2017年11月 No.102
 

塩ビ壁紙丸ごとリサイクル。
工事現場の安全マットに!

鹿島と照和樹脂のタッグで、壁紙リサイクルに新たな道

勝どき五丁目再開発の工事現場

 塩ビ壁紙を丸ごとリサイクルして、工事現場の安全マットを製造。本誌100号でごく触りの部分だけをご紹介した待望のリサイクル事業が、いよいよ本格始動します。ゼネコンの鹿島建設(株)(押味至一社長、本社 東京都港区)と、プラスチックの加工・再生メーカー(株)照和樹脂(大川康夫社長、本社 埼玉県吉川市)がタッグを組み、塩ビ壁紙のリサイクルに新たな道を開く、注目の取り組みをレポート。

●成形協力は樹脂加工の(株)カツロン

リサイクルマット表面
リサイクルマット表面。この突起が建設現場の安全を守る。

 優れた耐久性とデザイン性で市場を席巻する塩ビ壁紙は、一方で樹脂とパルプの複合材ゆえにリサイクルの難しい材料でもあります。それぞれを分離して個別にリサイクルする技術は開発されていますが、今回の取り組みは分離の手間を省き丸ごと再生原料として利用するという点が最大のポイント。
 事業のスキームは、①鹿島の新築工事現場から出る壁紙の施工端材、剥がし材(施工中のもらい傷等で検査後に貼り替えたもの)を分別回収、②照和樹脂が開発したリサイクル技術でペレット原料に加工、③プラスチック押出成形メーカーの(株)カツロン(本社 大阪府東大阪市)の栃木工場で、建築現場等で利用する安全マットに成形(押出加工)する、というもので、完成した製品は、仮設資材の販売会社「つくし工房」(東京都板橋区)を窓口に、鹿島の各現場からの注文に応じて販売されます。また、鹿島は関係各社をとりまとめリサイクル事業を促進します。

●2030年までに埋立ゼロをめざす

多種多様な素材が展示されているモノ:ファクトリーのギャラリー
取材にご協力いただいた皆さん。
左から、照和樹脂コンパウンド事業部の土子悟氏と高田取締役、鹿島東京建築支店・安全環境部の植松久美子氏と建築工事管理部の楢侮汳キ、鹿島環境本部の野呂次長

 今回の取り組みに踏み切った動機と経緯について、鹿島環境本部・環境ソリューショングループの野呂好幸次長は、次のように説明しています。
 「今回の事業は、弊社が2013年に策定した『鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050』に掲げた3つの目標(別掲囲み)のうち、Zero Wasteの具体策として取り組むもの。塩ビ壁紙は耐久性、加工性の高い優れた材料だが、リサイクルが難しく、弊社でも10%程度はサーマルリサイクルしているものの、残りは単純焼却か管理型処分場に埋立てるしかない状況が続いていた。Zero Waste達成に寄与する技術として、有望なリサイクル技術を探していたところ、産廃のコンサルタント会社を通じて、照和樹脂の技術と出会った。2015年のことだ」
 照和樹脂は、もともと塩ビ管など硬質塩ビのリサイクルをメインとする会社ですが(同社の詳細は本誌No.100参照)、事業分野の新規開拓の検討を行っている中、日本壁装協会(施工業者など壁紙関連事業者の団体)からの打診などを受けて、塩ビ壁紙のリサイクル技術開発に着手。同社が既に有していた、植物繊維と樹脂の複合プラスチック(植物フィラーコンパウンド)を製造する独自技術(高速・高剪断混合溶融機と呼ばれる特殊なミキサーで繊維の奥深くに樹脂を均一に浸み込ませる)を応用する形で、2014年末に壁紙のリサイクルシステムを完成しています。
 「パルプと塩ビのブレンドは、植物フィラーコンパウンドの技術を使えばなんとかなると想定していたので、最初から『手間暇かけずに丸ごとリサイクルする』という方針で開発を進めた。実際には粉砕機の選定、粉砕粒度の調整など困難もあり難渋したが、そこに鹿島さんから提携の話がきて事態は一気に進んでいった。今回の取り組みは、リサイクルで最も大切な出口(用途と需要)の部分がきちんとしている点が何よりの強みだ」(照和樹脂コンパウンド事業部の高田基雅取締役事業部長)

 

鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050

 持続可能な社会へ向けた取組みを明確にするため、2050年までに鹿島建設が達成すべき将来像を明示したもので、「低炭素」「資源循環」「自然共生」の3つの目標を定めている。
❶ Zero Carbon(低炭素)
 =自社の事業活動および提供する建造物から排出される温室効果ガスも含め、排出ゼロをめざす。
❷ Zero Waste(資源循環)
 =建設廃棄物のゼロエミッション化と、サスティナブル資材の活用、建造物の長寿命化。
❸ Zero Impact(自然共生)
 =建設事業における自然・生物への影響抑制、新たな生物多様性の創出・利用の促進。

●業界に先駆けてリサイクルを実証

 開発プロジェクトがスタートしたのは2015年の4月。「照和樹脂との提携で原料化の目処は立ったが、問題はそれをどんな用途に使うか。検討の結果、現場で出たものは現場で使うのが一番ということで、カツロン、つくし工房などとも相談の上、『市販のバージン材と同等のコスト』を前提条件に、100%リサイクル品の仮設用安全マットを作ることにした。試作品が完成したのは2015年の9月。その後、耐久性、メンテナンス性を確認するため、実際に勝どき五丁目再開発の工事現場に敷設して半年間耐久テストを行って全く問題ないことを確認してから、事業化を決定した」(鹿島建設(株)東京建築支店・建築工事管理部の楢崎弘道次長)
 なお、事業化に際しては、鹿島の現場だけでは十分な廃材が集まらないことなどから、壁紙メーカーのアキレスから提供される工場端材なども配合することになっています。
 塩ビ壁紙のリサイクルマットは2017年11月から発売開始となる予定で、鹿島建設では「この取り組みにより、壁紙のリサイクルが製品として成立することを業界に先駆けて実証する。仮設資材としてニーズも汎用性もあると見込まれるので、2020年の東京オリンピックに向けた再開発工事の現場などでも利用してもらえるよう、積極的にアピールしていきたい」(野呂次長)と意欲を見せています。