1997年9月 No.22
 

 「欧州PVCリサイクルシステム等調査報告書」から

   レジン・加工一体でリサイクル推進、広報活動との連動で反塩ビ運動に対応

  当協議会の調査研究委員会が去る6月に派遣した「欧州PVCリサイクルシステム等調査団」の報告書がまとまりました。ヨーロッパにおける産廃系塩ビリサイクルの現状や塩ビ忌避の動きに対する業界の対応状況などを視察してきたもので、今回の報告書には、調査結果に基づいて日本の塩ビ業界に一層の協調とリサイクル・広報活動の推進を求める提言も盛り込まれています。

 

● 3カ国、9カ所の関係先を見学

  調査は、日本に先行する欧州の塩ビリサイクルシステムを調査し日本のシステム構築に役立てること、塩ビ忌避の動きに対する欧州塩ビ業界の対応の状況を聴取し日本での対応の参考とすること、などを主な目的としたもので、訪問先は、ベルギー、ドイツ、オランダの3カ国。調査団のメンバーは、団長の新居宏美氏(三菱化学)、副団長で本誌編集長の佐々木慎介氏(大洋塩ビ)ほか、坪田勝也氏(鐘淵化学工業)、野田善彦氏(新第一塩ビ)、牧野哲哉氏(三菱化学MKV)の計5名で、一行は6月14日〜28日の約2週間にわたって、各国の塩ビレジン・加工メーカーおよび関係業界団体など9カ所を回り、塩ビのリサイクルや環境問題の動向に関する最新情報を収集して帰国しました。

 

●  高まる広報の重要性 −塩ビ忌避への対応

  最初に訪れたECVM(欧州全体を統合する塩ビレジンメーカーの団体。本部はブリュッセル)とAGPU(ドイツ国内の塩ビレジン・加工メーカーの団体)では、それぞれの関係者からヨーロッパにおける塩ビ忌避の状況とその対応について話を聴くことができました。
  その内容を要約すると、ダイオキシン問題の発生などを背景に1980年代末から高まった塩ビ忌避の動きは、業界が団結して塩ビの有用性のPRやマテリアルリサイクルのシステム作りなどに取り組んだ結果、しばらくは沈静化の状態が続いていました。しかし、最近になってPCBや塩ビ可塑剤などの残留性塩素化合物にまつわるエンドクリン問題(野生生物や人の内分泌作用への影響。塩ビ可塑剤との関連は未解明)が新たに浮上してきており、環境団体を中心に再び塩ビへの社会的な風当たりが強まる傾向が出始めているといいます。
  こうした動きに危機感を深めたヨーロッパの塩ビ業界は現在、広報・宣伝活動をより徹底して塩ビの安全性に関する正しい知識を世間一般に浸透させること、A塩ビの安全性を実証し納得してもらうために塩ビリサイクルの実例を示すこと、の2つを最重要課題に据えて対応を進めていますが、このうちリサイクルについては、後述するようにマテリアルリサイクルだけではなくフィードストックリサイクル(廃塩ビから回収した塩化水素と残留物の有効利用)の研究を並行して進めている点に、従来にはない大きな特徴を見ることができます。
  また、広報活動に関しては、AGPUのように年間500万独マルク(3億5千万円)をかけて、政治家、ジャーナリスト、学生などを対象にPRを行なっている例もあり、その必要性、重要性が80年代末の『塩ビ危機』の時以上に大きくなっていることを感じさせました。

 

● 業界一丸で進むマテリアルリサイクル

  一方、マテリアルリサイクルについては、高品質のリサイクル品を容易に作れること、Aコスト面で許容できる程度の量が集まること、リサイクル品を吸収するだけの市場があること、の3点を前提条件に、パイプ、窓枠などのリサイクルが積極的に進められています。
  今回の調査では、マテリアルリサイクルの現場として、AGPR(ドイツの床材リサイクル推進団体)、HT TROPLAST AG(ドイツの窓枠メーカー)、WAVIN(オランダに本拠を置く欧州最大のパイプメーカー)の3カ所を見学していますが、3者ともに「塩ビ加エメーカーと塩ビレジンメーカーががっちりスクラムを組み、リサイクルを推進していること」が、調査団のメンバーに強い印象を与えたようです。
  例えばパイプのリサイクルでは、ガリバーメーカーであるWAVINが主導権を持って、主要パイプ製造会社に働きかけ、共同でパイプのリサイクル工場を運営しています。リサイクルパイプは現在のところ下水道への使用に限られていますが(上水道の規格にも合格しているがまだ使用されていない)、外側と内側にバージン樹脂、中側が再生塩ビ(重量で60%)の3層構造で、クリーンなイメージで人気があるため、2年以内に下水道の90%がこのタイプになるだろうと予測されています。
  また、ヨーロッパのマテリアルリサイクルはパイプからパイプ、床材から床材といったように、バージン製品と同じ用途で再利用されるケースが多く、自社工場で発生するスクラップや使用後の床材を新しい床材の下地に利用しているAGPRもそのひとつ。HT TROPLAST AGでも、新品の窓枠の6〜7割に再生塩ビが使用されています。
  同じ用途への再利用は、「バージンとの価格競争を内部化できるために、リサイクルを推進しやすくする」とのことですが、現在のところ、再生品の価格は政治的にバージン製品よりも低く設定されており、マテリアルリサイクルが業界のコスト負担を増加させていることも確かです。それでもなおマテリアルリサイクルを実施しているところに、欧州塩ビ業界が抱く反塩ビ運動への危機感の強さ、あるいはリサイクルの実例を社会に示す必要性の大きさを見ることができます。

● フィードストックリサイクルでも様々な試み

  前述したように、ヨーロッパにおける塩ビ製品のリサイクルはマテリアルリサイクルとフィードストックリサイクルの併用が課題となっていますが、これは、「マテリアルリサイクルー辺倒では必ずしも環境のためにはならず、廃製品の状況に応じた最適の方法でリサイクルするべきである」という考えに立っているためです。
   例えば他の樹脂との複合製品などは、むしろフィードストックリサイクルのほうが適当というのが塩ビ業界の考え方で、「マテリアルリサイクルに限界があり、しかも単純焼却エネルギー回収にも難点がある塩ビのリサイクルにとっては、フィードストックリサイクルの確立が決め手になる」という共通認識に基づいて、現在、様々な試みが続けられています。
   先に登場したECVMでは、フィードストックリサイクルの開発に100万独マルク(7000万円)の予算を投じ、@循環式流動床ガス化法、Aロータリーキルンガス化法、BMMT法、スラグバス法という4つのプロジエクトを推進しており、アメリカの塩ビ協会であるVI(Vinyl lnstitute)もこのプロジエクトに参加しています。
  一方、主に循環式流動床ガス化法を検討しているのがオランダの化学メーカー・AKZO NOBEL社で、同社では既に1時間当たり20kgのパイロットテストを完了しており、来年は年間1万トン規模のデモプラントを建設する予定。回収塩酸も塩ビモノマー製造時のオキシクロリネーション工程(塩素の再利用工程)で実際に再利用が行なわれています(図参照)。
  ドイツの総合化学プラント・BSL社では、ダウケミカル社の技術支援によりロータリーキルンガス化法の研究が進められています。これはロータリーキルンで脱塩化水素した後、2次焼却と熱回収を行う方式で(回収塩酸は電解工場でリサイクル)、既にパイロットテストも完了し、1999年には年間3万5000トン規模の本プラント建設が計画されています。
  さらに、日本でも廃塩ビの高炉利用の研究がスタートすることから(1頁「トップ・ニュース」参照)、今回特に見学日程に加えられたのがドイツの製鉄会社・STAHL werke BREMEN社。同社は高炉原料にDSD(デュアル・システム・ドイチュランド)が回収した都市ごみ系の容器包装用廃プラを利用する取り組みで注目を集めていますが、関係者によるとその処理実績は1996年現在で約8万トン、うち塩ビの量は3%程度で、ダイオキシン類も殆ど検出されていないとのことでした。

● まとめ −日本の塩ビ業界への提言

   以上の調査結果に基づいて、報告書は今後の日本の塩ビ業界の取り組みの方向を次のように総括しています。
  塩ビをめぐる現在の日本の状況は、ダイオキシンと塩ビを結びつけた欧州の初期段階に類似している。我々塩ビ業界としては、塩ビとダイオキシンに関する正しい知識、すなわち塩ビを排除することがダイオキシン問題の解決にならないことを一般に浸透させると同時に、ダイオキシンおよびリサイクル問題の解決に貢献するために業界自身が何をすべきかについて早急に結論を出し、世間一般に公表することが望まれる。
  日本における塩ビ忌避の動きを払拭するためには、リサイクルの実例を示すことが絶対条件であり、取り組みやすい製品から早急にマテリアルリサイクルシステムを構築する必要がある。これを実現するためには、PVC加工業界とレジン業界が一体となって取組むことが必須である。
  塩化ビニル環境対策協議会においても、欧州と同じ認識で高炉原料化によるフィードストックリサイクルの検討を開始したが、そのシステム確立には、脱塩化水素技術の開発と回収塩化水素の有効利用が重要な項目となる。このテーマに関しては、欧州の塩ビ業界と共同研究する事も考えられる。フィードストックリサイクルはレジン業界が主導的に推進する必要があるが、廃塩ビ製品の回収システム構築には塩ビ加工業界の協力が必須である。
  業界一体となったリサイクル活動の推進と広報活動の有機的な連動 −これこそが日本の塩ビ業界にとって今後の最大の課題であると言えるでしょう。