2019年3月 No.106
 

食品用ラップフィルムが支える「食の安全」

抗菌、異物混入防止、制限食の仕分け。日立化成鰍ェ挑むラップ進化形

食品用ラップフィルム

 プラスチックと容器包装特集、ここからはその具体例として食品ラップフィルムと薬剤PTPを取り上げます。食品を冷蔵庫に保存したり、電子レンジで温めたりするときのキッチン用品として、今や不可欠となったラップフィルム。その役割は、食品の鮮度、衛生を保つだけでなく、抗菌、異物混入防止、制限食の注意喚起対策など、より多彩な広がりを見せています。日立化成梶i丸山寿執行役社長 兼 CEO/本社=東京都千代田区)の取り組みに見る、ラップ進化形の現状。

●人口減少時代でも、需要は増加傾向

ラップの国産化と日立化成の取組み
 1940年代にアメリカで誕生したラップフィルムは、日本でも1960年に国産製品の販売がスタート。本格的成長は60年代後半以降で、冷蔵庫やスーパーマーケットのセルフ販売の増加、さらには70年代の電子レンジの普及などに伴って急速に拡大した。
 日立化成は1973年、米国のボーデン社と合弁会社を設立してラップフィルムの製造販売を計画したが、日本の厳しい品質要求基準に適合せず苦戦。その後、日本独自で研究を進め、1980年に業務用の「ヒタチラップ」(当時の名称)を発売した。以後、世界初の抗菌ラップなど、他社にはない製品の開発に取り組んでいる。

 「日本におけるラップフィルムの出荷量は、2016年でおよそ12万5千トンと推定される。人口減少が進む中でも、核家族化や単身赴任などによる世帯数の増加、高齢化による個食の増加によって、小巻ラップの需要はむしろ増加傾向をたどっている」と説明するのは、日立化成樹脂材料事業部の吉田聡課長代理。
 ラップフィルムがこれだけ我々の生活に定着したのは、わずか10ミクロン(100分の1ミリ)程度の薄さにもかかわらず、強度や密着性、耐熱性、匂い・水分のバリア性など、食品包装材として多くの優れた特性を有しているから。また、カット性や引き出し性といった扱いやすさも大切な性能のひとつです。
 日本のラップフィルムには主に、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ポリエチレンなどの素材が使われており、それぞれの性能の違いに応じて適材適所で利用されています。例えば、強度や密着性、カット性など多くの点で優れる塩化ビニリデンのラップは、やや高価格ながら一般家庭を中心に広く普及しているのに対し、ほぼ同程度の強度と密着性、さらには伸縮性も高い塩ビラップは、コストも含めてトータルバランスが優れているため、主にホテル、レストラン、居酒屋などの外食産業で業務用として多く使われています。

●チャレンジ精神から生まれた「抗菌ラップ」

抗菌日立ラップ

黄色ブドウ球菌を24時間、培地で増殖させた際の菌数を比較した写真。「抗菌日立ラップ」は、通常の無加工フィルムに比べ、菌の増殖を99%以上抑えることができる。

無加工フィルム
SIAA
 同社がラップフィルムの開発に着手したのは1973年。試行錯誤の末(上の囲み参照)、1980年に発売した業務用塩ビラップの第1号「ヒタチラップ」(当時の名称)は、その後も、コンパクト化などの改良を加えながら、安定した需要を維持するロングセラー商品となっています。
 「ラップフィルムに関してユーザーが最も重視するのは粘着性やカット性、耐熱性などで、そうした基本性能をしっかり維持しながら、いかにコンパクト化や化粧箱の機能追加等により、使い勝手を向上していくのが開発の腕の見せ所。もともと髪の毛の10分の1程度しかないラップの厚みを、わずか1ミクロン減らすだけでも容易なことではないが、配合組成や重合度の変更などを重ねて、難題を克服してきた」(機能性保護フィルム開発部の宮田裕幸専任研究員)。
 同社のラップ事業で特徴的なのは、他社が手がけない分野を掘り起こし、いち早く製品化に結びつけていくチャレンジングな姿勢です。1996年に登場した「抗菌日立ラップ」は、その最初の成果と言える「おそらく世界でも初」(吉田課長代理)の機能性ラップで、無機抗菌剤の配合により、ラップ表面に付着した細菌の繁殖を抑制する優れた抗菌性能が、調理現場における衛生管理の向上に大きく貢献しています。もちろん、抗菌剤自体の安全性も各種試験で確認されています。

 

●驚きのカラー化路線。ニューバージョンも近々登場

ラップ片の混入がひと目でわかる

ラップ片の混入がひと目でわかる

 一方、2013年に発売された「日立ラップ ブルータイプ」は、無色透明というラップの常識を覆したカラー化路線の第一弾。もともとは「切れ端が見えづらい」という高齢者の声に応えて開発されたものですが、視認性を高めるため採用した「青」が天然素材にはない色相であることから、ラップ片の混入が見つけやすく食の安全管理に役立つとして、食品工場やホテルの厨房などから大きな支持を集めることとなりました。(「PVC DESIGN AWARD 2015」の大賞受賞作品)。
 「発売と同時に、異物混入問題の解決という市場のニーズと図らずも合致した。この5年間でブルータイプの需要は順調に伸びており、2020年東京オリンピックに向けてホテルなどの外食産業が異物混入対策を強化しつつある中、さらなる飛躍が期待できる」(樹脂材料事業部の菅野裕晃樹脂素材戦略担当部長)。
 2017年には、カラー化路線の第2弾としてレッドタイプも発売。注意喚起の色として、病院・介護施設、学校給食等における制限食の仕分け・管理などに利用されているほか、レッドとブルーの2色を使い分けることで、調理の工程別に素材を仕分けするなど、オペレーション上のルール作りにも役立てられています。
 さらに、2019年春にはブルーラップを抗菌化したバージョンアップ製品も発売予定で、ラップとしては日本で初めてHACCP INTERNATIONALの製品認証(食の安全に対して優れた対応能力を有することを証明する国際的な適合マーク)を取得済み。「当社はラップメーカーとしては後発なので、普通のことをやっていては生き残れない。今後は中国・東南アジアなどへの展開強化も視野に入れて、更なる食の安全をめざし、時代の要請に応えていきたい」(菅野部長)。日立化成の挑戦はまだまだ続きそうです。

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日立ラップ ブルータイプ

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日立ラップ レッドタイプ