2018年11月 No.105
 

ソフビ人形60年。潟tジトーイのものづくり

ヒット商品続々。グローバル・ネットワーク基盤に
自社一環生産システムを構築

フジトーイが手がけるソフビ・フィギュアの数々

フジトーイが手がけるソフビ・フィギュアの数々(本社展示室)

 以前、ソフビ人形の金型づくりの現場をご紹介しましたが(No.101)、今回訪れたのは、およそ60年にわたってソフビ人形づくりに携わってきた潟tジトーイ(大杉一雄社長、埼玉県三郷市)。世界の子供たちを楽しませてきたソフビ人形づくりの近況、そのやり甲斐と難しさを、大杉社長に取材しました。

●累計3億5千万個のポケモン

大杉社長
説明する大杉社長

 ウルトラマン、ゴジラ、仮面ライダー、ドラえもん、アンパンマン、ポケットモンスターなどなど、名だたる人気キャラクターのソフビ人形づくりに取り組んできたフジトーイ。その多くは玩具メーカー等のOEM生産ですが、ウルトラマン・シリーズだけでも累計1億個、ポケモンに至っては3億5千万個を内外に供給してきたという実績を考えれば、それと気づかぬまま同社の製品に親しんだ経験を持つ人は、世界中で相当な数に上るに違いありません。
 同社は1959年、大谷玩具製作所として東京葛飾区で創業(創業者は大杉社長の兄・大谷英雄氏、1976年から現社名)。「当初はソフビの抱き人形や動物などを作っていたが、しばらくは苦しい時期が続いた」(大杉社長)という中、1967年、大手玩具メーカーの注文でウルトラマンのソフビ人形づくりを開始したのを契機に、経営が安定。90年代以降は生産拠点を中国などに移し、そのグローバル・ネットワークを武器に、年間200アイテム以上にも及ぶソフビ事業を展開しています。

●ロボット技術と職人技

 ソフビ人形は、スラッシュ成形という方法で作られます。スラッシュ成形とは、中空金型の内部に満たした塩ビペースト(塩ビゾル)を外部から加熱し、型に触れている部分をゲル化(ゾルがゼリー状に固化した状態)して中空品を成形する方法で、製造工程を具体的に説明すると、@塩ビペーストの入った金型を、およそ200℃に熱したオイル槽の中に30秒〜1分ほど浸して、厚さ2〜3oに固化する、A金型を逆さにして不要な塩ビペーストを取り除く、B再びオイルに浸して1分半から2分ほど加熱する(2度焼き)、C水槽に金型を浸して80℃程度に冷却する、Dペンチなどを使って金型から抜き取る、というのがおおよその流れ。この方法で、頭部や胴体など各パーツを製造し(同社のソフビ人形は平均4パーツ。多くて10パーツ)、彩色を施した後、最後にパーツを組み合わせて完成となります。
 同社では、1990年に世界初のスラッシュ成形ロボット開発に成功するなど、コンピュータやロボット技術を駆使して作業の近代化を図っていますが、金型から抜き取る工程だけは、高度な職人技を必要とするため機械化が難しく、「いまだに手作業に頼らざるを得ない」とのことです。

●ソフビ人形づくりの難しさ

金型からの抜き出し工程
経験がモノを言う、金型からの抜き出し工程(フジトーイの試作品づくりを請け負う葛飾区の泣Gース企業。画面左奥に見えるのがオイル槽)。
 「今はだいぶ改善されたが、ソフビ人形づくりは基本的に過酷な労働環境の中で行われる。200℃もの油を使うので夏場は室温が70℃以上になるし、3s、5sといった金型を手でハンドリングしながら成形するので、体力的に負担が大きい。冷却工程では高温の金型を水槽に浸けるので、水蒸気が出てすごい湿度になることもある」(大杉社長)
 技術的な面では、「抜き取り工程で金型に引っかかっても、暖かく柔らかさが残っていて無理抜きできるのがソフビのいいところ」ですが、逆に経験が浅いと、伸びたまま元に戻らないといった失敗も多く、やはり職人の技と経験が大きくモノを言う世界。「特に大量ロットの注文はスピードと技術が求められるが、両者がうまく噛み合うまでは容易ではない。中国の製造拠点では、要求されるクオリティに達するまで8年かかった」といいます。

●この仕事をやっていてよかった

潟Cマージュの新製品
ファンシー雑貨の製造販売を行う潟Cマージュの新製品

 現在、同社は中国、香港、インドネシアに現地法人を設けており、中国広東省の江門富士玩具有限公司をメイン工場、福建省の福州富士玩具有限公司を金型製作に役割分担しています。一方、国内でも、金型の原型制作・デザイン部門として階IDSを設立しており(1993年)、企画・デザインから金型製作、商品生産まで、グローバル・ネットワークを基盤にした自社一環生産システムをきっちり構築しているところに、同社の大きな強みがあるといえます(上の図参照)。
 近年は、金型の技術を活かして、キャラクターパンを焼く金型のリース事業やファンシー雑貨の製造販売など、新たな分野への挑戦も進むフジトーイ。大杉社長は「うちの製品を置いてもらっている病院の看護師さんから、診察の時に人形にしがみついている女の子や、ウルトラマンを抱いてじっと注射を我慢している男の子がいると聞きました。そういうことを聞くと、この仕事をやっていてホントに良かったなと思います」と、ソフビ人形づくりへの思いを語ってくれました。