1993年3月 No.4
 

 北海道工業開発試験所・斎藤主任研究官の講演から 

  廃プラスチック油化技術の現状を報告

    資源の無公害・再利用へ高まる期待

    前号の「PVCニュース」では、塩ビ製品を焼却して有用な資源やエネルギーを回収する研究について現状をご紹介しましたが、廃プラスチックの有効利用という点では、プラスチックを熱分解して油化する技術も大きな可能性を秘めています。昨年12月11日、塩化ビニル工業協会において、工業技術院北海道工業開発試験所の主任研究官・斎藤喜代志氏による講演「塩ビの脱塩素化、減容化と再資源化」が開催され(主催=塩化ビニルリサイクル推進協議会)、塩ビ関係者およそ30名が熱心に聴講しました。斎藤氏の研究は塩ビを含んだ廃プラスチックの再資源化(油化)に道を開くもので、塩ビ関係者からもその成果に高い期待が寄せられています。今回のトップ・ニュースでは、この廃プラスチックの油化に関する研究の現状を取り上げてみました。  

 

塩ビ混合廃プラの脱塩素化〜油化の技術開発へ、平成7年完成めざす

 高純度に精製された石油を原料とするプラスチックを分解すれば、再度石油に戻し得るであろうことは誰しも考えるところです。特に原油の殆どを輸入に頼る我が国においては、プラスチックを再び石油として利用できる技術が開発されれば、資源の節約と公害防止の上で大きな福音となることは間違いありません。事実、こうした研究はこれまでも度々試みられてきましたが、実際には種々の難問が多く、大きな進展を見ることはありませんでした。
  こうした中で、北海道工業開発試験所は平成4年度から新規の公害特別研究として「プラスチック廃棄物中の塩素除去技術の開発に関する研究」をスタートさせました。この研究は、廃プラスチックの無公害処理技術を開発し、その再資源化と有効利用を図ることを狙いとしたもので、平成7年までの4年間で、
  ○一般廃棄物から分別回収した塩ビを含む廃プラスチックの脱塩素化・減容化装置の開発
  ○その処理技術の確立
  ○ データ整備が遅れていた廃プラスチックの熔融・分解挙動など熱変化特性と熱物性の測定
 などを行う計画になっています。
 
  研究では既に熱分析装置、塩化水素分析装置、脱塩素化・減容化装置、高品位の燃料油を製造する2段接触分解装置などの開発が終了していますが、こうした装置の開発によって、プラスチックの無公害処理を完成するためには不可欠である正確なデータの収集・分析がはじめて可能になりました。今回の講演は、これらの装置を使って進められている実験の現状について概要を報告したものです。以下にその要点を整理してみましょう(なお、実験には廃ポリエチレン<PE>と塩ビ卵パック<PVC>を混合した試料が用いられました)。

 

PVCの最適な熱分解法を確認 −PEからは高品位の燃料油を抽出

  1)熱分析装置では、PEとPVCの昇温過程における熱変化特性と、40℃から分解・気化するまでのエンタルピー(熱量)を測定できました。PVCが脱塩素化するまでのエンタルピーは、186.0Cal/gでした。
  2)塩化水素分析装置では、PVCから脱塩素化する最適な熱分解法と精度を確認しました。PVCを360℃で等温下で熱分解し、その後500℃以上まで昇温した後、さらに等温下で熱分解すると、PVCの塩素のほとんどが塩化水素の形でガス成分中に分離されることが分かりました。このの工程装置では、PVCの混入量が0.7wt%(重量割合)というきわめて微量の混入量から生成する塩化水素をも測定することができました。
  3)脱塩素化・減容化装置では、PVCが混入したPE(混合5〜15Wt%)を常温から350℃の範囲で段階的に昇温し、ガス生成物と融解固体生成物に分離することにより、塩化水素を99.9wt%以上の高収率で除去することができました。
  4)2段階接触分解装置によるPEの油化では、1段目に450℃の天然ゼオライト(触媒=ケイ酸と酸化アルミミニウムを主成分とする混合鉱物)、2段目に300℃の合成ゼオライトを用いて接触分解すると、ガソリンと灯油の中間の高品位の精製油を収率良く(85.0wt%)得ることができました。

塩ビの無公害再利用を可能にする重要な実験データ、注目される今後の研究

  以上のとおり、北海道工業開発試験所による「廃プラスチックの無公害処理と再資源化の研究」は、着々と具体的な成果を上げ始めています。特に、1.塩ビが脱塩素化するまでに必要な熱量や最適な温度設定(熱分解法)が明らかになったこと、2.塩ビが混入した廃棄物から完全に近い収率で塩素を分離できる可能性が確認されたこと、3.2段階接触分解法により廃ポリエチレンから高品位の精製油を回収できる見通しがついたことなどは、プラスチック(塩ビ)の無公害再利用を実現する上で重要な実験データであり、我々塩ビ関係者にとっては大いに参考とすべき成果だと言えます。
  また、今回報告された油化の実験ではポリエチレンだけが試料として用いられていますが、同試験所ではさらに塩ビが混入した廃棄物についても同様の油化実験を進める計画になっており、当協議会の資源・エネルギー回収ワーキンググループが取り組んでいる燃焼時の塩ビの有用資源回収試験とも関連して、今後の研究の進み具合が注目されるところです。

  

商業規模のプラントなどで実用試験も進行中

  なお、斎藤氏の研究成果である合成ゼオライトを用いた2段階接触分解によるプラスチックの油化技術は、現在、フジリサイクル(兵庫県相生市)の商業規模のプラント(5000t/年間)に用いられており、ここでも様々なデータの収集が進められています。また、講演で紹介された他の技術についても、中小企業事業団の実証実験(実験名=「一般廃棄物中のプラスチック油化のデモンストレーションプロジェクト」)として、一般廃棄物中のプラスチック(塩ビを含む)を処理するパイロットプラント(400t/年間。埼玉県桶川市)に用いられており、3月10日からは一般の希望者にも公開されています。