2018年7月 No.104
 

風で分ける。
㈱エコロの塩ビ壁紙リサイクル事業

リサイクル困難な複合素材を特殊技術で精密分離し、再資源化

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 住宅やオフィス空間を彩る塩ビ壁紙は、デザイン性、施工性の高いスグレモノですが、塩ビフィルムとパルプの複合製品であるためリサイクルしにくいのが難点。その困難な課題解決に向けて果敢な挑戦を続けているのが、株式会社エコロ(後藤雅晴社長、埼玉県富士見市)です。事業の拠点・綾瀬リカバリーセンター(神奈川県綾瀬市)で、壁紙リサイクルに掛ける後藤社長の思いを伺いました。風で分けるって、何のこと?

●塩ビは床材に、パルプは猫砂に

写真:事業の現状を説明する後藤社長
事業の現状を説明する後藤社長
 エコロが取り組む壁紙のリサイクル事業は、塩ビ壁紙メーカーから排出される工場端材を粉砕して、塩ビ層とパルプ層を分解・分離した後、塩ビは床材などの原料に、パルプは猫砂の原料に再利用するもの。
 同社が塩ビ壁紙のリサイクルに進出したそもそもの狙いは、創業時から取引のある猫砂メーカーに原料のパルプを安定供給するためで、塩ビのリサイクルに関わるのは今回が初めて。それだけに、事業化にこぎ着けるまでには多くの試行錯誤があったようですが、99%という分離精度の高さから、同社の再生塩ビに対する需要は、首都圏から京阪神地区まで着実な広がりを見せています。

●ほとんどゼロからのスタート

 「当社の壁紙リサイクルプラントは、もともと猫砂メーカーが事業化を企図して所有していたものだが、そのメーカーが結局リサイクルには手を出さないという方針に転換したため、当社が買い取ることになった。困ったのは、初めて扱う機械だった上に、そのままでは電力の消費が膨大になりそうだったこと。できるだけ省力化しながら高精度分離を実現するというのが当社の狙いだったので、その狙いどおりのシステムにするため、工場長と2人で機械を分解して、夜中の時間も使って組み立て直した。安定稼働するまで全面改良しているので、ほとんどゼロからのスタートだったといえる」(後藤社長)

ECORO■㈱エコロの活動。
 2011年5月設立。埼玉県を地盤に、産業廃棄物収集運搬、廃プラスチックや古紙のリサイクル(RPF・フラフ燃料化)、リサイクル関連機械の販売など、幅広い事業を展開している。2016年2月、プラスチックリサイクルの新拠点として綾瀬リカバリーセンターを開設。オレフィン系プラスチックのリサイクルを開始する一方、同年末から塩ビ壁紙のリサイクルの着手。ほぼ1年の試験研究を経て、事業化した。中国、タイなど廃棄物の受入停止へ向かいつつある海外の動きに対応して、国内リサイクルに軸足を置いた事業をめざしている。(http://ecoroinc.jp/
処理工程の概要

●4重の分離工程で高精度分離

写真:エコロの塩ビ壁紙リサイクルプラント
エコロの塩ビ壁紙リサイクルプラント
 処理工程は別掲図のとおり。ラインに投入された廃塩ビ壁紙は、まず1センチ角程度に細かく破砕された後、分解機で塩ビ層とパルプ層に分解されます(鋸刃状の細かい突起を高速回転させて表層を削り取る)。続いて、遠心分離機(高速回転する金属製のメッシュ円盤で塩ビとパルプを分離する装置。ここでパルプの大半が回収される)、分離タワー(風力と比重差を利用して塩ビ分に残る微量のパルプ分を完全除去する装置。この工程を2回繰り返す)、振動篩機という4重もの分離工程を経て、それぞれがリサイクル原料として回収されるという流れです。
 「実際は篩を使わなくとも相当高率に分離できる。試験段階では、その状態でもメーカーから苦情は出なかったが、塩ビを安定的に販売していくためにはパルプ分を可能な限り取り除きたい。均一な分離ができていないリサイクル原料は、結局は製品として買ってもらえなくなる。分離タワーを2回通すのも、敢えて篩機を付けたのも、最後まで徹底的に漉し取るためだ。」

●風をコントロールする特殊技術

写真:同社の再生パルプを使った猫砂
同社の再生パルプを使った猫砂
 分離工程を手厚くする一方で、コスト圧縮のための省力化も進められています。壁紙リサイクルプラントは、破砕から原料回収までフルオートメーション・システムとなっており、操作に携わるのは基本的には1人。また、工場内の電気をすべてLEDに代えるなどの対応も図られていますが、これには火災防止という意味も含まれており、後藤社長は「場内でもプラントの設備でも、熱を持つ部分は極力省いていく」と説明しています。
 また、プラントを安定稼働させるためには、メーカーごとの壁紙の成分の違い、天候による湿度の違いと静電気の発生などへの対応もポイントになったようです。特に冬場は静電気で粉砕品が機械の回りに付着して作業を阻害するため軽視できない問題となっていましたが、「この問題についてはその日の湿度に合わせて分離速度を調整することで解決できた」とのこと。
 現在の処理量は1ヶ月約70トンとなっていますが、後藤社長は「処理量を増やすかどうかは、再生品の販売状況を見ながら慎重に判断したい」とした上で、次のように将来展望を語っています。
 「風力を使って分けるのが、このプラントの特徴。原料をホッパーに入れてから、風で搬送し、風で流し、風で補足し、風で分離する。風を如何にコントロールするかという特殊な技術が問われる。風を生かしつつ、同時に風を殺さなければならないこともある。当社でしかやれないこの技術を使って、いずれはもっといろいろな廃棄物のリサイクルに挑戦していきたい。それによって差別化を図り、ずっと生き残っていけるような会社にしたいと思う」