2018年7月 No.104
 

無電柱化と塩ビ管〜 東京都の取り組みから

電柱のない安全で美しい街・東京へ。
事業の現状と塩ビ管の役割

東京都のPRビデオ
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「無電柱化ってなに?〜東京を安全で美しい街に!〜」から
 今号の特集企画は、街づくりと塩ビの役割がテーマ。安心・安全な街を支えるために、塩ビ製品は様々な場面で活躍していますが、ここで取り上げる電柱のない街づくりもそのひとつ。地下に埋設する電線や通信ケーブルを保護するという大切な役割を担っているのが塩ビ管です。まずは、無電柱化へ向けて精力的な取り組みを進める東京都の現状を、塩ビ管への期待も含めて東京都建設局道路保全担当部長の加藤直宣部長にお話しいただきます。

●無電柱化の3つの目的

「28年度末で累計913qの整備を完了しました」(加藤部長)
「28年度末で累計913qの整備を完了しました」(加藤部長)

―東京都が無電柱化に取り組む目的は何ですか。
 無電柱化には大きく3つの目的があります。そのひとつは都市防災機能の強化です。阪神淡路大震災のときも、倒壊した電柱が道路を塞いで救急救命や緊急車両の通行を阻害したり、電話や電線が被災してライフラインを分断したり、といったことが起こりました。東京の場合も、首都直下地震の恐れが言われて久しい上、住宅も密集している。そういう意味で、電柱は災害時の障害の大きなファクターのひとつであって、無電柱化による防災機能強化の重要性はますます高まっています。
 2つ目は、安全で快適な歩行空間の確保です。例えば都道であっても、電柱が邪魔して十分な歩行空間が確保できていないところがまだ結構あるんですね。歩行者はもちろん、高齢者や体に障害のある人、車イスやベビーカーも移動しやすい歩行空間を確保するという点で、無電柱化の意義は大きいと思います。
 3つ目は、良好な都市景観の創出。空を見上げたときに電線や電柱が視界を遮ることのない都市景観を作っていかなければなりません。特に、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会などへ向けて、今後海外からのインバウンドがますます増加していくであろうことを考えたときに、景観の向上ということは、国際都市・東京として無視できないファクターです。

●「東京都無電柱化推進計画」に基づき着実な成果

「28年度末で累計913qの整備を完了しました」(加藤部長)
※延長整備対象延長は、施設延長(道路両側の合計延長)

―都内の無電柱化はどの程度進んでいるのでしょうか。
 東京都は昭和61年度の電線類地中化計画をはじめとして、約5年を一期として、現在の「東京都無電柱化推進計画(第7期)」にわたって無電柱化事業を進めてきました。その結果、28年度末では累計913q(区部と多摩地域の合計)の整備を完了しています。これは整備対象延長2,328qの39%に当たりますが、おおむね首都高速中央環状線内側のセンター・コア・エリアだけで見ると506q、整備対象536qの94%が完成しています。
 やはり重点的に整備する路線を定めて計画的にやっていかないと前に進まないので、都心部や、防災拠点等を結ぶ環状七号線などの第一次緊急輸送道路、あるいは多摩地域についても利用者の多い主要駅周辺などに重点的に力を入れているわけです。第一次緊急輸送道路については平成36年度までに50%、特に環七については100%完了する計画で、現在懸命に事業を進めているところです。また、センター・コア・エリア内やオリンピック会場の周辺の整備対象路線については31年度までに完成させることを目標としており、着実に実績を積み上げています。
 一方、国では「無電柱化の推進に関する法律」(平成28年)ができ、東京都においても昨年9月に、「東京都無電柱化推進条例」を全国の都道府県に先駆けて施行しました。また、今年の3月には、この条例に基づいて、今後10年間の基本方針や目標、区市町村および官民との連携のあり方などを定めた「東京都無電柱化計画」も策定しています。具体的な整備路線等については、今後、国と連携しながら関係事業者とも調整していく予定です。

●コスト縮減が重要な課題

 ―無電柱化の課題は何ですか。また、その課題を解決する上で塩ビに期待または注文したいことは?
 現在の電線共同溝方式による電線の地中化では、どうしても一定の道路幅員が必要になります。電柱上部に付設しているトランス(変圧器)に代わる地上機器などを置く場所も確保しなければなりませんので、設置先への丁寧な説明や理解促進は常に重要な課題です。そのために、ビデオ制作などPRにも力を入れているわけです。
 それと、なんと言ってもコストですね。「東京都無電柱化計画」では、10年後の目標として整備コストの3分の1カットを掲げていますが、我々だけの力でこの目標をクリアすることは出来ません。電線や通信ケーブルを管理する東京電力、NTTなどの関係事業者と連携した技術開発も、これまで以上に必要になってくると思います。

●塩ビ業界への期待−コスト低減に役立つ技術開発や提案を

電線共同溝のイメージ(国土交通省のホームページから転載)
電線共同溝のイメージ(国土交通省のホームページから転載)

 もちろん、その中で塩ビ業界に期待したいこともいろいろあります。無電柱化を進める上で、軽くて丈夫な塩ビ管は重要な役割を果たしてきましたが、我々としては、それをさらに凌駕するような、強くて柔軟性があって、しかも安価な管路が開発されることを切に待望しています。東京都では、技術基準である「電線共同溝整備マニュアル」というものを作っているのですが、この中では塩ビ管の強度についても、ツルハシに耐える得ることを想定した従来の基準を、スコップに耐え得る程度の基準に見直すなど、時代に合わせた変更を行っています。
 そういう変化に対応して、コスト縮減に役立つような技術開発や提案を、業界として積極的に進めていただきたい。安価な単価で性能もきっちり管理されている製品なら、道路管理者も電力管理者も信頼して使っていけますし、行政としても柔軟に取り入れていきたいと考えています。