1997年6月 No.21
 
松田美夜子さん、塩ビリサイクルの現場を行く

大水産業(塩ビ管)、茨城県園芸リサイクルセンター(農業用ビニル)を見学

 

  本誌の20号記念講演会にご登場いただいたリサイクルシステム研究家の松田美夜子さん(前号参照)に、今度は塩ビ製品のリサイクルの現場を見学してもらいました。「塩ビを再生する様子を見るのは初めて」という<ごみ問題の実践家>の目に、塩ビ管や農業用ビニルのリサイクルはどのように映ったのでしょうか。

 

■ 「現場」にこだわる実践家の目

 
  今回の見学会は、先の講演会の後、「塩ビのリサイクルの現場をぜひ見てみたい」という松田さんの希望を受けて計画されたもので、<ごみ問題の実践家>としてあくまで「現場」に関わっていこうとする松田さんの旺盛な探求意欲の現れと言えます。
  見学には当協議会の西村義信運営委員長、佐々木慎介主査(本誌編集長)らメンバー数名も同行し、4月8日には浦和市の再生塩ビ管メーカー・大水産業株式会社(浦和市大間木1743)、続いて4月22日には農業用ビニルのリサイクルに取り組む茨城県園芸リサイクルセンター(茨城県東茨城郡茨城町網掛1154−1)を訪れ現場の状況をつぶさに見て回りました。
 

■ 再生塩ビ管の官需に突破口

 
   始めに訪れた大水産業は、昭和50年に設立された塩ビ管リサイクルの草分け的存在。同社ではここ数年、「塩ビ管のリサイクルを進めるには、行政に率先して再生品に道を開いてもらうことが不可欠」との考えから、再生塩ビ管の官需促進に取り組んでいます。
  佐藤一郎社長によれば「リサイクルが地球的な課題である以上、必ず大衆の支持があるはずだと自分に言い聞かせながら頑張ってきたが、今年から浦和市の下水道事業に本格的に取り上げてもらえるようになるなど、ようやく突破口が開けた段階」とのことで、今回の訪問では同社の努力がいよいよ実を結びつつある様子を見ることができました。
  塩ビ管は上下水道をはじめ家庭や農業の排水用、電話線の埋設用など様々な分野で利用されていますが、公共の分野に用いられる製品は品質を保証するためJIS規格の製品に限られており、再生パイプは民需の分野でしか使用されないという状況が続いてきました。
  こうした中で、塩ビ100%リサイクルのスーパーVU管など、JIS規格品に劣らない品質の再生品開発を進めつつ、自治体との度重なる折衝の末に公共事業への参入を実現した大水産業の取り組みは、塩ビ業界やマスコミ関係の方々にもぜひ注目してもらいたい成果と言えます。
 

■ 私道の下水補助工事に本格採用(浦和市)

 
  見学の当日、一行はまず全国に先駆けて再生塩ビ管の導入に踏み切った浦和市を表敬訪問。浦和、大宮、与野3市の下水道担当者のほか、大水産業の佐藤志郎専務も交えて、忌憚のない意見が交わされました。
  浦和市下水道部の説明では、「大水産業の再生塩ビ管はJIS規格ではないが、公共機関の物性テストでも基準値をクリアしていることが証明されたので、平成7年10月から8年3月まで、私道の下水補助工事や公共下水の取付管(本管から家庭に繋げる部分)に試用して様子を見た後、8年度から私道の補助工事に本格的に採用することになった。<パイプからパイプへ>こそ究極のリサイクルであり、その意味で同社の製品は大きな意味を持っていると思う」といいます。
  今後、浦和市では、「使用を希望する施工業者から申請があれば許可するという形で利用を進めたい」としており、当面は浦和市を中心に埼玉県内で再生塩ビ管の普及が進みそうです。
 

■ 注目集める農ビリサイクルのモデル

 
  一方、平成7年7月の稼働以来、農業用ビニルの処理に悩む全国の自治体から熱い注目を集めているのが茨城県園芸リサイクルセンター。
  今回は運営母体である社団法人茨城県農業用プラスチック処理協会の技術アドバイザー・蛯原富男氏(元専務理事)に最近の状況を説明してもらいました。
  同協会には現在、県内85市町村のうち61市町村が加入しており、この市町村の農家から排出される廃農ビに限りセンターが処理を行っています。
  また、処理を委託する農家は協会と年度ごとに委託契約を結び登録証を交付される仕組みで、その登録農家数は現在3961戸。使用済み農ビの回収量は、平成8年度の実績で7564トンとなっています。
 

■ 再生用途開発、望まれるメーカーの協力

 
  センターの活動が軌道に乗った要因として蛯原氏は、1.県、農業団体、市町村が会員となり事業に公共性を持たせたこと、2.受益者負担を明確にするため農家から処理料を徴収するようにしたこと(登録料1000円のほか、排出量1トンにつき500円)、3.農家1戸1戸に対する地に足の着いた広報活動、4.市町村に協議会を設置する等の組織づくり、などを挙げています。
  一方、今後の問題としては「再生品は需要が伴わない限り意味がない。現在は床材メーカーに全量を引き取ってもらっているが、将来に備えて床材ばかりでなく再生品の開発を進めることが急務だ」と、再生用途開発の重要性を再三強調。これに対して西村委員長も、「再生品の用途開発はメーカーの役目。廃農ビは床材以外には止水シートなどに利用できるが、その他にどんな用途が考えられるか協議会に持ち帰って早急に検討したい」と、センターの要望に積極的に対応していく姿勢を示しました。
 

■ 関係者のバックアップ不可欠(松田さん)

 
  一連の見学を終えた松田さんは、
  「両方とも大変まじめに取り組んでいるなと感じた。ただ、今後のことを考えるとやはり行政、事業者を含む関係者のバックアップが不可欠だと思う。特に、リサイクルにとって再生品を公共機関が買い支えていくことは非常に重要なことで、ドイツなどでは価格が多少高くでも行政が買い支えている。日本でも浦和市のような取り組みが広がっていくことを期待したい。また、再生品の開発について一番技術と情報を持っているメーカーの積極的な協力が何よりも望まれる。農ビは繊細な技術力を持つ日本ならではの製品であり、その高い技術力をリサイクルにもぜひ生かしてほしい」と、初めて目にした塩ビ製品リサイクルへの感想を語っていました。