってくる。

 

PVCは貴重なプラスチックとして生き残る

  こうした深刻な資源と地球環境の問題の中で、PVCは貴重なブラスチックとして生き残る基本的な特性を持っている。
  そのひとつはすでに現在のPVCの製品寿命が他のプラスチックに比して非常に長く、10年以上の製品が67%を占めていることである。
  さらにPVCはその57%が食塩からの塩素であり、PVCは資源的にもエネルギー的にも有利なプラスチックである。また塩素は多くの産業に絶対に必要な苛性ソーダの生産と共に生産されるものであり、塩素の最も安全で、有効な利用法がPVCである。
  しかし、PVCが生き残るためには、今後さらに長寿命にシフトする製品の開発と廃棄物の量的な削減に努力していかねばならない。そうした上で、それでも出てくる廃棄物に対しては環境に全く影響を与えないような処理技術の開発と、それを実行する社会システムの構築が必要になる。
  こうした課題を克服することによってPVCは、人類に役立つ貴重なプラスチックとして生き残ってゆくことができる。