2019年3月 No.106
 

奈良県・森川ゴム工業所の塩ビ履物づくり

サンダルからブーツまで。
射出成形技術を駆使して、カラフル&おしゃれな製品開発

フジトーイが手がけるソフビ・フィギュアの数々
 カラフルでおしゃれなデザイン。見ただけで履きたくなってくるレディースシューズやレインブーツ、 ビーチサンダル、etc. 実はこれ、すべて塩ビ製なのです。作っているのは奈良県葛城市の履物メーカー・森川ゴム工業所(森川啓二社長)。国産原料にこだわり、射出成形技術を駆使して、ワンショット一体成形の履物づくりに取り組む、マルリョウ印のワザの世界にご案内。

●ワンショット一体成形

森川社長
森川社長

 プラスチックの射出成形とは、加熱して溶かした樹脂を金型の中に注入して、成品を加工する技術のこと。今回ご紹介する森川ゴム工業所は、この成形技術と塩ビ樹脂の特性を生かし、サンダルから各種ブーツまで、数々のヒット商品を世に送り出してきました。
 「うちの創業は昭和23年だが、射出成形を始めたのは40年頃から。サンダル作りの工程を何とか効率化できないかと考えたのがそもそもの動機で、成形機メーカーや金型メーカー、塩ビのコンパウンドメーカーなどの協力を得ながら、アッパー(胴体)と底を丸ごとワンショットで一体成形する射出成形システムを作り上げた。この方法だと、金型ひとつで余計な手間を掛けずに製品が作れるし、継ぎ目がないので底が剥がれる心配もない。樹脂としては加工性、耐久性バツグンの塩ビが最適で、他の樹脂ではこれだけの一体成形品を作ることはできない」(森川社長)

●女性用シューズ「ポケッター」の大ブレイク

森川ゴム工業所のプロフィール

 昭和23年、森川良治氏(森川啓二社長の父)が創業。戦後の物資不足の中で、廃タイヤを利用したゴム草履などの製造販売を行っていたが、昭和28年からヘップサンダル(踵の部分にベルトのない、ハイヒールのつっかけ式サンダル)の製造を開始。昭和40年には、射出成形機を導入して、塩ビ製サンダル(フィッティングサンダル)の一体成形を開始し、現在の事業スタイルの基礎を固めた。
 昭和60年代に入り、女性向けのデザインシューズ「ポケッター」が大ブレイクしたのを機に、靴業界に参入。以後、従来のサンダルはもちろん、紳士靴、各種ブーツなど次々に開発が進んだ。関連会社に「SUNBOOT/サンブート」がある。

 射出成形の特長は、金型に樹脂を充填して加工するため、デザインの成形性が良いこと。その恰好の例と言えるのが、昭和60年頃に売り出され画期的な大ヒットとなった女性用サマーシューズ「ポケッター」です。テレビの人気番組で某女優の愛用品であることが知られてから人気に火がつき、フォルムと色の美しさ、風通しの良さなどが女性に支持されて、爆発的な売れ行きを記録しました。
 「最盛期だった平成初めの頃は日産およそ2万足。とにかくよく売れた。ただ、ほぼ2年間これ1本に掛かり切りとなった結果、本来のサンダルの販路を失ってしまった。このことがヘップサンダル業界(上の囲み記事参照)から靴業界に参入するキッカケになった」同社のラインナップが、各種ブーツ類などを加えてより豊富になっていったのはこれ以降。射出成形技術の新たな可能性追求の始まりでした。

レインブーツの製造の様子。予め裁断した布地(靴下)を金型に履かせて、外蓋を閉じ、内部に160℃から180℃程度に熱した樹脂を射出、プレスを掛けながらアッパーと靴底を一体成形した後、金型から抜き出して、熱を冷ます。ここまで40秒程度。この後、縁の部分を仕上げて(ミシン縫いなど)完成となる。布地には金型から抜き出すときに滑りをよくする役目もある。また、布地の種類によっては(パイル生地など)繊維のほこりが付着して品質が落ちるのを防ぐため、表面を軽く熱してケバを抑えるなど(写真)、随所に細かい工夫が見られる。

●ものづくりを支える力

金型からの抜き出し工程

最初の射出成形品「フィッティングサンダル」は、今もファンが多いロングセラー商品。

デザインの美しさで女性の人気を集めた「ポケッター」(2点とも)

金型からの抜き出し工程

 同社の製品開発の歴史を見て気づくのは、デザインや色柄のバリエーションが年を追うごとに多彩さを増してきたこと。この点について、森川社長の長男で専務の森川良一氏は、
 「先代社長の時代からデザインは重視してきた。海外に出かけて、面白そうなものがあるとそれを日本に持ち帰り、金型メーカーの担当者と相談しながら、森川ゴム独自のデザインを一から仕上げていく。この担当者は、うちの金型を最初から作っている人で、こちらのアイデアに沿って希望通りのものを殆ど手作業で作ってくれる。そのおかげで、機械作りの金型では対応できない微妙な部分の表現が可能になる。ポケッターもそうした共同作業の中から生まれたものだ」
 また、色の開発でも、「コンパウンドメーカーに『こんな色がほしいんだけど』と頼めば、すぐに対応してくれる」とのこと。こうした関係業者との緊密な連携が、同社のものづくりを支える大きな力になっていると言えそうです。

●安心安全なジャパンクオリティを守る

潟Cマージュの新製品

製品について説明する森川専務。「透明な塩ビ樹脂を使うと、下の生地の美しさを活かせる製品ができます」

 同社の現在の生産量は年間およそ40万足。近年は、価格の安い中国製品に押されて減少が続く一方、問屋・小売りの廃業、小ロット多品種化の加速など、物流構造の変化も急速に進んでいます。森川専務は、
 「うちの販売ルートは、もともと街の靴屋さんとか個人商店がメイン。そのルートがどんどん狭まってきている」と、困難な状況を明かしつつも、「今後も国産原料、日本製であることにこだわり、高品質で息の長い製品づくりを続けていく。外国製品との価格競争には乗らず、環境に悪い物質は使わないといったことを徹底して、安心安全なジャパンクオリティを守っていく」と決意を語ってくれました。

関連会社「SUNBOOT/サンブート」の活動

写真 森川専務が代表を務める塩ビ関連製品の企画開発・販売会社(平成18年設立、森川ゴム工業所内)。デザイナーとのコラボレーションによるオンリーワンの商品開発、森川専務自身も参加しているPVCnext(関西地区塩ビ加工業界の若手経営者のグループ)との連携など、射出成形による塩ビ製品の可能性を追求している。困難とされてきた塩ビの後染め(成形後の染色)を実現した「染めを履く」(写真)は、PVC Design Award 2012で優秀賞を受賞した。
 また、PVCnextのコラボレーション事業として、平成26年から、上田安子服飾専門学校(大阪市)の卒業制作に協力しており、学生のデザイン力×森川ゴム工業所の技術力で、毎年フレッシュな作品(ブーツなど)を生み出している。今年の成果はインフォメーション2で。