2018年7月 No.104
 

塩ビ蓄光シート/タキロンシーアイ㈱の「ルミセーフ」シリーズ

高輝度・長残光の高性能。夜間の災害でも避難者を安全誘導

シリーズの主力商品「ルミセーフサイン」。闇の中で光る避難誘導標識
シリーズの主力商品「ルミセーフサイン」。闇の中で光る避難誘導標識
 塩ビと安全・安心な街づくり特集、その最後に取り上げるのは、高付加価値のプラスチック製品を生み出し続けるタキロンシーアイ㈱(大阪市北区、南谷陽介社長)の「ルミセーフ」シリーズ。暗闇の中で長時間自家発光する特殊な性能から、避難誘導標識などへの利用が進む軟質塩ビの蓄光シートに、今、各方面からの期待が高まっています。

●身の回りの様々な場面で活躍

蓄光発光の仕組み
蓄光発光の仕組み
 太陽光や蛍光灯などに含まれる紫外線を蓄えて、暗いところで発光する−これが蓄光のメカニズム。同じ夜光材でも、周囲に何らかの光源がなければ発光しない蛍光と違い、蓄光は光源が断たれた後でも蓄えたエネルギーで発光し続ることができます。聞き慣れない言葉かもしれませんが、ビルの非常口や地下鉄の壁面などに掲示された避難誘導マーク、あるいは時計の文字盤や蛍光灯のスイッチ紐のつまみなど、実は、私たちの身の回りの様々な場面で、蓄光技術は広く利用されています。
 「従来の蛍光材に代わって蓄光材が登場したのは1960年頃のこと。当初は硫化亜鉛系の原料が使われていたため30分程度の蓄光能力しかなかったが、1990年代に根本特殊化学がアルミン酸ストロンチウム系の原料を用いた蓄光材を開発。高輝度、長残光の蓄光が可能になり、市場を席巻した。現在世界に普及している蓄光技術は日本生まれのものといっていい」(タキロンシーアイ建築資材企画統括部の小野雅弘担当課長)

●東日本大震災を機に事業を本格化

 タキロンシーアイの製品に蓄光技術が取り入れられたのは2000年代初めのこと。「当時、屋内の階段などに使う滑止め・遮音用の塩ビ床材『タキステップ』という製品を販売していたが、安全対策としてこれに蓄光技術を採用した『蓄光タキステップ』を開発した」(同社建築資材企画統括部の西岡純一氏)

■避難誘導標識システムのJIS化とルミセーフ
 津波避難誘導標識システムのJISZ9097(2014年9月制定)では、屋外標識の暗闇対策として、光を遮断してから12時間後の輝度が、T類(大型の標識)は3mcd/m2以上10mcd/m2未満、U類(小型の標識)は10mcd/m2以上(mcdは輝度の単位。10mcdはロウソク1本分の光の100分の1)、なければならないことが定められている。
 一方、災害種別避難誘導標識システムのJISZ9098は、災害対策基本法の改正(2013年6月)を受けて、2016年3月に制定されたもので、屋外標識の輝度などはJISZ9097に準じた基準となっている。一連のJIS規格は、屋外用の蓄光の基準を初めて明文化したもので、「ルミセーフ」シリーズは、一部を除き、これを満足する性能を有している。

蓄光発光の仕組み

 その後、2011年3月の東日本大震災を機に、津波避難誘導標識システム(避難場所に至る道のりに設置する一連の誘導標識を含む)がJIS化され(JISZ9097)、暗闇時における屋外用標識の輝度などが規定されたのを受けて、「蓄光タキステップ」をグレードアップ。長残光の階段床材「ルミセーフステップ」として発売しています。2016年には、土石流や洪水などの災害種別避難誘導標識システムについてもJIS化(JISZ9098)が行われたことから、蓄光式標識「ルミセーフサイン」をはじめ、ピクトサイン(絵文字)、置き敷マットなどを相次いで開発し、ラインナップを広げていきました。

●東京オリ・パラも視野に普及拡大中

柱の曲面にもピッタリ設置
柱の曲面にもピッタリ設置

 ルミセーフサインは、塩ビ樹脂に直接蓄光材を練り込んでシートに加工した後、その上にデザインを印刷して製造されます。その第一の特長は、蓄光層に1o以上の厚みを持たせることにより、12時間後も暗闇で視認できる輝度の高さと残光時間の長さを実現していること。第二は、40年にわたって培ってきた同社の塩ビ配合技術により、ポリエステル系の製品などに比べて、より紫外線に強く、変色、劣化しにくい優れた耐候性を実現していることです(蓄光材自体は無機物なので紫外線による劣化の心配はない)。また、量産しやすく大きなサイズにも対応しやすいこと、印刷性のよさ、曲面や凹凸面にも自在に設置できること、なども軟質塩ビゆえの性能といえます。
 ルミセーフシリーズの製品は、主力である「ルミセーフサイン」を中心に、津波や水害を初めとする災害避難用として、全国の自治体で広く利用されており、今後も「2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、首都圏を中心に避難場所表示の設置業務が数多く発注される見込み。また、近年多発しているゲリラ豪雨対策としても、水害時の避難ビル表示サイン設置業務の発注が増えてくると予想している」(小野担当課長)  なお、災害種別の避難誘導標識システムのJISZ9098については、ISOで国際標準化する動きが進んでおり、一般社団法人日本標識工業会を窓口に、日本からの提案として、今後審議が本格化する予定。東京オリ・パラへの対応という意味でも、早期の実現が望まれるところです。

「ルミセーフシリーズ」の明るさと持続時間
「ルミセーフシリーズ」の明るさと持続時間
※日没前1時間を想定した紫外線量(400μW/u)を当てた後、時間の経緯と輝度の発現レベルを測定