1997年6月 No.21
 
 

 津久見市と秩父小野田(株)のRDF一貫処理事業
   行政と民間企業が二人三脚、塩ビも含む都市ごみをセメント製造の燃料に利用

 

    廃棄物再利用の切り札として自治体の関心を集める固形燃料(RDF)。しかし、いざ利用するとなると、処理能力を持つ施設が限られるなど難しい問題も少なくありません。そんな中、自治体と民間企業が協力し合ってRDFの利用を進めているのが、大分県津久見市の固形燃料化施設ドリーム・フューエルセンター(津久見市大字日見字久保浦309−4、TEL.0972−82−4111)とセメント大手・秩父小野田株式会社(本社=東京都港区西新橋)の津久見工場(津久見市合ノ元町2−1、TEL.0972−82−3111)。行政と民間企業が二人三脚で取り組むRDF一貫処理体制の現場を取材しました。  

操業を開始した“夢の燃料化施設”

  津久見市は大分県の南東部、人口およそ2万5千人の小都市です。家庭から出される可燃ごみ(生ごみ、廃プラ、紙類など)の量は年間約7千トン。そのうち別ルートで資源回収される古紙を除く6500トンがドリーム・フューエルセンターで固形燃料化され、秩父小野田の津久見工場においてセメントを焼成する際の熱源および原料の一部として再利用されています。
  津久見市がごみの固形燃料化に向けて動き出したのは平成4年のことで、当時、老朽化した焼却施設をリサイクル時代に対応した熱エネルギー再利用型の施設に建て替えることを検討していた市は、検討の過程で、ごみ発電などより小規模都市にふさわしく、環境面でもリスクの少ない固形燃料化に着目。燃料の受け入れ先として秩父小野田が協力を申し出てくれたことが、計画を実現する上で決定的な要因となりました。
  平成6年10月には1年間の実証実験も終了し、翌7年の2月から施設の建設に着工。こうして、かつての焼却施設は“夢の燃料化施設”ドリーム・フューエルセンター(厚生省の「ごみ燃料化施設補助対象事業」)として、今年1月から本格的な操業を開始することとなりました。

 

■ 灯油180kl分(年間)の燃料

  ごみを固形燃料にするにはいくつかの異なった方法がありますが、ドリーム・フューエルセンターでは生石灰を添加剤に用いるJ−カトレルシステムが採用されています。
  スイスのカトレル社が開発したこのシステムは一般に反応固化方式と呼ばれ、ごみと生石灰との化学反応を利用することで、燃料の保存性、成形性を高め、排ガス中の塩化水素処理を容易にするなど様々な特長を備えています。
  施設の処理能力は、1日16トン(8時間運転)のライン2系列で、年間約4千トン。せンターに集められた可燃ごみは、破砕→不燃物の除去→添加剤の投入→混合・反応→圧縮・成形→乾燥という工程を経て、直系15mm、長さ25mmの固形燃料に生まれ変わりますが、このサイズはセメント工場のホッパーで目詰まりを起こさないよう秩父小野田の要請を受けて決められたもの。
  燃料の発熱量は1kg当たりおよそ3500キロカロリーで、トータルすると1年間で18リットルの灯油缶10万本分の燃料が生産される勘定となります。

■ 塩ビの混入量はほぼ1%以下

 
  品質の良い固形燃料を製造する上では、各家庭での適正な分別がまず第一の前提となりますが、津久見市では容器包装リサイクル法の施行に先立って資源ごみ(ビン・カンと生ごみ・プラスチック類などの可燃ごみ)と不燃ごみに分けて回収を行っており(発熱量を確保する必要からPETボトルの分別は実施していない)、津久見市環境保全課の石井隆光課長の話では、「法律施行を前に8ブロックに分けて説明会を開催したが、想像した以上にきちんと分けられている」とのことです。
  塩ビの混入量は確定できませんが、製品としては包装用フィルムや菓子箱の仕切り板、玩具などが主で、平均すれば一般の都市ごみとほぼ同程度の量(1%以下)と考えられます。

   

■ 最終的にはセメント原料の一部に

 
  ドリーム・フューエルセンターで作られた固形燃料は、センターから車でおよそ20分、津久見湾沿いの一画に建つ秩父小野田の津久見工場(第2工場)まで搬送されます。同工場の須藤勘三郎副工場長によれば、「市からの受け入れ量は現在1日約10トン。これを1日2回に分けてトラックでセンターから運んでくる」とのことです。
  秩父小野田は、豊富な石灰石と海運に適した港を擁する津久見市で大正時代からセメントの製造を行ってきており、現在は年間約500万トンの各種セメントが津久見工場で生産されています。
  工場では直系4.8m、全長110mという巨大なロータリーキルンが2基、24時間運転で稼働しており、固形燃料は廃タイヤなどと共にキルンの窯尻に自動的に投入され、セメント原料の石灰や粘土を乾燥する熱源に利用された後、最終的には原料の一部として製品(クリンカー)の中に混合されることになります。

 

■ 独自の塩素バイパス技術

 
  セメントの製造にとって、鉄筋の腐食やコンクリート劣化の原因となる塩素の量の調整は重要な問題ですが、先に触れた実証実験の結果から、固形燃料中の塩素量が一定の限度内であればセメントの品質に影響を与えないことが分かっています。
  「センターには3850ppm以下という条件を出しているが、津久見市のごみは分別もよく、塩素の量は2000ppm程度で安定している」(須藤副工場長)。
  塩素処理という点では秩父小野田の塩素バイパス技術も注目したい特徴のひとつです。これは、塩素がもっとも濃縮されやすいキルンの窯尻から塩素を抜き出し、バイパスを通じてクリンカーの中に直接を交ぜ合わせる技術で、「場外には一切廃棄物を持ち出さない」という考えから同社が独自に開発したもの。この設備を備えていたことが固形燃料の利用を容易にした一因と言えるようです。
  ダイオキシンも、1450℃以上の高温で連続燃焼させるため完全に分解することができます。
  「将来は有価物として対価を支払って引き取ることになるが、化石燃料の節減のためにも積極的に固形燃料を利用していく」(須藤副工場長)「民間企業との二人三脚の試みで、ごみ行政の流れは大きく変わった。秩父小野田のノウハウは他の工場にとっても貴重な参考になる」(石井課長)。官民共同のRDF一貫処理事業は、今後も順調な展開が予想されます。